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#28 激動の先の世界

 今日生まれたという、蝉人間の女性から連絡があった。ダイレクトメッセージで来た。名前はリセさん。スマホには、長文が表示されていた。テレビでは、アナウンサーがニュースを読んでいる。平和な、動物の赤ちゃんの話題だ。蝉人間のニュースは、どこも報道しない。どこにも、溢れていない。


 会って話したい。そう、メールには書いてあった。返信すると、すぐに返事が戻ってきた。鼻から息を吸って、鼻から吐いた。最近は、まともな呼吸などできていない。今すぐ、リセさんと会うことになった。彼と娘も、一緒に来てくれるという。リセさんも、会いたがっているから。支度をして、すぐに出掛けた。


 唇に、力が入らなくなっていた。やさしく生きられている。でも、理想のやや下を行っているような。そんな気がしていた。喫茶店の前に来た。娘を抱えながら。彼を後ろに従えて。コーヒーはまだ飲んでいない。好きか嫌いかも、まだ分からない飲み物。だけど、コーヒーの口はもう、完成していた。扉を開け、中に入ると。手を振っている女性がいた。


「あの。リセです」

「あっ、どうも」

「はじめまして」

「あっ、はじめまして」

「仲良くしてほしいです」

「いいですよ」

「やっぱり、同じ立ち位置の人と仲良くなりたいです」

「そうですよね」

「あっ、座ってください。あっ、旦那さんと娘さんも。今日はありがとうございます」

「あっ、はい」


 女性が、娘をだっこしてくれた。娘がなついていた。蝉のように、くっついて離れなかった。今日が人生初日とは、思えない目をしていた。行動も、立ち居振舞いもすべて。私の初日とは、比べ物にならないくらい、立派だった。彼は、少し笑みを含ませながら、店の外を眺めていた。


 娘は、パパへと戻っていった。女性と、しっかりした握手をした。これから、お互いに相談し合う。そんなことを、約束した。私が先にいなくなるけど、不安はすっかり消えた。女性の肌は、つるつるしている。一生こんな、つるつるが続くのだろう。


 彼の声と、娘の声が馴染んでいる。この声が好きだ。ずっと、脳内に収めようとしていた。アナウンサーに憧れている。女性は、そう言ってきた。少し、言葉が見つからなかった。店内の音楽が、場を繋いでくれた。優しいメロディーだった。私たち蝉人間も、夢を持っていい。そう思わせてくれた。

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