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2話 とある転生者のprologue(2)~すでに色々音を上げたい


 自分の利益のために悪役令嬢を利用してやるぜ~! とばかりに頭くるくるメリーゴーランドお気楽テーマパークな幼い私は、計画を決めるとさっそくターゲットの調査に入った。


 でもって、私が取り巻きになるべく選んだ「そのまま悪役令嬢」の素質がありそうな高位貴族の令嬢なのだが……。




▶re:play:>>>>


(……素質も何もねぇですわぁぁぁぁぁぁッ! ごりっごりに将来を約束された悪役令嬢いよったわ!!)


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 当時の私のテンションがこれ。気づいたとき正直めちゃくちゃアガった。

 リプレイすると死にたくなる黒歴史ですね。はい。

 記憶の図書館くんマジ優秀なのですが、時にその優秀さが私を殺しに来る。



 私が選んだ「そのまま悪役令嬢」の名前はアルメラルダ・ミシア・エレクトリア様。



 相変わらずこの国の貴族の名前は私の記憶力に喧嘩売ってんのか? こちとら前世の記憶も図書館4D形式でゆとり転生者やっとんのだぞ。長いんだよ。

 ……なんて内心思いつつ、社交場でご挨拶した彼女なのだけど。





▶re:play:>>>>>


 知ってる。

 この間見た物語の中に居た。

 この子、居た!!



 というか、そうなるともしかしなくてもここって乙女ゲームの世界ですか!? 今気づいた!

 あったあったあった! そういう展開の小説、前世の私いっぱい読んでた! 超速理解!


 なんてこったい。私は前世で物語……ゲームだった世界に転生したらしい。


 悪役令嬢ものを好んで摂取していた前世の私、マジナイスですね! ピンポイントで生まれ変わった世界の事知ってるとかなんて偶然?

 自分が物語の世界の人間なんて! とかいう感傷には浸らないわ。だって私の人生について詳しく書かれてるわけじゃないし、気楽なものよ。

 いい攻略本見つけた! ラッキー! ってなものね! ほーっほっほ!


 イェイイェイうぇ~い! 人生勝ったわ!!



<<<<





 そう気づいたわけですね、当時の私。

 それにしても。


(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁァァ~!!!!!! 黒歴史!!)


 おい弄り殺すぞ幼き頃の自分。なんだそのテンション。胃もたれするだろうがよ。よくそれで「精神年齢高い」と思えたな恥を知れ。





 ともかくだ。

 アルメラルダ様は公爵家令嬢。ごりごりのハイクラスお貴族様である。


 私が知る彼女の出てくる物語媒体はゲームだった。

 といっても、それは世間で散々悪役令嬢ものが流行った後に作られた悪役令嬢ものの二次創作とも言える、金のあるオタク共が作った同人ゲーム。

 コンセプトは「実際はあまり女性向け恋愛シミュレーションに存在しないテンプレそのまま悪役令嬢を組み込んだ乙女ゲー作ろうぜ!」だったか。

 プレイしてた前世の私も私だけど、よく作ったな。


 同人ゲームとはいえ無駄にクオリティが高くてエンディングもちゃんとマルチ。その中で悪役令嬢がうける最も重い罪は、殺人未遂の末の処刑だった。バリエーションも豊か。

 そこ以外は結構ふわふわした魔法学園恋愛シミュレーションだったろうがと思ったけど、制作陣はむしろ悪役令嬢の断罪パターンに気合を入れていたというか……悪役令嬢虐特化型乙女ゲームと言い換えても過言ではないので頭おかしい。

 プレイしてた前世人格も同類? ハイ。



 そんな将来を約束されたそのまま悪役令嬢、アルメラルダ様。

 他に出会った貴族のお嬢様は性格が悪くても私より家の格が低かったり、アルメラルダ様以外の上級貴族のご息女は普通にノブレスオブリージュを備えた淑女だったので……私は分かり易く現れた選択肢に私は飛びついた。

 あ、浅はか。



 しかしそれが、計画開始までぬくぬくしてきた私の人生設計破綻の始まりだったのだ。



 原作(笑)知識があるからアルメラルダ様を適度に精神年齢上(笑)の私が導いてあげて、いい人悪役令嬢とまではいかなくても、適度に嫌われて行き遅れるそのまま悪役令嬢になってもらう!


 そんな烏滸がましい考えでアルメラルダ様に近づいた私は、取り入ろうとした一時間後にアルメラルダ様のおみ足に踏まれることになっていた。


 もしこの話を誰かにすることがあったら誤解を招かないため言っておきたいが、私にそういった趣味があって踏んでもらっていたわけではない。ガチにボコられて踏まれました。



 アルメラルダ様、思ってたより全然蛮族だった。



 悪役令嬢と蛮族は……別ジャンルだろうが!!

 踏まれた日の夜にそう言って床ダンしたのも、また幼い頃の思い出である。




 なんでそんな事になったのかと言えば、下手に出すぎてへりくだりすぎて舐められて、虐めのターゲットにされたんですよね。

 公爵って王族の次に偉いお貴族様なんですけどね。普通に暴行してくると思わねぇんだわ。

 おい制作陣、悪役令嬢舐めてるのか。その辺の行動はもっと高貴たれよ。貴族だぞ。令嬢だぞ。悪役令嬢に求められるのは性格の悪さだろうけど武力を伴うそれじゃねぇんですよ。



 でもって、そこからが長かった。



 私は取り巻きというより下僕的な立ち位置で関係のスタートを切ってしまったので、事あるごとにアルメラルダ様から過激な虐めを受けた。

 しかもあんな蛮族なのに立ち回りだけは一級品で、誰にもそれを気づいてもらえなかったから虐めで出来た傷は全て私の自業自得。

 病弱お嬢様の次は、うっかりお転婆ドジっこお嬢様の称号を手に入れてしまったわ。


 けど後悔した時にはすでに後戻りできる時期は過ぎていたから、もうやってやるしかないと奮起した私。

 私、超がんばった。「え、これ普通に婚約してたほうが楽なルートだったねぇ!?」と何度も思ったけど、頑張った。


 地道に交流を重ねて!

