09_ワイバーン討伐 その前に...。_後編
クエストカウンターのバックオフィスの空いている場所で、パパっと昼食を食べたライガは、売店へと向かった。
ここの売店は、冒険者ギルドの中にある売店なだけあり、冒険者が必要としているアイテムが一通り揃う。
宿泊者に必要な石鹸や髭剃りなどのアメニティーも揃うし、長期野営用のテントや保存食、コンロ等。虫よけや魔獣除けのお香や低級ポーションや短剣に長剣、盾などの武器や武具も置いてある。装備品関係に関していると、初心者用や臨時用の物を中心に取り扱っているが、良く見ると、意外と玄人好みの物も置いてあり、侮れない。薬草採取キッドや簡易魔獣解体キッドなどもあるし、クワッツの観光土産なんかも、ついでに置いてある。
ちなみに、ライガはここで売っているワイルドボアサブレを殊の外気に入っている。
ライガは、売店に到着すると、先日冒険者になったばかりの“自称”勇者になる男ロキ君と他2名が一番奥の装備品棚で、物色している所だった。
3人に気づかれない様に、ライガはそっと彼らの様子を窺う。
「最初にワイバーンをババ―ンとやっつけて、鮮烈デビューを飾ろうと思ったんだがな。」
いや、だから無理だって。
「本当だよ、ロキ君!僕たちなら、何の心配もないさ!」
もう一人も、うんうんと頷く。
「それなのに、回されたのは薬草採取だなんて!」
いや、薬草採取も、けっこう技術が必要よ!
途中で魔獣に遭遇する怖れだってあるし!
「とはいえ、武器を殆ど持っていなかった我らにも非はある。」
え、“殆ど”って どういう意味?
ねえねえ、殆どってどういう意味!?
「おい、ライガ!そこで何をやっておるんだ?」
少年冒険団の話を、夢中で聞いていたら、後ろから突然話かけられた。
やっべ。
3人に見つかった。
「あ、ギルドのおっさんじゃん!」
せめて、お兄さんと呼んで!
「なあ、どの剣が良いと思う?
って言っても、戦闘職じゃないから、わかんねーか。」
「そうですね。”詳しく“はわからないですが、”ある程度“ならわかりますよ。ちなみに、皆さんは、今、どんな武器をお持ちなんですか?」
とライガはニッコリ笑って、三人に促す。
見せてくれた三人の武器は、ロキが年代物の長剣で、後の二人は短剣だった。
アレっ、この剣、意外と良い奴?
しかし、なぜ短剣でワイバーンがいけると思った!?
「な、なるほど...。」
しかも、彼ら、年会費が払えるほどの所持金はなかったよな。
「ちなみに、皆さんのご予算は?」
「一人100パクロだ。」
「...。」
コホンと咳払いをし
「例えば、こういうのはどうでしょう?
隣の装備品修理センターで今お持ちの剣を研磨に出す。
短剣が20パクロ、長剣も、そのサイズでしたら40パクロ位ですね。
剣は研ぐだけで、数段切れ味も変わりますよ。」
うん、見たところ、しばらく研いだ様子もなさそうだし。
「で、残りの所持金で2階の研修センターで、講義を受ける!」
「研修なんて、俺たちには必要ねえよ!」
「そうですか?
意外と知らない事を教えてくれるので、役に立ちますよ。
薬草の見分け方とか、採取方法とか。薬草もね、質が悪いと報奨金が満額出ない事もありますし、馬鹿に出来ないんですよ。ほらっ長旅に出た時とか急に病気になっても、知っていれば役に立ちますし、それが、生死を分けることもある...。」
とライガが話すと、三人は、ゴクリと喉を鳴らす。
「それにね。ここだけの話。上位印の冒険者も結構うちの講座受けに来るんですよ。」
と片手を口に副え、小さな声でライガは駄目押しで話すと
「な、なるほど!それは、良い事を聞いた。
た、立ち寄ってみても良いかもな。」
よし!修正、出来たぞ!
気が変わらない内に、話をまとめてしまえ~っ!
「もし宜しければ、私がご案内いたしましょう!
