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07_金印冒険者の宿選びの条件

「よう、ライガ!昨晩は大変だったな。」

と宿泊常連のアルフレッドにライガは声をかけられた。


「昨晩はお騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした。」

「良いって事よ。ここは冒険者ギルドだ、まあ、色々あるわな。」とガッハッハと笑う。


「蛇って、冒険者の中で流行ってるんですかね?」

「?イヤ、そんなことないと思うが。」

「そうですか。」


「そうだ、ライガ。俺達、後1,2週間滞在しなきゃいけなくなっちまってよ。

どこか適当な所探してくれねぇか?」

「承知しました。そしたら、1階の運送部の反対側に担当者おりますので、ご案内しますね。」

「ああ、ありがとよ。」


アルフレッドは金印と銀印の冒険者で構成されたパーティーの代表だ。


普段は、クワッツから見て南東に位置するウルノという街を拠点とし、ウルノ近くにあるダンジョン攻略に精を出している。たまにクワッツ近くの森に出る魔獣討伐に指名依頼が入ると、ウルノからクワッツへと駆けつけてくる。


そして、彼らはクワッツの街に来る度に、ギルの宿泊施設を利用する。


沢山稼いでいるのだから、他のもっとサービスの充実したホテルに泊まれば良いのに、と思うのだが、なぜか気に入っているらしく、毎度ギルド内の宿に泊まるのだった。


いつもは、だいたい一週間弱の滞在なので、問題ないのだが、今回の滞在は、どうやら一週間を超えるらしく、ライガに声をかけてきた。


「久しぶりじゃないですか?

 アルフレッドさん達が、クワッツに一週間以上滞在するなんて。

 そんなに大きな討伐依頼って出てましたっけ?」

「いや、当初はそんなつもりなかったんだがな。

 おまえらなら、聞いてるだろ。」

と辺りをキョロキョロ見回し、アルフレッドは小声で話し始めた。


「森に妙な死体が出たって話。

 あれでな、ちょっと調査するにあたり、護衛の指名依頼が入るっぽいんだ。」

「でも、その場合って、通常、領主様の所の兵団から出しませんか?」

「なんかな、王都からやってくるお偉いさんの日程と丁度被るらしくてな、そんで、こっちにお鉢が回ってきたらしい。」

「ああ、なるほど...。」


と言いながら、ライガは、頭の中でそろばんをはじいていた。


通常の依頼、依頼主の出す金額の10パーセントがギルドの元へ手数料として入ってくる。しかも、今回金印と銀印のパーティ且つ指名依頼ってことは、結構な金額になりそうだ...。


ちなみに、依頼主が出す金額の30%が税金としてクワッツ領に徴収されるので、実際に、冒険者の手元に残るのは、全体の6割程度である。


「ちなみに、その死体の殺され方に、心当たりありますか?」

「いや、今の所ないな。ダンジョンの中の魔獣も、そういった類のものは、今までにエンカウントしてないし。」

「そうですか...。もし、何かお気づきの事があれば、何でも教えてください。他の冒険者達に注意を呼びかけなければならないですし。」

「だったら、お前も一緒に来るか?」

「いえいえ。私は、遠慮しておきますよ。皆様の足手まといになるのが、目に見えているので。」

「またまた、そう言わず!」

とアルフレッドはニヤニヤしていた。

「ほ、ほら、着きましたよ。」


階段をおりて左側にギルドのサービス関連施設がまとまって営業している。


一番奥左手には、売店、その隣が装備品の簡単なリペアとクリーニング、その隣に服の洗濯サービスカウンターがある。


装備品と服のクリーニングは入り口は一つで、部屋の中で別れている。その入り口の横に、簡易不動産カウンターがある。この簡易不動産は、1ボット強位の狭さで、所狭しと物件情報の紙がベタベタと壁に貼り付けてある。


