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16_商人ギルド

昨日のジェイクと作った燻製は、明らかに失敗だった。

どこからどう見ても失敗だ。


なぜなら、外身だけでなく、もれなく中身も真っ黒だったからだ。

つまり、ほぼ炭になっていたのだ。

むしろ、火事にならなかったのが、不思議な位だった。


恐らく、燻すだけで良かったにも関わらず、扉を閉めている間に“何等かの理由”で火が点いてしまったに違いない。が、普通中々あの状況で火が点くのは、なかなかあるまい。


途中で、サラマンダーでも入り込んでしまったか?


とりあえず、ジェイクには三か月後には、商品化、少なくともレストランで出せるものを、作っていただくようお願いした。レストランでお客の反応を見みながら、どの魔獣で商品として売り出すか考えた方が良いだろう。


そして、燻製以外の魔獣肉料理は、問題ないので、翌週から食堂で提供されることとなる。


真面目な彼の事だ。

毎週休みになるとギルドの隅でせっせと研究に勤しむに違いない。

自分は、毎回一緒に参加する事は難しいが、たまには顔を出そうとロット草の紅茶の入ったマグカップを片手に持って、ライガは思った。


そんな事をぼんやりと考えていると

「昨日のデートは、どうっだったよ!」

と今日の分のクエストを請けに来たジークハルトに声をかけられた。


「あら、ライガ。デートだったの?珍しい!」とミシカはビックリする。


そんなに、ビックリしなくても!

いや、その前にそもそもデートじゃないし。


「デートじゃないよ。

燻製の器具の購入しに、ジェイクさんと一緒だっただけ。」

「なーんだ、仕事じゃん。つまんなーい。」

と言ってミシカは、さっさとクエストカウンターへと戻っていった。


「ジークさんも、紛らわしい事、言わないで下さい。」

「まあ、そう言うなって。」とニヤニヤ笑いながら、依頼書を片手にヒラヒラとギルドを出ていった。


ヤレヤレ


「よっ!おっさん、おはよう!」

オッサンじゃないってば!

「おはようございます。ロキさん、パナさん、ラリーさん」


まあ、ちゃんと挨拶してくれるだけ、マシになったか?


「今日は薬草の講義ですか?」

「ああ!あと何回か講義受けたら、先生達と一緒に薬草を取りに森に行くんだ。」とうれしそうに報告してくる。

「それは、良かったですね。

 あーそうだ。そういえば、橋の下に発生したスライムの討伐というクエスト依頼今朝出てましたよ。」

「それ、本当か!おっさん、ありがとう!」

「ええ。ですから、おっさんではなく...。」

とライガが言う前に、彼らは走り去ってしまった。



三人組は、あのスライム大量発生事件以降、スライム討伐をせっせとこなしている。


それを知ったライガは、スライム討伐の依頼を見つけると、さりげなく教えていた。そして、彼らは、講義で覚えた薬草も少しずつギルドへと納めている。装備を買えるまでいかなくても、とりあえず毎日食べる事は、これで可能だろう。


後は、徐々にレベルアップしていけると良いんだけどな。



冒険者は大きく分けて二種類いる。

腕に自信があり、自分の力を試す為、また出世する為に冒険者ギルドの門を叩くもの。

そして、もう一つは、村で飢饉や魔獣に襲われたりし、食うに困り、他に選択肢がなく冒険者になるもの。


昔に比べ、冒険者の地位は高くなったとはいえ、命のやりとりが多いこの業界。まだまだ後者の者達が多い。


最初の登場こそ、前者っぽかったロキ達だが、彼らの生まれは後者に近いのではないかと思っている。でなければ、貴重な労働力である子供三人、そう簡単に手放しはしないだろう。


ただ、どちらの場合であっても、とりあえず冒険者になったは良いが、自分の力を図りきれず、身の丈に合わないクエストを追い求めていた結果、上手くいかず、無茶を未達成、そして、また無茶をし怪我をして...と負のスパイラルに陥り、段々困窮していく彼らの末路をライガは良く知っている。


三人組が走っていった方を見ながら、少し感傷的になっていると、副ギルマスに声をかけられた。


「ライガ。すまんが、これを商人ギルドまで届けてくれないか?」

「珍しいですね。いつもご自身で行かれるのに。」

「すまん。急ぎの用事が入っちまってな。」

「お気になさらず。すぐそこですし。」

と副ギルマスに渡された紙の束を持って冒険者ギルドを出た。

そして、目の前の道を渡り、商人ギルドに到着...。


そう、商人ギルドは、冒険者ギルドの真向いなのだ。


「すみません。冒険者ギルドのライガですが、ギルマスか副ギルマスはいらっしゃいませんか?」

とライガは、思わず守ってあげたくなるような可愛らしい受付嬢に声をかけた。


たぶん、冒険者ギルドの職員のイメージはこんな感じだったのだろう。


商人ギルドに勤める友人の話じゃ、ここの受付嬢は競争率が高く、辞めてもすぐに次が見つかるらしい。


うちと全く逆だな。


商人ギルドとは、クワッツの街の全商人が加盟しているギルドであり、逆に言うとどんなに小さな露店であっても、商人ギルドに加盟していないと、基本的には、この街で商売をする事はできない。


ちなみに、クワッツの商人ギルドと冒険者ギルドの関係はというと、同じギルド同士という事もあるが、商人ギルド経由で護衛の仕事が来たり、逆に冒険者ギルドで買い取りが出来なかった品(ダンジョンで見つけた大量の宝石とか)を買い取ってもらったりと、稀にそれぞれの立場があるので、喧嘩になることもあるが、基本的には、協力体制にある。


