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1話 とある転生者のprologue(1)~完璧な計画!そう思っていた時期もありました

「あなたに相応しい男であるとわたくしが認めない限り、交際など認めませんわ!!」


 ついさっきまで初恋っぽい何かに浮かれていた気持ちは今や空の彼方。

 目の前にはぷりぷり怒っている悪役令嬢。


 どうしてこんなことになったんでしょうねぇと、他人事の様に考えながら……私は天を仰いだ。








 同じ金持ちでも貴族の家に生まれるより、成り上がり商人の家に生まれる方が気楽に生きられたんじゃないかなぁ。というのは、五歳の時に思い出した前世の記憶を踏まえての考えである。


 そう。

 この私、ファレリア・ガランドールは前世の記憶を持っている。



 とは言ってもある程度物心ついてから思い出したからか、あくまで前世の私は別人という考え。前の人生が恋しいなとか、そういった感情はないですね。

 ただ私の前世は今生きている世界とはずいぶん文化や常識が違う場所だったらしく、面白くて受け入れた。


 魔法はないけど化学があって、こっちの下手な金持ちより庶民の方がいい暮らしをしていそうな世界。

 そこには個人のキャパシティーから溢れて、たった一回の人生では到底消費できないほどの娯楽が溢れていた。

 中でも創作物の数が素晴らしい。


 世界全部がそうだ、というわけではなかったのだろうけど。少なくとも前世の私が住んでいた国はそうだった。

 アニメに漫画、映画、ゲーム、ドラマ。アクティビティの数々。

 一冊の娯楽小説を手に入れるにも苦労していた私にとって、そこは正に楽園だった。



 ちなみに記憶……とは例えてみたけれど、私のそれはひどく具体的である。頭の中にあって他の人には見えないというのは通常の記憶と共通するものだが、鮮明さが違うのだ。

 これは五歳まで素のままファレリアとして普通に育って、普通に"記憶する"という行為を行っていたから気づけたのだろう。

 多分、前世言葉で言う転生チート、に数えてもいいほどの能力だ。




 目を瞑って少し集中すれば、私の意識は無数の本が納められた空間へと導かれる。




 その本を手に取りひとたび開けば、前世の私が経験した事象が映像、音、香りを伴ってスクリーンに現れる。前世の世界観で言うところ、4D……だったかしら? そんな感じ。


 思い出したばかりの頃はそれが面白くて、半日……下手したら三日はその中にもぐっていた。

 家族や使用人はあまりに私の意識が戻らないから大騒ぎで、幼いころの私のキャラ付けはすっかり「病弱お嬢様」。実際は風邪一つ引いたことが無い健康優良児なんですけどね。

 前世がそこそこいい年齢まで生きてたらしくて、記憶を見る時に加齢による不調まで疑似体験してしまったからね。今からめちゃくちゃ健康に気を遣っている。私、とても偉い。


 でもってそんな幼少期を過ごしつつ、すくすく育っていったファレリアちゃんなのだけど。

 私は運がいいのか悪いのか……。いえ、間違いなく良い方と捉えなければバチがあたるのだけど。貴族の家に生まれてしまったものだから。それなりに義務という奴もあるわけよ。