 後を追いかけて! 

 踏みつけられようがぶっ飛ばされようが罵倒の嵐を受けようが!!

 笑顔でしがみついていき!!



 途中で「あれ、私この方向性で合ってる? 努力の方針間違ってない?」と一度でも我に帰ればな……意地になってて無理だった。



 そんな事をしている間に、あれよあれよと時は過ぎていき。

 ……アルメラルダ様の取り巻きになったのは、実に七年の月日を費やした後だった。



 ……取り巻きってそんな過酷な試練乗り越えて手に入れる地位だっけ……?

 私の思春期七年の対価としてつりあってないんだが……?


 その辺は考えるとドツボなので、心のダストボックスにシュートした。自分を騙して生きていく術は前世の私に学んでた故に。

 記憶の図書館には永遠と残り続けるけどな! 

 くっ、どこの世界もせちがれぇですわ……!



 そうしてやっと心に余裕を持てた時には十七歳。

 十五歳から入学できる貴族専門の魔法学校に通って二年の月日が過ぎた頃。


 ……めちゃくちゃ原作が始まる年でしたね。


 アルメラルダ様を適度なそのまま悪役令嬢にするぞ! と息巻いていた私は「やっべー」と膝をついた。取り巻きになることに必死でそのほかの事をなんっもしてなかった。

 でも、しかたがないのだ。自分の事で精一杯すぎたのだ。(あと心の癒しのためにアニメとか漫画とか見るので忙しかった)


 だってさ……アルメラルダ様、途中から私虐めがガチすぎて。


 ほぼ毎日アルメラルダ様の元に虐められるために通っていたし、なんならアルメラルダ様のご邸宅に私専用の部屋がある。冷静に考えて怖い。

 というか虐められるために通うってなんですか。でも毎朝公爵家の馬車で迎えに来られたら行く以外の選択肢がねぇのですよ。両親にも笑顔で送り出されるし。

 いやね? どんなに虐げられても(取り入るために)くっついていったのは私だけどさ……。

 おかげで両親が私に婚約者を見繕う暇も無くて、まあ下僕時点で目的は半ば達成されたようなものだったんだけど。実に過酷な七年だった。

 取り巻きになれた今は、あとはアルメラルダ様が適度に行き遅れてから結婚してくれたらいい。それまでアルメラルダ様を隠れ蓑にしてぬくぬく甘い汁すすって文字通りの独身貴族満喫してある程度したら私も結婚、と。



 そうなってやっと、私の七年は報われる。



(でも原作はもう始まってしまう。このままだとルート次第でアルメラルダ様はガチ悪役令嬢として処刑される可能性があるのよね。よくて追放。それはいけない。隠れ蓑がなくなってしまう。こ、これはもうリアタイでイベント潰していくしか……!)


 計画が狂いっぱなしのまま突入した原作時間軸。

 私はそれなりに悲壮感を抱えていた。


 そしてとりあえずイベント潰しのため立ち回ろうと、珍しく取り巻きパーティから離脱し単独行動をしていた私。

 その行動からしばらく後、悪鬼のような顔で私の前に現れたアルメラルダ様。

 ぐいぐい引っ張られて連れていかれたのは、魔法学校の寮にあるアルメラルダ様の自室。




 で。そこで発された言葉がこれである。


「あなたに相応しい男であるとわたくしが認めない限り、交際など認めませんわ!!」


 んんんんんん!?






 困惑する私を前に、アルメラルダ様はじれったそうに続ける。


「誰ですの、さっきの男は!!」

「この国の第二王子ですけど!? アルメラルダ様、記憶力大丈夫ですか!?」


 思わず問いかければ頭をひっ叩かれた。痛いけどこれはまだアルメラルダ様レベル一だ。

 レベル五とかだと拳が顔面に飛んでくる。


「そんなことくらい分かっています。ただ貴女との関係を聞いている、ということくらい理解できませんこと?」

「はぁ……」

「気の抜けた返事をするのではないわ」

「はい!」


 躾けられた体が即座に反応する様子にアルメラルダ様が満足そうに頷くと、優雅に脚を組んだお姿で再度問いかけてきた。




「……で? 貴女と彼の関係は?」




 どうしよう。

 もしかすると原作どうのこうのよりも、これ自分の人生攻略に重大なミスを犯してないか? 私。


 そう気づくもどう考えても何もかもが遅い事だけは理解したので。



(そろそろ、音を上げたい……)


 私はそっと目を瞑り、現実逃避のため記憶の図書館に引きこもった。

 ほのぼの日常系漫画でも読まなきゃやってられませんわ。



「目の前で寝るとはいい度胸ですわね!!」

「あだぁッ!?」



 すぐにアルメラルダ様の拳が飛んできて、そんな暇も泡と消え失せましたが。


 ああああああ~! 私の完璧な人生設計が崩れていくぅぅぅぅ!!









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