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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

依存の結末

作者: 偽ソース

 よく「運命の出会いを果たした」なんてフレーズを耳にすることがあります。相性がとてもよい二人が出会えば、そう感じるのも無理はありません。一方で、「出会わなければよかった」というフレーズも耳にします。どのような経緯でそう感じたのかは人それぞれですが、はたから見れば意外とお似合いの二人かもしれません。

 佐山恭介さやま きょうすけは生まれて初めて占いの館に来ている。友人が占いにはまっているらしい。


 恭介は、占いにはまるなんて危ないと思っていた。第一、いくらで会社でうまくいっていないとはいえ占いなんかに頼るのは良くない。問題は自分で解決するからこそ意味がある。人は誰も弱る時があるものだ。占いはそんな人間を対象にした悪徳商法である、と彼は考えていた。


(適当なものを高額で売り付けてきたら、絶対止めてやる。)


 恭介は、友人の愚行をここで食い止めてやると意気込んでいた。


 占いの館は、駅前の大通りに面した建物の1階にあった。入り口には、いかにもな偶像のようなものが置いてあり、胡散臭さを放っていた。

 

 友人に促され中へ入ると、これまたいかにもな格好をした人がそこにいた。被っている黒いフードは一部メッシュのようになっていて、そこから彼らを見ているのであろうか。


「お久しぶりですね。今日はどのコースにしますか。」


 喋った。どうやら女性のようだ。壁を見ると、「1回、3000円」と書かれていた。


(やはりぼったくりに違いない。)


 恭介は、3000円を払う友人の背中越しに占い師を睨みながら思った。


 まず占い師は、トランプの数字と文字が書かれたカード、つまり、1から10、そしてJ、Q、Kとそれぞれ書かれている13枚のカードを机に広げた。

 これで一体何をするというのか。Aではなく1であるところも、インチキっぽく感じられた。


 次に、呪文のようなことを口ずさんだかと思えば、急にそばに置いてあった水晶玉に手をかざした。恭介は、そのいかにもな光景に笑いがこみ上げてきた。


「明日は、赤いハンカチを持っていれば良いでしょう。赤いハンカチがなければ、奥の部屋で1000円で売っております。」


「ありがとうございます。」


 友人は礼を言うと、奥の部屋へと進んだ。


(なるほど、ラッキーアイテムは売っていると言う事か。完全な詐欺ではないか。)


 恭介は、どう友人を占いの依存から解くべきかについて思考を巡らせていた。

 その時、不意に占い師が声をかけてきた。



「あなたも占いを希望ですか?」


「いや、私は付き添いで来たまでです。正直、占いというものは信じられないので遠慮します。」


「初回なので無料で占いますよ。」


(無料か......。正直、私が占いにはまることは無い。どうせなら、これを利用するか。)


 恭介は、友人に占いはインチキであることを証明できるかもと思い、占ってもらうことにした。

 先ほどと全く同じように占いは進んで行く。そして、


「明日は赤いネクタイをしてください。もし無ければ奥の部屋へどうぞ。」


「いえ、赤いネクタイは持っているので大丈夫です。ところで、もし赤いネクタイをしていないとどうなるのですか?」


「運が逃げます。」


 恭介は、笑いそうになった。さすがにもう少し具体的なことを言ってほしいものだ。


「何か具体的な例はないのですか?」


 小ばかにしたような表情で問いかけた。占い師は少し黙った後、


「あなたの持っているそのスマホ、水関係の被害にあうでしょう。まあ、安心してください、それで壊れることはありません。」


 予想以上に具体的な回答をされた。しかし、これで明日赤いネクタイをつけずにスマホが水没しなければ、やはりインチキ占い師だということが証明される。


 恭介は、赤いハンカチを買い満足げな友人とともに占いの館を後にした。



(どういうことだ、あんなに注意していたのに......。)


 翌日、彼はそのびしょびしょに濡れたスマホをハンカチで拭き、昨日の占い師の言葉を思い出す。確かに注意深く扱っていたが、濡れてしまったのだ。恭介はデスクでコーヒーをこぼしてしまった。完全に彼のミスだった。

