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#27 激動と天国と

 あの美女が気になった。私と同じ、蝉人間の美女。私より、少し先に生まれた美女。あの公園に近いコンビニで、美女の彼が働いている。そう聞いていた。ひとりで、向かっていた。アスファルトが、少し湿っていた。心も、ほんの少し湿っていた。


 美女がどうなったのか。そして、美女の彼がどうしているのか。気になった。美女はもう、天に昇った。そう考えるだけで、鼻呼吸が出来なくなった。何のニオイもない世界が、今はほとんどだ。最初の、何の蟠りもない自分に戻りたい。そう、嗅覚たち中心に叫んでいた。


 透明に、白い文字が書かれている扉。それが自動で開かれた。唾液を搾る感じで、口に力を入れた。酸味をわずかに感じた。探さずして、あの顔に会った。あの彼の顔が、そこにはあった。少し、冴えなかった。明るさのカケラも、感じられなかった。もう美女がこの世にいないことは、想像できた。


「いらっしゃいませ」

「どうも」

「あっ、先日はどうも」

「か、彼女は?」

「はい。いなくなりました」

「そうでしたか」

「特別待遇は無くなりました。前のような、苦しい生活に戻りました」

「ああ」

「でも、前向きですよ。幸せでしたから。勇気を貰いましたから」

「あっ、よかったです」


 青年の目は、死んでいなかった。強さを目の奥に、携えていた。話しながらも、棚に袋入りスナックを補充してゆく。急に浮かんできた。頭の中に、私の彼が。基本はネガティブだ。なのに、ふわふわとしている。つかみどころのない男性だ。脳の中で、動かしてみた。私がいない世界の想像では少し、もがいていた。


 私の彼は、いなくなったら苦しむ。そう考えていた。でも、希望が見えた。肌から、硬さは消えた。柔らかささえ、感じるようになった。青年がポケットから、手紙のようなものを出してきた。薄いピンク色をしていた。それが、蝉人間の美女から、私に向けての手紙だったこと。それは、すぐ察した。


 手紙を左手で掴みながら、コンビニを出た。するとその耳に、救急車のサイレンが入ってきた。急激に音は、大きくなってゆく。やはり怖い。この音は、一生慣れないだろう。突然寿命を迎える。普通の生活が、パタリと途絶える。その恐怖から、無音になった。そして、足は地面に引っ付いた状態になった。

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