ちなみに、その通路挟んだお迎えには、運送サービスと一時荷物預かりサービスのカウンターが営業している。


不動産カウンターで案内できる内容は、街の宿、長期滞在者向けのサービスアパートメント、賃貸物件に、大きなお屋敷の売買物件まで、取り揃えている。

ここでの主力商品は、長期滞在者向けのサービスアパートメントになるが、まれに金印や白金印の冒険者が多額の報奨金を手に入れた際に、勢いで“うっかり”家を購入する事もあるので、馬鹿にできない。


さすがに、物件案内は、ギルドスタッフでは不可能なので、商人ギルド経由で人を派遣してもらっている。主力商品がサービスアパートメントなので、派遣されてくる人員は、ゴリゴリのベテラン不動産屋というよりは、まだ自分のお店を持てない独立を希望している人が実地練習替わりに派遣される。そして、独立を夢見ているだけあって、情熱だけが有り余っているせいか、空回っている事も多い。



不動産カウンターの入り口を除くと、から回っている人代表とも言えるエンツォが他の冒険者の対応をしていた。どうやら、1年間クワッツに滞在予定で、賃貸物件を探しているようだ。そしてエンツォは一生懸命、物件の良さをせっせと汗をかきながら、その冒険者に売り込んでいるようだった。


これはしばらくかかりそうだな...。


「アルフレッドさん達って、宿かサービスアパートですよね。」

「そのつもりだが。」

「承知しました。今準備してまいりますので、少々お待ちいただけますか?」

「ああ。」


「エンツォさん、エンツォさん」

エンツォの話が一旦途切れた所で、ライガはエンツォに小声で話しかけた。

「あちらのお客さん、宿かアパートメント希望らしいんで、俺の方で話聞いておきますね。」

「え、え、でも...。」

「エンツォ、そろそろ賃貸物件、決めたい頃じゃないですか?」

とチラッとエンツォが対応している冒険者を見る。

サービスアパートとか、どこも内容殆ど変わらないし、他に行かれるよりは、良いと思うんですよね。」

「わかった。そうだね。ありがとう。」


冒険者は、せっかちな人が多い。アルフレッドはそこまでせっかちではないが、それでも「今すぐ対応してもらえないなら、じゃあ、また今度。」と言って、街で見つけられてしまったら、ギルドには1パクロも入ってこない。


1回のマージン位なら大した事はないが、それが続くと、「たまたま対応してもらえなかった。」から「いつも対応してもらえない。」と認識され、それが冒険者の中で広がってしまのは避けたい。なんだかんだで、この界隈は狭い世界なのだ。


宿とサービスアパートメントの資料を持って、アルフレッドの元へと戻る。


「お待たせいたしました、アルフレッドさん。ここ今座る所なさそうなので、2階の応接室へご案内しますね。」

「気遣わせてしまって、悪いな。」

「いえ、お気になさらず。」


再び階段を上がり、左手にある応接室の3つあるうち、空いていた一番奥の部屋へと案内する。


「さて、アルフレッドさんのパーティーは、アルフレッドさんを含め5名でよろしかったでしょうか。」

「男3人、女2人だ。」

「全員個室をご希望されますか?」

「リタとエリザは同室で大丈夫だ。

 男3人は、いびきが酷くてな。個室、希望だ。」


「承知しました。ちなみに、アルフレッドさん達って、毎回ギルドの宿泊施設ご利用いただいてるようなのですが、理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。こちらとしてもありがたいのですが、金印までになると、ギルドなんかより、よっぽどサービスの行き届いたホテルに滞在されても、懐は痛まないかと。」


「ああ、俺たちも悪かったんだがな。昔クエスト終わって泥だらけで帰ってきたら、ホテルの従業員や他の宿泊客に嫌な顔されてな。まあ、その時、魔獣の返り血も浴びてたから、余計にな。今は、一応気を使って、洗浄魔法をリタにかけてもらってから、宿に入るようにしているんだが。まあ、色々気をつけるのが面倒でな。ギルドだったら、その辺、さほど神経質にならなくて良いし、情報もすぐに入ってくるし、冒険者にとって助かるサービスが色々と併設されているから、何かと便利なんだよ。」


