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#02 激動をまったりと

 ベッドのようなものに、乗せられている。そして、白い服を着た人に、運ばれている。素早く素早く。それを何度も見た。それは、命を感じる光景だった。私は、そういう運命にない人だ。健康を、保証されている。生まれた直後から、死ぬ直前まで。全力でスキップができる。


 やや上を見た。時計を見ても、まだ全然経過していない。時間がのろい。それも、私の特徴だ。息を鼻で吸って、口から吐く。とても、気持ちがいい。それを何度繰り返しても、時計の針は進まない。それが、臓器に苦痛を与えたりもしない。痛みも何もない。


 財布を取り出して、開ける。お金は十分なほどある。ピンクの財布は、母の趣味か。意外と気に入っている。目はチカチカするが、可愛い。自販機で、ペットボトルの水を買った。すぐに舌に垂らす。そして、一気に流し込んだ。口が生き生きしてきた。


「水が、一番美味しいよね」

「はい。そうですよね」

「長く病院にいると、楽しみを見つけるの上手になるよ」

「えっ、長いんですか?」

「うん。成人になって数年経つけど、半分以上が病院だよ」

「そうなんですね」

「風景で妄想することもあるし、看護師さんで妄想することもある」

「いいですね」

「あっ、もちろん健全な妄想ね」

「はい、分かってます」

「蝉人間さんは、大変かもしれないけど。充実は、できるって聞くから。頑張ってね」

「ありがとうございます」


 キャップとペットボトルを、別々の穴に捨てる。そして、歩いていった。床は、相変わらず白い。隅々まで、白で統一されている。美味しそうなものが、並んでいた。透明の向こうに、カラフルがある。食品サンプルだ。良くできている。レストランか。上には時計があった。まだ私は、生まれて間もない部類に入る。時間は、意外と進まない。


 痒さが出てきた。なぜだろう。私たち蝉人間は、肌も老化しないと聞いている。痒さも、気にならない程度だと聞いている。ずっと、右腕の皮膚を左手の腹で、撫で続けた。一定のリズムで。それをしながら、レストランに入った。


 私を元気に迎えてくれた。店員さんの、若くて優しい声。それが耳から、体内に入る。気持ちがいい。すぐに、窓際に通された。椅子を引きずる音をさせて、席につく。そこに、小鳥のさえずりが聞こえてきた。店内のゆったりとした、ピアノの音色。それが、後から追いかける。私が一番、ゆったりしているかもしれない。そう感じた。

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