59_ライガの受付生活@ダンジョン入り口_5
翌日、ライガは早速、ギルマスの部屋へと訪れた。
「ギルマス、折り入ってご相談が。」
「なんだ?」
「来週から、やはりダンジョンに少し潜ろうかと。」
「そうか。はやり気になるか。」
「ええ、データを見ても、例年に比べ、冒険者のダンジョン滞在時間が伸びておりますし、そもそも死亡者が少ないです。また、ずっと受付で冒険者の入ダンを見てましたが、あまり疲れている様子もなく...とりあえず、夕方になったから上がってきたって感じですし、クエストカウンターのダンジョンのドロップアイテムの買い取りも減ってきているようなので、ちょっと見てこようかと。」
「うむ。実際にダンジョンのレベルが下がって、なおかつドロップアイテムが減ってるとなると、クワッツの街の死活問題だな。」
「そうですね。かと言って、今すぐどうこう対策を練られるわけではないですが、ドロップアイテムが出にくいといって、冒険者が減って、魔獣があふれてスタンビートが起きても問題ですし。まあ、まだそこまでではないと思うのですが...。とりあえず一週間1層から10層まで順に見てみます。そこから下の層になると、一人で潜るのはちょっとアレなんで。必要と感じましたら、また改めてご相談させていただければと。」
「了解。他に誰か差し向けようか?」
「まあ、低層階なんで、とりあえずは、自分一人で潜ってみます。」
「そうか。」
潜る前に、もう一度、研ぎにバール爺の所に寄っていくかな。
「バール爺、俺の長剣を何本かお願いしても良いでしょうか?」
「あ!らいがー!」と髪を二つに結んだ小さな女の子がライガの所へと、とてとてと走りよってきた。
「おや、イルマ。お久しぶりだね。」
「おお、ライ坊。仕事の依頼か。」
「ええ。」
「らいがーご本読んでー?」
「こらこら、ライガは仕事中じゃ、後で爺が読んであげるから、もうちと、待っとくれ。」
といつもの厳しい目はどこへ行ったのか、これでもかと目じりを下げたバール爺がそこにいた。
「イルマ。ごめんな。お兄ちゃん。ちょっと行かなきゃいけないんだ。また今度な。」
「今度っていつ?明日?」
「おや、イルマは明日もここに来るの?」
「うん!しばらく、じいじといっしょぉ!」
「そうか、それは、良かったな。」とライガはグシグシとイルマの頭を撫でる。
と、イルマの”明日?”という質問を上手くかわしたライガ...
イルマは、バール爺の目に入れても痛くない孫娘。
そして、バール爺と血が繋がっているとは思えない、可愛らしい孫。
たまに、ギルドに遊びに来ることはあるが、明日も、とは珍しい...。
「いやな、長男の嫁さんが二人目出産してな。その赤ん坊にかかりっきりになってるんでな。ちょっと、気晴らしにこっちに連れてきとるんじゃ。」
「そうでしたか。それは、おめでとうございます。」
「ありがとうよ。」
と顔を皺くちゃにして、バール爺はお礼を言ったのだった。
「イルマはいい子だからな。おじいちゃんの言う事ちゃんと聞くんだぞ!」
「うん!」
と絵本を大切に抱えたイルマが元気良く答える。
ふとライガはイルマが抱えている綺麗に装飾されている絵本のタイトルをみると
“森の妖精ラートゥラと光の魔法使い”と書いてあった。
なつかしいな。
“森の妖精ラートゥラと光の魔法使い“とは、この地域の子供達なら誰でも知っているおとぎ話。
むかーしむかーし、ある所に...。から始まるような話で
本もあるが、親から子へと寝る前に話すようなお話だ。
本なんて高い物をイルマは持ってるなと思ったが、どうやらこの前のスライム事件の臨時収入でバール爺が彼女に買い与えた物らしい。
さすが、爺バカ。
まあ、お菓子を無制限に与えるよりは、よっぽど良いか。
「すみません。バール爺。来週からダンジョンに潜る事になりましたので、お願いできますか?」
「おや、お前さんがダンジョンとは、ずいぶん久しぶりじゃの!冒険者にでも、また戻るんかい?」
「いえ、低層階での調査です。」
「なんじゃ、そうか。残念じゃのう。」
「最近ダンジョンに関して、そちらで何か聞いてませんか?」
「いや、特には気にしとらんかったが。まあ、気にかけとくよ。」
「ありがとうございます。」
↓
「ねえねえ、らいが。腰の袋がむにむに動いているよ~。」
と気になったのか、ライガがあっと思う前に、袋に向かってつんつん突いている。
その度に、ビクッビクッと袋が動く。
「あああ~。イルマごめんね。この中に、お兄ちゃんの従魔が寝てるからツンツンはやめてあげて~。」
ごめんよ、ヴェルデ。
「じゅうまぁ?」
「そう従魔。ヴェルデ、ちょっと出ておいで。」
と言ってライガは、袋からヴェルデを出した。
「ほうっ!」と言って、イルマは目はまん丸、口はあんぐりしている。
「ほう。それがお前さんの噂の従魔かい?」
「ええ。リザードです。」
「かわいいねぇ」とあんぐり顔から復活したイルマはニコニコしている。
「そうだろう。頭の上をやさーしく撫でてあげて。ヴェルデ好きだから。」
「あい!」
としばらく嬉しそうにしているイルマにヴェルデを存分に撫でさせた後、ライガはバール爺の元を出たのだった。
ライガは、ふとイルマが手にしていた絵本を思いだしていた。
森の妖精と魔法使いってどんな話だっけな。
俺も小さな頃、よく聞いてたはずなんだけど、もうだいぶ忘れてるなぁ~
魔法使いがある日、森で妖精に会う話だっけか?
ってそれじゃあ、タイトル読んだだけじゃねえか!と一人突っ込みをしながら、
現在の仕事場であるダンジョンの入り口へと、今日も向かったのだった。




