ヘタレを動かすのは肉体言語
ハル・クアラトリウス。
年齢、貴族の結婚適齢の平均くらい。特技、暗殺、諜報。趣味、鍛練とコネ作り。職業、騎士団の副団長。
最近、ずーーーーーーーーーと思いをよせていた相手にプロポーズして、その相手か、絶賛逃げられている。
そんな、傷心中の彼は今。
「ほれ、副団長仕事だ」
「おら、はやくしろよ」
「後がつっかえてんだよ」
「なんで俺、出勤しただけでこんなに詰められてんの???」
部下達に取り囲まれて、威圧をされていた。
基本的に見映えがする騎士どもは近衛の方に持っていかれるので、ハルを取り囲んでいる連中(少数だが女性も混ざっている)は、強面しかいない。
ハルじゃなければ泣いていた位にはいかつい。
「おめーがよ」
「いらんことするからよ」
「仕事が増えてんだよ」
「仲良しだね……」
ドサドサっと音をたてて渡された書類は、カトレアからの引き継ぎろう。今までは、口頭で伝えられていたものや、本人から手渡されていたのだが、それらを全部紙に記すとこうなるのかと、ハルは遠い目をした。
「おめーらガキどもの色恋沙汰のお陰でこっちの仕事に滞りが出て、連日残業なんだわ」
ハルの副官の言葉にそうだそうだ、と合唱が始まる。
こうして自分を取り囲んでいたら今日も残業をする羽目になるんでは?と、ハルは思ったが口には出さない。どうせ正論は黙殺される。
だから、別の事を言う。
「ガキて……」
「ガキだろうが。こちとら、お前らの初陣の頃から知っているんだぞ。お前らは幾つになっても、俺達からすりゃガキだ」
「暴論!」
「大体、惚れた腫れたの出来事を、自分たちで処理できない時点で、一人前じゃねえだろ」
「うっ……」
それを言われると弱い。だが、まさかこんな事態になるとはハルは思っていなかったのだ。
「大体」
「あんたがへたれて、団長に大事なことを伝えないからこうなってるんでしょうが」
「うぎ…………!」
増えてきた野次馬どもも事情を把握し始めたらしく、食堂のおばちゃんすらもハルに正論という暴力をぶつけにきた。
「ということで、副団長。ここと、ここの書類の不備、団長に訂正してもらってこい」
「え?」
またもや、ドサドサと書類が降ってくる。何とか両腕で抱えていると、ハルは周りを取り囲んでいた連中に担がれた。
「は?おい、まてお前らなに考え」
ぽーい、と窓から捨てられた。
「貴様ら馬鹿だろーーーー!」
「さっさと、追いかけて捕まえて下さいよ。その書類がないと、今月の給金がでないんで」
「絶対明日の訓練で泣かせてやるーーーー!!!!!」
◆
「やれやれ」
ヘタレな上司を持つと苦労するなと、ハルの副官は遠くなっていく恨み言を聞き流しながら思う。
「あの……」
「なんだ?」
野次馬の一人、戦乱が終わってからの入団者が手を上げていた。
「その、団長と副団長って、そういう関係ではなかったんですか…………?」
あー、とこちらは古くからの戦友達がため息ともなんともつかない声を出す。
「まあ、確かにな」
「ハルの奴、髪飾りとか鏡とか、花とか贈りまくってるもんなあ」
そして、翌日カトレアの機嫌がやけに良いところまでがセットだ。
「カトレアはカトレアで、エスコートはご兄弟以外はハルのしか受けないらしいしな……」
「この前、ハルに粉かけようとしていたどこぞの貴族の令嬢に牽制しまくってたわね……」
「'大会'の前日、一緒に過ごしておられるところを目撃したのですが……」
古参どもからは、状況証拠が山ほど出てくる。確かに、これでそういう関係ではないと言い張るのは無理だろう。
だが。
「覚えておけ、新入り。お前らの団長は超がつく箱入りだ」
「物心ついた頃には、戦場で一騎討ちしまくってたからな。そんで、情緒を育てたのは、物語ときたもんだ」
そう考えれば、ハルの方はまだよく育ったもんだ。カトレアが一騎討ちしてた頃、ハルの方は諜報暗殺の英才教育を受けていた。
「結局、全部ハルがヘタレなのが悪い」