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#19 激動のセカンドへ

 娘が、私を見て笑った。そして、私の鼻に手を伸ばした。小さな手だった。細くて、柔らかそうな指だった。私も笑顔になった。見れば見るほどに、可愛く思えてくる。これから先、もっともっと好きになるだろう。リビングは、幸せの色をしていた。


 むずむずした。でも、優しい香りで包まれていた。二人でいるときも、幸せだった。そこに娘が来て、幸せは増えていった。でもその代わり、彼の笑顔は少なくなった。プレッシャーがダメな人だから。私は、彼色に染まり出していた。意識して呼吸をした。それをしないと、彼に押し潰されそうになるから。


 娘は、唇にも触れてきた。とても優しかった。娘の肌は、もちもちしていた。冷たいような、あたたかいような不思議な感触。そんな指に、唇は喜んでいた。ソファにいつまでも、張り付いている彼。ずっと、気になって仕方ない。彼のことを考えると、私も口を開けっ放しにしてしまう。


「ねえねえ?」

「はい」

「準人間から、普通の人間には戻れるんだよね?」

「はい、いちおうは。ハードルが高い試験は、ありますけど」

「やってみない?」

「あっ、考えてみます。そのためには、メンタルを鍛えないとです」

「そうだね。頑張ってよ」

「はい。頑張ります」

「それで今、なに考えてた?」

「短い命だと、誕生日は祝えないんですね」

「まあ、寿命は二週間ほどだからね」

「じゃあ、誕生時間を祝いませんか?」

「うん、おもしろいね」

「毎日同じ時刻になったら、おめでとうするんです」

「よし、やろう」


 今は午前中だ。時計を見た。私が生まれた時刻まで、あと数十分だ。彼が、慌ただしく動く。娘は、蝉人間ではない。でも、普通の人間でもなさそう。こんなはやく、家に連れて帰ることができたのだから。他の家庭は知らないが、はやいことは確実だ。そして、しっかりとした髪の毛が生えていた。隙間なく黒かった。


 私の手を、撫で続ける娘に和んだ。汗も何も、肌には表れなかった。動き回る彼は、今までで一番生き生きしていた。それは、私の誕生時間だからだ。肌の色も表情も、変わってきた。彼がいつも、このくらいの元気でいてくれたら。そう考えてしまった。


 準人間からの昇格試験。それを、彼には頑張ってほしい。将来のためには、合格してもらいたい。でも、動き回ってる彼の足音に、その考えは去った。一瞬で違う考えが、ザバンと波のように押し寄せてきた。他の考え方もある。そう思ったら、いいため息が出た。準人間ごと、法律から無くす。そんなことは、できないか。

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