 貴族の子女となれば、結婚もその一つ。


 そして。




「め、めんどくせー……」

 初めてその考えに至った時の第一声である。





 だって責任とか人付き合いとかそういうの嫌じゃんよ……。

 病弱系お嬢様で通してきたから、幼少期は全部そういうのスルーして生きてこられたんだよ……。

 でもさすがに健康すぎて病弱系で押し通すのも難しくなってきてさ……。

 血色いいわ肌艶いいわ足腰しっかりしてるわで、どう考えても無理だったんだよね……。

 はぁ……。



 だから両親が「そろそろあの子にも婚約者を」とか話しているのを聞いた時、私はどうやってそれを回避するか考えて考えて考え抜いた。

 まだ見ぬ無垢なショタ婚約者を私色で染めてやるぜ☆ とか一瞬考えたけど、あれだ。犯罪者臭すごくて無理だった。嫌というより無理。倫理観の問題。

 前世と私は他人だが、もろもろの記憶が無駄に精神年齢だけ跳ね上げてくれやがったのだ。

 責任とか人付き合いとかはさ。貴族のいい暮らしをさせてもらってるんだし、そのうち諦める。

 でも往生際が悪い私はせめてもうちょっと! 具体的に言うと二十歳過ぎるくらいまで待ってくれ! と足掻いたわけ。そこが最低ライン。

 自分よりもっと年上の婚約者なら……。とも考えたけど、そうなると幼い方の自我が「おっさんは嫌だ! 先に死なれるの嫌だ!」と暴れ出して拒否反応を示す。

 先に死なれるのが嫌、という考えにやっぱり前世の影響で心が変な加齢の仕方してんなぁとうんざりするが、とにかく嫌、という事に変わりない。

 我ながらわがままだし前世の記憶を持っておきながらこれを言うのも皮肉だが、たった一度の人生だ。通せそうなわがままなら通す。


 生まれた意味を探すなんてナンセンスなことはしないけれど、自分の人生に自分の好きな色で着色する努力はすべきだと思うわ。

 これを努力といって良いかは別として。



 そうして考えて考えて。

 やっとたどり着いた、たった一つの冴えた考えがあったというわけよ。



 他にもまあ無くはなかった気もするけど、精神年齢上がろうが子供は子供なのだなと。あとあと思い返して、しみじみと実感したものである。

 ひとつ考え付いたらもうそれしかない! と思い込んでしまったのよね。成長した今だと乾いた笑いしか出ねぇですわ。

 気づいたときはもう後戻り出来なくなっていたから、余計に。





 私が思いついた結婚もとい婚約を先送りにする方法。

 それは「自分よりいい家のご令嬢と仲良くなって、そのお嬢様に行き遅れてもらう事!」……だった。



 何言ってんだこいつ。そう前世の私の意識が呆れていたような気がする。

 成長した私も幼い自分に対して同じことを思ったので、多分だけど私って前世と似た性格に育ってますね……。嫌だなぁ、あれと一緒とか。

 でもどうしてそんな考えに至ったのかといえば前世記憶が原因なので、まあ前世の私は連帯責任だよ。


 ともかく、幼い私は記憶の図書館で得た多くの物語を参考に計画を組み立てていった。


 その計画がこちら。




 ひとーつ! いかにも性格悪そうなお嬢様(家柄が上)と仲良くなって取り巻きになる!


 ふたーつ! お嬢様、性格が悪いので行き遅れる!


 みーっつ! 取り巻きで格下の家柄である私が先に結婚や婚約などとんでもない! とかなんとか言って縁談を回避!



 以上。『義務とか結婚とか子供とかめんどくせぇ! 出来るだけ長く実家でぬくぬく親元独身貴族生活!』計画の虎の巻(作:十歳の私)である。





 完璧だわ。そう幼い頃の私は思っていた。頭メリーゴーランドかな?

 おそらく精神年齢だけ先行してしまったがために、私は自分の頭の悪さに気付いていなかった。マジでやり直したい気持ちでいっぱいです。

 しかし「後戻りできなくなって」から嘆こうと、過去は変えられない。


 記憶の図書館、現行記憶も映像音声付きで保存してくれるからすごく便利なんだけども。思い出したいことがあればネット検索と同じくらいの気軽さで全部思い出せて追憶も容易なので非常に! 便利なんだけども!

 どうせ転生チート貰うなら過去改ざん能力もあればもっと完璧だった。





 さて、私が立てた阿呆みたいな計画だが、その考えに至った元となる物語のジャンルは「悪役令嬢」というものだ。


 悪役令嬢。こう、物語の主人公に意地悪する嫌な奴である。

 しかしどういう進化を遂げたのか、それはいちキャラクターの役職、個性を超えて物語として一大ジャンルとなっていた。

 おそらくこれはギャップ萌え! に似た現象が起きたからだろうと推察している。いや、萌えか? という感じはするけど、ものすご~く大きく大雑把にジャンル分けした場合はそうでないかな。プラス、成り上がりものに似通ったカタルシス?

 人は皆、ギャップに弱いのだ。私も弱いし好きだよ。


 この悪役令嬢というジャンル、悪役と銘打ってはいるがざっくり言うと「いかにも悪役だった令嬢に別人格が入る、もしくは誤解が解けていい人になる」やつである。あまりに流行ってパターンが枝分かれしたため、一概にそう、とは言えないのだけど。中にはガチ悪役街道をいくやつもあるし、それはそれで面白い。

 まあともかく、普段素行が悪い奴が良い事をするとすごく良く見えるし、最悪から状況が上向いて良くなる(周囲が反省しているとなおいい)という……まあ嫌いな奴おらんやろ、という要素の良いとこ取りをしたジャンルなのだ。

 少なくとも私はそう認識している。



 考えが逸れた。

 本題はそこじゃない。



 要は前世の私もそういったお話が好きだったのだ。

 そして良い人的人格をゲットしない状態の悪役令嬢。区別をつけるために"そのまま悪役令嬢"と呼称するが、そのまま悪役令嬢は私が隠れ蓑とするには最適の素材だと思った。




 悪役令嬢には取り巻きがつきもの。

 私はその取り巻きになって、結婚適齢期ギリギリまで実家でぬくぬく甘い汁を吸う生活。




 パーフェクト! マーベラス! ブラーヴォ! エクセレント!


 そう思っていた時期もありました。ボケがよ。






 ああ、この国の守護と豊穣を司る女神様。これは調子に乗った私への罰なのでしょうか。


 愚かな私の完璧()な計画は、開始早々躓く事となる。












※↓以下、表紙絵と主人公のイメージ図があります。作者の自作イラストなので、そういった物が苦手な方はスクロールや挿絵の表示設定にご注意ください。
















挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)







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