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#18 激動と生命の連鎖

 娘が生まれた。彼に似て、優しい顔だ。生きていた時間が、二週間に届かなくても悔いはない。少しでも長く、三人で仲良く暮らしたい。彼は、優しい笑顔をしていた。二人は、本当に似ている。こんなに、可愛いんだ。こんなに、小さな手や足をしているんだ。笑顔にならない方が、おかしい。


 私が生まれた、病院にいる。お馴染みの病院の香り。それが、逆にいい。蝉人間に、一番慣れている人物。それは、私だろう。そんな私が、違和感を感じた。娘が、親の私と同じ病院で、同じ日に生まれたという事実に。何も痛くなかった。溢れてきた鼻水に、気を取られている間に。生まれていた。


 夜遅かったけど、同じ日。少し遅かったら、違う日になっていた。私と同じ生年月日の娘。何をしていても、かわいい。喉は、カラカラになっていた。娘に、初めましてと言っていた。それが、初めて娘に投げかけた言葉だった。彼は、静かに笑っていた。


「かわいいね」

「はい。とても、かわいいです」

「私にも、あなたにも似てるね」

「そうですね」

「体調、大丈夫?」

「はい。いつものことなので」

「座ってれば?」

「そうします」


 私は、ピンピンしていた。私は、入院する必要はない。体力は、有り余っていた。むしろ、娘の方が元気が溢れていた。目をパチリと開いていた。でも私は、中途半端な微笑みしか出ない。彼が、床に座り込んでいたから。彼が、低い場所にずっといたから。


 朱音は、私よりも柔らかかった。手も腕も、ぷにぷにだった。全てが、柔らかかった。私には無い時代の体長。私が、経験していない小さな体。それが、羨ましかった。ずっと、触っていたいほどだった。勝手に呼んだ。娘のことを、勝手に朱音と呼んでいた。


 名前は、相談していない。でも、朱音と呼んでいた。アカネという名前は、特に意味はない。でも、そんなものだろう。名前は、自然と出てくるものだろう。朱音が、泣き声とは違う、陽の声を出した気がした。そこに、電子音が鳴り響く。時計の針がふたつとも、真上を向いていた。日付が変わったんだ。私は、蝉人間二日目になった。

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