3行目
なんだかもうどうでも良くなってきた。
小さい頃から憧れた異世界。
ワクワクする冒険、仲間との友情、そしてハーレム。
そんな夢物語が現実となった。現実となるはずだった。
「いや、計算でどうやって敵を倒すんだよ!」
俺は叫んだ。誰も応えてはくれない。
目の前の画面は計算結果はすぐ出るのに、こういった問いには何も役に立たない。
とりあえず色々とこのエクスルについて調べてみた。
俺の意思で自由に画面を出したりしまったりできる。
近くにいたリスみたいな生き物を画面に乗せようとしたが、すり抜けたため画面は俺にしか操作は出来ないようだ。
そして肝心のソフトの中身は、俺が数時間前まで仕事で使っていたものと全く変わらなかった。
絶望だ。このままでは魔王は愚か、スライムとすら戦えない。もう一回死んだら転生してくれるかな。
そんなことを考えていると、茂みから音がした。
「何だあれは?」
茂みから現れたのは頭は犬、体はヘビのような生き物だ。
「あら、可愛いワンちゃん。俺の傷ついた心を癒すために来てくれたのかなー。」
頭を撫でようと手を伸ばすと、
『ガブッ』
思いっきり手を噛まれた。
「痛ー!何だこいつ!」
手をブンブン振っているが歯が食い込んで離れない。
「このやろー!」
思いっきり地面に叩きつけようと腕を振りかぶった。
しかし、
「くぅー?」
か、かわいい!その純粋でつぶらな瞳は、思わず、どうする?お金を貸す?と言っているかのような瞳だった。
「だめだ!おれにはできない!」
腕をそっと下ろした。
すると食い込んでいた歯が外れた。
「お、離してくれるのか。何だいいやつだな…」
『ガブッ』
また噛まれた。やっぱり痛い。
しかも先程は手首あたりだったが、今度は肘の手前くらいまで来ている。
あれ?なんか徐々に飲み込まれていってない?
あー、なるほどね。そこはヘビの要素ね。
って、違う!
「いやー!やばい!噛まれる!離れない!飲まれる!消化されるー!」
この世界に来て一時間弱。最大のピンチを迎えたのだった。