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#15 激動と広い部屋

 広くて、羽が伸ばせる部屋だ。フットサルが、出来そうなくらい広い。少し豪華な賃貸で、同棲する。彼は隅っこで、縮こまっていた。だが、いつもより、背筋はピンと張っているような気がする。急に環境が変われば、こうなるか。親戚のおじさんの家に、遊びに来ているような。そんな感じの、そわそわを彼は持っていた。


 スムーズだった。息を吸うことと、吐くことを綺麗に出来ていた。蝉人間は、どこにいても、心地よく生きられる。そう感じた。空気が美味しい。やさしい香りがする。彼のことが心配で、香りがたまに、無くなるときがある。でも、それ以外は特に、何もなかった。


 彼が、準人間だからこそ、躊躇った。彼は、自信がない人間だから、少し間を置いた。口はこの事実を、言いたくて仕方がなかった。嬉しい事実が、口元にいる。でも、私たちは、普通の関係ではないということだ。舌と唇は、今、動ける動きの全てをしたと思う。


「ねえ?」

「はい」

「私、妊娠したの」

「えっ、あっ」

「驚くよね」

「あっ、そ、そんな早いんですね」

「うん。特殊だから」

「じゃあ、予定日は、いつになるんですか?」

「ホントすぐだよ」

「今日ってことですか?」

「うん。妊娠してから、一日掛からないから」

「はあ、はい」


 お腹は、もう膨らんできている。お腹のなかの生命が、彼よりも元気なのが分かる。彼は、微笑みながら、私のお腹を見ていた。彼は、この広い部屋という世界にも、慣れてきたようだ。証明写真用の写真が、どこでも撮れそう。そう思うくらい、白い壁の割合が、かなりあった。


 彼が、おそるおそる手を伸ばした。そして、私のお腹を擦る。服の上からでも、しっかりと手のひらの熱を感じた。彼が話し掛けると、なかで動きを見せた。彼の手は、少し浮かし気味にしているようだった。服の上からだが、くすぐったさが、たまに現れた。


 彼の人見知りは、お腹に対してだと出ない。震えない声で、赤ちゃんに声をかけていた。私の鼓膜をくすぐったようで、ふわっと幸せが来た。遠くの方で、車の走行音がする気がする。音はそれだけで、ほぼ静けさのなかにいた。彼が住んでいた、線路近くの部屋。そことは正反対で、まったくうるさくなかった。

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