「なるほど。」


アルフレッドの話を聞きながら、どこを案内しようかと思案する。

ギルドの宿泊料金は、二人部屋1つと一人部屋3つで合計340パクロか。


「とりあえず、今3つほど、ご案内しますね。それで条件を探りながら、一緒に考えましょう!」

「ああ、頼むよ。」


「はい。では、1つ目。金額はだいたい今と宿代が一緒で350パクロ程です。ただ、ご存じのようにクワッツもそれなりに大きな街なので、宿代はどこも高いです。なので、350パクロの部屋だと、“それなり”という事になります。場所はイボンヌ通りの近くになります。まあ、“夜遊び”には大変便利かと。」


「リタとエリサが嫌がりそうだな。」

とアルフレッドはニヤつく。


「2つ目は、700パクロ。職人街近くにある宿になります。二人部屋が280パクロ、1名部屋が140パクロです。トイレとシャワーは部屋に完備されてますが、風呂はついてません。あ~あと朝食がついてますね。ここの朝食はおいしいと評判ですよ。まあ、クワッツの平均的な宿ですね。」


「なるほど。」


「最後は、一番おススメですね。金額は1700パクロと“ちょっと”お高いのですが、住宅街エリアとはいえ、表通りに面しているので、買い物にとても便利です。森へ通じる門にも近いですし。メゾネットタイプで二名部屋2つに1名部屋が3つついている部屋で、キッチン、バス、トイレ、あとリビングも付いているので、だいぶプライベートは担保されるかと。サービスアパートメントなので、賃貸物件と違って、毎日簡易清掃と備品交換が入ります。」


「結構良い値段するじゃねえか。」

「そうですね。ただクワッツの平均一人単価が140パクロ~150パクロなので、このサービスアパートだと1採り単価が300パクロ、これだけの設備がたった3倍ちょっとで使えるのは、お値打ちです。ちなみに、シャンプー等のアメニティーはロンティアーヌなので、女性陣には高評価と。」

「う、う~む。」

「それと、ギルドからの紹介なので、ここから5%割引させてもらいます。」


もう一押しか?

と眉間に皺を寄せているどアルフレッドを見ながら、ライガは思う。


「2週間ほどのご滞在という事なので、最初の一週間だけ使ってみて、もし違う場所が良いというのなら、また別の拠点を探すというのはいかがでしょうか。とりあえず、仮で押さえておきますので、パーティーの皆様にご意見を聞いてから、決定してみては、いかがでしょう?」

「じゃ、じゃあ、それで。」

「はい。ありがとうございます。これ、このアパートの概要です。皆様で見てみてください。」



「エンツォさん。お疲れ様です。」

「お疲れ。ありがとう。」

「いえいえ。さっきの賃貸のお客様どうでした?」

「いや、ちょっと考えてみるって言って、逃げられてしまったよ。」

「そうですか。」

「ライガ君こそ、どうだった?」

「ああ、そうだ。この前一押しって言ってた商業・住宅エリアにあるサービスアパートメントになりそうです。仮抑えってお願いできますか?」

「え?あそこに決まったの?結構あそこするよね?」

「まあ、“仮”なんで、後でキャンセルになってしまうかもですが。その時はすみません。」

「いやいや、ありがとう。」


その後

結局アルフレッド達パーティーは、

ライガが一番おススメしたあのサービスアパートメントに決めた。


女性陣のロンティアーヌ推しもあったが、男性陣の「持ち込んだ魔獣を料理してくれるという珍しい店から一番近い!」という理由で確定したらしい。自分が討伐した魔獣を肴に飲む酒は、格別らしい。


それを聞いたライガは、今度あの物件を紹介する時は、その事をセールスポイントに攻めてみようと心に決めた。のを見たミシカは、「お前はいつから不動産屋になったのだ!」と突っ込まれていた。


以来アルフレッド達は、クワッツに来る度に、ギルド経由であのサービスアパートに滞在している。


それを知ったライガは、不動産屋冥利に尽きる!とうっかり思ってしまったとか、思わなかったとか...。



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