マリーさん、申し訳ないのですが、また来ます。」
暖かい目をしたマリーに見送られ、
とりあえず、三人の剣を修理センターで預かり、二階の研修センターへと案内する。
階段を上って、左へ曲がり、研修センターへ。
クワッツ冒険者ギルドでは、冒険者の安全とレベルアップ為に各種座学と実技の講座を取り揃えている。
剣術、魔術を始め、薬草学や魔獣の解体法、武器の選び方や応急処置法まである。変わり種としては、「利きエール教室」や「貴族に会う際の平服・礼服着こなし術」などある。
ちなみに、意外と人気なのは、「野外炊飯教室」と「算術とお金の管理法」だ。
食べ物とお金の切れ目は、縁の切れ目らしく、最初は受講しない者が多いが、パーティー運営を失敗した冒険者は、その後、だいたい受講しに来ている。
大切な人材をうっかり死なせないように、底上げするのもギルドの仕事である。
ただし、どの講座もギルドで準備しているのは、ある一定のレベルまでの講座まで。
もっと専門的なレベルを求めるのであれば、高い専門書を入手したり、アカデミーに入るなど方法はあるが、どちらもお金がかかる為、貴族や大商人でもない“普通の”低印冒険者には難しい。
腕を上げるには、経験を積みつつ独学でがんばるしかない。師匠を自分で見つけて、その下に着くなど方法はあるにはあるが、良い師匠に出会うにも運や伝手が必要だ。
つまり、ある一定以上のレベルに上がるには、自分の才能と努力と運でなんとかしていかないといけない。
とはいえ、ギルドで取り揃えている講座は、幅広く取り揃えているので、冒険者の皆さんには結構人気だ。金額も内容のわりに割安なので、なりたての冒険者には、うってつけである。
が、このお得感に気づいていない冒険者も多いのも事実で、今後、広報活動の必要性をライガは、真剣に考えている。
初回限定割引券でも、最初の冒険者パックに着けておくのも手かな...。
さて、三人を二階にある研修センターへと案内し、受付職員に誰がいるかな。と探していると、講座の開始前らしく、受付職員は誰も忙しそうだ。他に誰かいないかな?と見てみると、クワッツ冒険者ギルド人気講師の一人であるディオナを見つけた。
「ディオナ先生!すみません。彼らに講座を選んでいただけませんか?」
「あら、君たち。この研修センターは初めて?」
「「「 は、は はい!」」」
ディオナ先生が対応してくれるとは、運が良いぞ、”俺”!
ディオナは、口元にホクロがあり、眼鏡をかけていて、服装は決して露出度が高い物ではないのに、妙に色っぽい。男の子が一度は夢見る“イケナイ教師風”だ。
三人もポーっと赤くなっている。
彼らも、彼女のアドバイスなら直に聞いてくれるに違いない!
「そうなのね。今、何の依頼を受けているのかしら?」
「ワイバ...「ガリア草の採取です。」
ロキの言葉を遮り、ライガが答える。
ロキは、さっと顔を赤くして、ライガをキッと睨む。
言わせねえよ。
ここで見栄はって、どうするのよ。
まっ気持ちは、わかるけどな!気持ちはな!
「まあ、そうなの。ガリア草なの。
冒険者にとって、ガリア草は基本。
基本をしっかり押さえるなんて、みんな偉いわね。」
とディオナはニッコリ微笑む。
さすが、人気講師!
彼らのツボがわかってらっしゃる!
ほら、三人とも改めて頬をポッと赤くして照れてるし!
「そうしたら、この“薬草の見分け方とその採取と保管方法 その1”っていうのが、おススメよ。どうかしら?」
「「「はい! お願いします!」」」
はい!まいどあり!
その後の講座登録をディオナにお願いし、ライガは売店へと戻った。
ちなみに、その翌日、ライガが装備品修繕カウンターの前を通ると、三人組の興奮した声が聞こえてきた。
「すげー!ピカピカだ!!」
「すげーな!」
そうだろう、そうだろう!
と、彼らからは見えない場所でうんうんと頷いくライガ。
「これで、ワイバーン討伐も問題ないな!」
うん、だからそれは無理だって!
とガックリと肩を落としているライガに、同じく短剣を引き取りにきたジークハルトはライガの背中をバンバンと笑いながら叩き、バール爺は新米冒険者を温かい目で見ていたのだった。