06_従魔は、家族か否か_後編
その日ライガは、終業の鐘が鳴っても、仕事が終わらず、自席で一人もくもくと仕事を片付けながら、この前ギルマスに呼ばれた時の事を思い出していた。
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「森でな、男の死体が見つかったらしい。」
「朝、いらしたロックウェル隊長って、その事ですか?」
「ああ」
「追剥ですかね?その程度ならうちに情報持ってくるなんて珍しい。しかも隊長自ら、わざわざ来るなんて。」
「それがな、その死体なんだが、背中に獣の爪でひっかかれたような傷があったらしいんだ。」
「魔獣ですか?でも魔獣の類だったら、その場で肉全部食い散らかしてしまうから、見つかっても骨だけか。」
「奇妙だろ?しかも、その死体、ミイラのように干からびていたらしいんだ。」
「「ゲッ」」
「で、ロックウェルがウチに、そういった魔獣か、魔術を使う者に心当たりはないか、聴きにきたってわけだ。というわけで
おまえら、何か、心当たりねえか?」
「いや、特殊過ぎて何とも。」
「だよなぁ。ヤツも王都の専門家に問い合わせはしてるみたいなんだがな。何か手掛かりはないかと、うちにも聞きに来たらしい。一応、この事は、しばらく秘密らしい。まあ、心に止めておいてくれ。」
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背中の傷はともかく、死体が干からびているっている事は魔術の類?
それとも、アンデット系の何かだろうかと、つらつら考えていると、突然、「ウワァーーーッ」と野太い男の叫び声が、上の階から聞こえてきた。
急いで階段を登り、声がしたところを探す。
二階にあるのは、会議室、診療室と研修センター、ギルマスの部屋に後は備品庫なので、この時間は誰もいないはずだ。
もう一段階段を上ってみると、大きな体躯をした男が柱の隅でブルブルと震えている。他の宿泊者達も何事かとワラワラと出てきていて、辺りは騒然としていた。
ライガは、急いでその冒険者の側に寄り
「どうされましたか?」
と男がこれ以上怖がらないように、そっと声をかける。
「へびが、へびが...俺の部屋に......」
「蛇?」
ライガは蛇と聞いて、1つしか思い浮かばなかった。
マジかよ。
男の部屋の番号を聞き、部屋の扉を開けると、ベッドの上にヌークパイソンがグルグルととぐろを巻き、青い舌をチロチロ出しながら、鎮座していた。
ああ...やっぱり。
とりあえず、叫び声を聞いて外に出ていた他の宿泊者達を部屋に戻し、後から駆けつけてきた職員に震えている男を頼むと、今日の昼間に来た女の冒険者の部屋の扉をノックした。
が誰も出て来なかった。
何度か、ノックしていると
「ぼうや、私に何の用?」
と公衆浴場から帰ってきたらしい昼間の女冒険者がライガの後ろに立っていた。確かに”比較的”童顔ではあるが、成人している自分に「坊やは酷い!」と思いながら、ライガは尋ねる。
「夜分、すみません。別の部屋にヌークパイソンが出没しまして、ひょっとして、お客様のヌークパイソンではないかと思いまして、念のため、お部屋の中をご確認させていただくことは可能でしょうか?」
それを聞いた女冒険者は、さっと顔を青ざめ、ライガを押しのけ、急いで部屋に入った。
ライガもその後を追うように部屋に入る。
「いない!いない!! うちのリンダはどこよ!」
とライガの襟元を掴みながら叫ぶ女冒険者。
「お客様、落ち着いてください。今からご案内いたしますので。」
女冒険者をなだめながら、部屋の様子を窺う。
ケージはあるが、扉が開いており、鍵をかけた形跡はない。
やっぱり。
そして、ラベーロが使っていた為か、掃除したとはいえ、ほんのり、薬草の匂いがした。
薬草の匂いに反応して、逃げたのかもな。
部屋を出る際、気づかれないように、部屋全体に洗浄魔法をかけ、ライガは、女冒険者をパイソンが寛いでいる部屋へと案内した。
「リンダ!リンダ!どうして出ていったの?
ママ、心配したのよ!」
と叫びながら、パイソンの元へと走っていき、彼女の頬をパイソンの口元へとくっつけ、スリスリとすり合わせていた。
そして、ライガと駆けつけてきた職員は何とも言えない表情でそれをしばらく眺めていた。
我に返ったライガは、コホンと咳払いをし、職員に
「彼女とパイソンが出て行ったら、この部屋の利用者に伝えて。もし、この部屋で寝るのを嫌がったら、今日3人部屋が空いているはずだから、了承を得られたら、案内して。金額は今日の1名部屋のお代も含め全て無料で。もし、それでもダメなら他の宿のご案内を。もちろん、そのお代は、うちで肩代わりを。」
と伝え、次にライガは女冒険者に自室へ戻るように促す。
「お客様、1つ確認なのですが、ケージの扉を閉めて鍵をおかけなりましたでしょうか?」
「してないわよ。リンダは私の娘同然だもの。そんな子に鍵を閉めるわけないじゃない!」
「お客様、厳しい事を言わせていただきますが、お客様がきちんとケージの施錠をされておりましたら、リンダさんも他の部屋へと行かなかった事でしょう。今回、無事で帰ってきたから良かったもの。もし、誤って討伐されてしまったら、どうするんですか?悔やんでも悔やみきれないでしょう?」
それを聞き
リンダ、リンダごめんね~。と言ってぐずぐず泣き始める女冒険者。
「申し訳ございませんが、本日、私の魔法で、ケージの施錠をさせてください。」
「もし、断ったら?」
「このギルドを出禁にさせていただきます。」
「わかったわ、お願いします...。」
とグズグズと鼻をすすりながら、了承してくれた。
翌朝、昨晩会ったことを関係職員に報告し、「特別手当出...るはずないかぁ」とため息をついているとエントランスホールから
「なんだって!そんなの聞いてねーぞッ!」と男の声がこだまする。
手の空いていたアーニャに聞いてみると、
「従魔と一緒にドミトリーに泊まりたいそうです。」と答えが返ってきた。
「ちなみに、従魔の種類は?」
「中型のメタルスネイクです。」
「...。」
「なあ、最近って蛇、流行ってるの?」
「さ、さあ?」
「俺の息子なんだ!」と叫んでいたが、今日は宿泊部部長がいるので、彼が来たのを確認したら、ライガはさっとその場から立ち去る事にした。