03_マゾではなく魔素です。
「たのもー!」
おっ!今どき珍しくギルド破りか!
と心の中で、声の主を茶化しながら、声がする方を見てみると、
男の子3人組がそこに立っていた。
「クワッツ冒険者ギルドへようこそ。さてさて、何のご用件でしょう?」
「そこの職員!勇者になる男、ロキ様が来たのだ!案内しろ!」
「......。」
勇者になる。ってことは、まだ勇者じゃないんだな。うん、間違いない。
いったいどこの田舎から出てきたんだ。
と相手にわからない位の小さくため息をつき、
「冒険者の登録ということですね。」とライガは、良い笑顔で彼らに尋ねる。
「そうだ!勇者になる第一歩は、やはり冒険者になる事だからな。」
「そうですね。それでは、ご案内しますね。」
と言ってライガは、クエストカウンターへと案内する。
丁度、ギルドがオープンして少し経っていた為、カウンターでは、今日のクエストを求める冒険者達でいっぱいだった。
「それでは、こちらの列にお並びください。
順番にご案内いたしますので。」
と立ち去ろうとした所
「お前、これから勇者になる俺を待たせるつもりか!」
とのたまった。
一緒に付いてきた後ろにいる残り二人も「そうだ!そうだ!」と喚いている。
はぁ~面倒くさいタイプのお子様達だな。
もう、そんな勇者、勇者って言っていると
ほらっ!既に冒険者になっている皆さんが、温かい目で見てますよ!
「いいじゃねえか、お前が説明してやれば!」
振り返ると、ジークハルトがニヤニヤ笑いながら、声をかけてきた。
くっ、絶対面白がっているだろう。
さっさとクエストに行けよ。
ライガは、彼らがわからない程度に、再びため息をつくとクエスト掲示板前のスペースにいくつかかるテーブルの空いている席を見つけ、彼らを案内する。
「では、準備をしてまいりますので、少々お待ちください。
確認ですが、皆様お歳は12歳を超えられてますよね。」
確認したところ、ロキも残りの二人も12歳だという。
冒険者登録が出来るのが、12歳からなので、なかよし3人組が全員12歳になるのを待って、早速、一緒に村から出てきたというところか。
この国では、成人が15歳となっているため、12歳から冒険者というのは些か早い気もするが、子供が親の手伝いなどで薬草等の素材集めをすることもあるので、一応この年齢から登録が出来るようにしてある。ただ、一般的には、成人を待ってから冒険者登録する者が多いのだが。
説明冊子と登録用紙、それに計測器を携え、彼らの元へライガが戻ると、虚勢は張っていても、やはり子供。ちょっと不安げにあたりをキョロキョロ見ていた。
「お待たせいたしました。
それでは、簡単に説明をして、こちらに登録用紙を記載した後、計測器で現在のレベルを確認して、ギルドカード発行の流れになります。」
「お、おう。」
「まずは、ギルド登録いただきますと、ギルド宛に来た依頼を受ける事が可能になります。奥の掲示板に張ってある依頼書をご確認いただき、気に入ったクエストがございましたら、紙ごとクエストカウンターまでお持ちください。
控えをお渡しいたしますので、クエスト終了後、ギルドまで戻ってくるまで、無くさないにお願いします。
クエストが終わりましたら、必ずカウンターまで戻ってきてください。クエスト完了とみなし、その場で報奨金をお支払いいたします。」
「“控え”無くすとどうなるんだ?」
「報奨金がでません。」
「「「げっ」」」
「クエストの種類は、主に四つに分類されています。あちらの掲示板をご覧ください。
緑の紙が、薬草や魔獣等の素材採取
青の紙が、護衛
赤の紙が、討伐関連
そして、白の紙がその他となります。
皆様、最初は採取から始まって、様子を見つつ徐々にレベルを上げていってますね。また、依頼書には、目安レベルがございまして、自分のレベルの一つ上のまでしか、受ける事ができませんので、お気をつけください。」
うん、ここ大切だがら、ちゃんと聞いてね。
間違っても、魔獣討伐から手を出さないでね。
「なお、クエストのフローは依頼の種類によって異なりますので、必ずこの冊子をお読みください。」
「はいはい。」
本当に読んでくれよ!
「それでは、ステータス測定を順番にいたしますので、その間こちらの登録用紙に必要事項をご記入ください。では、最初は誰から測定いたしましょう。」
すると、当然とばかりにロキが手を上げる。
「では、こちらの機器に手を翳して下さい。」
えっと、レベルは14と。
レベルは何もしていなければ、成人前後だとだいたい年齢イコールレベルだから、12歳のロキが14ってことは、ちょっとは強いんだな。
次いで、残り二人のステータスも図る。彼らはレベル13だった。
ってことは、村でロキが強くて、少し強い二人を従えて、街に出て来た感じか。
「なあ、このステータスって、何を持って測っているんだ?」
「ああ、これですか?皆さんご存じのとおり、空気のようにそこら中に魔素が漂っておりますが、同じように人体の中にも魔素が流れておりまして、その魔素の構成を分析した結果がステータスとなります。」
「マゾ?」
「いえ、魔素です。」
「この魔素があるおかげで、魔法が使えるのです。
皆さんも水を出したり、火を付けたりと魔法を使っているでしょう?
