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「そうですね、失礼しました。我々も勇者という言葉に敏感になっておりまして。」
「それはなぜ?」
勇者という名前の虫でもいるのだろうか。
「実はこの街に勇者が来るのは初めてではないのです。というか多いときは月一くらいで来ます。」
「そんなに!?」
「そして、皆さん口をそろえて『私が勇者だ。』、『私が来たからにはもう大丈夫!』、『魔王は私が倒す!』と息巻いていくのです。」
「ほうほう。」
「そして、いまだに幹部一人すら倒されておりません。」
「そんな馬鹿な!?」
勇者にはチート能力があるはず。それがあれば幹部程度なら楽勝ではないのだろうか。
「みなさん自慢げに自身がいかにすごいかを語っていましたよ。」
「じゃあなぜ!?」
「はぁー…」
またため息をつかれた。あとでこの店通報してやる。
「かつて、圧倒的な魔力量を持っているという勇者が来ました。」
それは俺も考えた。一歩も動くことなく敵の大群を一瞬で倒したりなんかして。
「その勇者は、魔王軍幹部に魔法が使えなくなる呪いをかけられて山に引きこもりました。」
「え!?」
「あるときは、絶対に死なない無敵の肉体を持つという勇者が来ました。」
それもいい。敵の凄まじい攻撃を受けても土煙の中から無傷のまま出てくるやつな。
「その勇者は、永遠に溶けない氷の中に封印されました。」
「ひぇ!?」
「最近では、勇者にしか扱えない圧倒的な力を持つ剣を持っているという勇者が来ました。」
それだ!まさに俺が求めていた異世界生活!これがあればさすがに魔王軍も余裕な…
「その勇者は、武器を奪われて泣きながら帰ってきました。」
「ひどい!ひどすぎる!」
「それはこちらのセリフです。どの勇者も自分に見合っていない力を持っているからか、魔王軍に無謀に突っ込んだり、なぜか敵の前なのに余裕をかましていたり、すぐにやられるのです。」
確かに、そんな力を持ってると格好つけたくなる気持ちはわかる。
「とにかく、勇者と名乗る方たちはお金は持ってないし、口ばっかりでロクな活躍をしないのでこの街ではあまり好かれてはいません。あなたもなるべく勇者であることは口外しないことをお勧めいたします。」
………、こんな勇者は嫌だ…。