 しかし、コーヒーをこぼしてしまったことがこの会社に勤めて以来初めてのことだった彼は、占い師の言葉に耳を傾けるようになってしまった。



 あれ以来、恭介は占いの虜になってしまった。占い師がいくら金額を上げても占いを信じ切っていた。たまに外れることがあると言われても、その占いを信じ切ってしまっていた。

 最初の頃はまだ疑いの心を持ちながらではあったが、その2,3回で占いが当たったことが彼を依存させる大きな要因だった。

 

 1か月もたてば、彼は周囲の人間に占いの効果を語るようになり、気づけば周りに人はいなくなっていた。最初に誘ってきた友人でさえ、彼の信仰ぶりにはついていけなかった。 

 それでも占いの効果を理解しようとしない者に対し軽蔑するような視線を向け、自分だけが本当の理解者であることを心地よくも思っていた。



 ある日、いつものように占いの館へと入る恭介。しかし、今日は何やら様子がおかしい。毎日通っている彼は気づいていた。どことなく、占い師がバツの悪そうな雰囲気をまとっている。そして、


「ここには、もう来ないでほしい。」


 そう言われた恭介は理解できなかった。毎日、金をつぎ込んでいる彼にとって、それは死刑宣告のようにも感じられた。


「なぜだ、金ならある。何が理由だ?」


 必死に彼女に問いかける。


「申し訳ありません。実は私は占い師ではありません。」


 恭介の耳には届かなかった。彼の感覚だけが、時が止まっているかのように思考を鈍らせた。


「今まで騙していて申し訳ありません。でも私もこのようなことからは足を洗いたいのです。人からお金をだまし取るのは苦痛です。いままでの分は返します。本当に申し訳ありませんでした。」


 恭介には、彼女が何を言っているのか理解できなかった。今まで彼女の占いに幾度となく助けられていたからだ。


「いや、返さなくていいですよ。だって、あなたは本物ですから。」


 もはや恭介の目に光は宿っていなかった。

 占い師は恐怖を覚えた。話の通じない人間への狂気を感じ取ったのだ。


「本当に申し訳ありません。私は......。」


 そう言いかけたところで、彼女は倒れた。恭介に包丁で刺されたのだ。その包丁は昨日、彼女が恭介に買わせたものだった。

 意識がだんだんと薄れていく中で、彼女は「やはり、悪いことはするべきではなかった......」という後悔だけを思っていた。

 

 彼は血の滴る包丁を眺め、彼女を見下ろした。


 彼女がいつも使用していた机には、いつものように13枚のカードが並んでいたが、彼女が倒れる際にずれてしまい床に落ちている物もある。

 彼は近くに落ちているカードを見てみると、「7」が2枚、「1」と「K」がそれぞれ一枚ずつあった。13枚のうち血が付いているカードだった。

 それを見た彼は満足そうに


「やはり、あなたは本物の占い師だ。」


 と呟き、笑みを浮かべた恭介は占いの館を後にするのだった。


 恭介が出ていき、占いの館は静まり返っていた。この占いの館はぼったくり店で有名だったから、誰も入ってくることは無いだろう。

 死を覚悟した占い師は、最後まで彼女のことを本物の占い師であると言っていた恭介の言葉の意味を考えていた。ただ適当なことだけを言っていたのに、なぜあんなにも彼は信じていたのだろうか。


 だんだんと薄れていく意識の中で、彼女は床に落ちているそばにあるカードを見た。


 彼女も彼も運がなかった。彼女は予想以上の手ごたえに怯え、彼に本当のことを打ち明けてしまった。彼は最初の数回、偶然が続きすぎた。この二つの出来事でこのような結末を迎えてしまった。

 

 そばにあるカードを見ながら彼女もまた自分の運命を悟ったのだ。


 何かの偶然か、恭介の位置からはちょうど「KILL(殺す)」と読むことができたのだ。






 投稿後、2日ほどは内容を変更することがあります。本来は、投稿前にチェックすべきなのですが、変更したい点は投稿後に出てくることが多いです。大きく変えることはありませんが、少し文をいじったりすることがあるのでご了承ください。

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