生活の細々したアレコレが出来るのは、皆さんの身体に魔素があるからです。まあ、人によって含有量に差がありまして、その量の数値が、四番目に記載されております、MPになります。」
「なるほど~、マゾがね。」
「いえ、魔素です。」
「あっ俺、MPの数字がロキ君より大きい!」
「なんだと!フン!俺のマゾ値は5だから、たった一つじゃないか!
直ぐに追い抜くサ!」
この歳の子供にとっては、1でも負けらたら悔しいか。
いや、どの年代の男たちでもくだらない事で、競争しているから、大差ないか。
まあ、初期の頃の1なんて、どんぐりの背比べだからね。
努力次第でいくらでもひっくり返せるわな。
それにしても、マゾ値って...。
「オイっ!」
「はいはい、何でしょう?」
「どうやったら、マゾ値が増えるんだ?」
「魔素ですか?まあ、限度はございますが、それなりに訓練すれば、ある程度は増えるかと。二階に研修センターがございますので、帰りに覗いてみてはいかがでしょう?
それとですね。ステータスの詳細は個人情報にあたりますので、親しい間柄でも、公開するのはあまりお勧めしません。ましてや周りに聞こえる程大声で話すのは、以ての外です。
ちなみにですが、あまり大きな声で“マゾマゾ”と言うのもおススメしません。」
と小さな声で言ってみる。
「なんでだ?」
「いえ、私の口からは、何とも。
恐らくですが、あと5,6年後...いや、十年後位には、意味が解るかと...。」
「なるほど!マゾとは、一般人には知られていない秘密の“何か”なんだな!」
「さすが、ロキ君!そんな言葉を既に知っているなんて!」
え、え~?
そういう意味で受け取っちゃうの?
まあ、“ヒミツの何か”っているのは、間違いではないっちゃ、ないけど...。
もう聞き耳立ててたジークさんなんか、口を押えて肩が震えているし!
「そ、それでは、私はこのステータスを元にギルドカードを発行してまいりますので、登録料のご準備をお願いいたします。
ギルドカード発行代 30パクロ
ギルド登録料が30パクロ
年間のギルド会員費が300パクロ、
合わせて360パクロになります。
ちなみに、こちらは、全て一人当たりの金額になります。」
「ゲっ!金取んのかよ!」
「ギルドカードは身分証明書になりますので、このクワッツを出入りするのに発生する入領税を考えたら、安いものかと。年会費の中も、ギルドでの様々なサービスが割安に受けられますので、そんなに高くないと思いますよ。」とにっこり笑う。
「どうする?」と三人でコソコソと話し始めたあたりを見ると、勇んで村から出てきたは良いが、充分な所持金を持ってなさそうだ。
「では、こういうのはどうでしょう?
本日は、ギルドカードの発行代と登録料のみお支払いいただき、クエストをこなして、お金が貯まったら、年会費をお支払い頂くというのは。」
「じゃ、じゃあ、それで!」
「承知いたしました。なお、次回更新される前に年会費をお支払いいただけなかった場合は、冒険者ギルドから登録抹消となりますので、お気をつけくださいませ。」
■■■
「お待たせいたしました。
こちらが、皆さんのギルドカードになります。
上から、ミスリル、白金、金、銀、銅、鉄、木となっておりまして、ご登録いただいた方は、皆様、“木印”からのスタートとなります。
皆さん、頑張ってステップアップして下さいね。」
とにっこり笑って、三人組と別れると、ジークハルトが寄ってきた。
「よう!子守お疲れさん!」
「おや、まだクエストに出ていなかったのですか?」
「まあ、そう言うなって。
いや~しかし、面白い物、見れたわ!お前の鉄壁の営業スマイルがピクピクと...。」
クククっと笑い、ジークハルトはどこかへと消えていった。
「お疲れ、ライガ。」
「お疲れ、ミシカ。」
「説明も合わせて冒険者登録までやらせちゃって、ごめんね。」
「いや、流れでそうなっただけだから、気にすんなって。
ただ、あの三人ちょっとあぶなっかしいから、レベルに合わないクエスト持ってこないか、受付で気にしておいてもらえると助かるよ。」
「あら、相変わらず、面倒見良いわね。」
「いやいや、クエスト失敗したら、依頼者の為にもギルドの為にもならんでしょ!」
「はいはい。そういう事にしておくわ!
はい、登録用紙ちょうだい!あとはこっちで処理しておくから。」
気がつけば、とっくにランチの時間は過ぎ去っていた。
食堂に行って軽く食べたら、そのままジェイクと話してくるか。
食材の相談って言ってたけど...そろそろメニューの変更時期だっけか。
クエストカウンターから反対方向になる食堂へ行こうとエントランスホールを歩いていると、
「あ、さっきの係のおっさんじゃね?
なー。」
と声をかけながら、走り寄ってくる。そして、
「あんたのマゾ値って、どれ位なんだー?」
と大声で叫んだのだった。
ですから、マゾではなく魔素です。
それに、俺はどちらかと言えば、サd...
ライガは唖然としていると
これからクエストへ出かけようとしていたジークハルトと目が合い、そして、
ジークは腹を抱えて笑っていた。
いやいやいや...はぁ~。