「よう、ライガ!待たせたな。」

「いや、気にするな。レオ。」

「珍しいな。お前が来るなんて。」

「副ギルマスが、急に来れなくなってな。はい、コレ。副ギルマスに頼まれてた奴。」

「ああ、ありがとう。家族はみんな元気か?」

「ああ、元気だ。お前の所も元気か?」

「ああ、うるさい程な。そ、その、ミシカも元気か?」

「ん?ミシカ?変わらず元気に頑張ってるよ。」

「そうか。」

近いんだから、来れば良いのに。と思うが、あえてライガは言わなかった。


ちなみに、レオことレオナルドとライガは小さい頃からの幼馴染である。


「少し位時間あるんだろ?少し世間話でもしようぜ。」と言って、レオナルドはライガを商人ギルドの応接室へと案内した。


案内された応接室は、冒険者ギルドのそれより、とても豪華で洗練されていた。


まあ、うちの応接室のように、壊される事、前提の作りじゃないしな。と言い訳をしながら、ソファに座る。


「しかし、お前が副ギルマスになるとはね。」

「まあ、成り手がいなくてね。お前だって、その内なるだろ?」

「いや、うちは、上にゴロゴロいるからな。出世しないな。したくもないがな。」

「また、そう言う。俺は、そんな事ないと思うんだけどね。」

「俺の場合は、アレだ。器用貧乏って奴だ。ところでさ。商人ギルドって、商売したての組合員に何かサポートってしてる?」

「経理とか法務とか、そういう専門家は紹介しているが、それ位かな。うちは、ホラッ、冒険者ほど、直接命に関わるってわけじゃないし。」

「まあ、そうだな。」

「また、何かやろうとしてるの?」

「どうだろう。」

「まあ、何か面白い事、始めたら、うちにも教えてよ。」

「ああ、そうだな。」


「そうだ。今度王都に行くんだけど、良い護衛紹介してくれない?」

「珍しいな、レオが王都に行くなんて。ギルドの用事だろう?いつもギルマスの役目だろう。」

「まあ、色々とね。トレーニングの一環でもあると思うんだけどね。」

「護衛対象人数と、予算、出発日と、あと護衛の希望レベルがあれば。」

「護衛対象人数は、二人。俺ともう一人。

 出発日は、あと一週間後位。希望レベルは、金・銀印位。予算は...まあ安ければ安い程助かるけど、あんまり気にしないで、大丈夫だ。」

「え、予算気にしなくて良いなんて...しかも金・銀

 お前、いったい王都に何しに行くんだ?」

「うん、ちょっとね。俺としては、ライガが一緒に来てくれると心強いけど?」

「いや、俺はもう冒険者じゃないし。」

「でしょう?そう言うと思った。だから誰か紹介しろよ!」

「んー、まあ、ちょっと見繕うわ。」


少し世間話をした後、ライガは、商人ギルドを辞した。


金・銀印の冒険者ねぇ...。

あいつ、何しようとしてるんだ?

何か危ない事に首を突っ込んでなきゃ良いけど...。


冒険者はミスリル印から木印まで7グレードに分かれている。

ミスリル印は、ある意味名誉職なので、次の印の白金が実質的には、一番強い。そして、その下が金・銀・銅へと続く。


それとは、逆に人数は、誰でもなれる木印が一番多く、鉄・銅・銀へとレベルが上がるにつれて人数はどんどん少なくなっていく。


この国全体で金印の現役冒険者は、約20名。クワッツを拠点にしている金印は、4名。

ただし、3名は今、別のクエストでこの街にいないし、残り一人は、大手クランの団長だ。


あ、あれ、いなくない?



「副ギルマス。ただいま戻りました。」

「おう、お帰り。ん?どうした難しい顔をして。」

「いえ、クエストの依頼を請け負ってきたんですけど、人選をどうしようかと思いまして。」

「何、お使いに商人ギルドに行って、クエスト貰ってきたのか。スゲーなお前。」

「いえ、あれはたぶん副ギルマスが行っても、依頼されましたよ。たまたまです。偶々。」

「たまたまねぇ。」


「“赤龍の刃”って、いつ戻ってくるんでしたっけ?」

「あいつら、貴重素材求めてダンジョンに潜ってるから、しばらく戻ってこねえよ。」

「ですよねぇ。」

「依頼って、金印なの?」

「金・銀ですね。しかも、王都までの護衛です。」

「う~ん。そりゃまた、ずいぶん...。」

「あの辺りって、今、高ランクの魔獣とか盗賊とか出てましたっけ?」

「いや、そんな情報出てないな。しかも、ここから王都までって、途中に森があるとはいえ、基本的には、見通しの良い一本道の穀倉地帯だろ?」

「ええ、何かちょっと妙で。」


人員の確保もだが、依頼内容がどうもひっかかる。

治安が安定している今、王都までの道のりで金・銀程の腕はいらない。


「何か大切な物を運ぶ、もしくは伝えるって考えるべきだな。」

「やっぱりそうですよね。だと、詳しく聞くのは難しいか。」

だから、予算も気にしないって事なんだろうな。


二人でうんうん、唸っていると、トントンとノックをする音が聞こえた。


「どうぞぉ。」

「副ギルマス、すみません。アルフレッドさんがいらしてますが、お通ししてもよろしいでしょうか。」

「「あっ、いた!」」


二人で大声を出したので、お伺いをたてに来た職員にビックリされてしまった。



◆◆


「アルフレッドさん。今の依頼って、あと何日位ですか?」

「あと数日ってところじゃないか?」

「その後のご予定は?」

「特にないかな。数日休んだら、ウルノに戻ろうと思ってる。おっ依頼か?」

「ええ、王都までの護衛なのですが...。」

「王都までの護衛ねぇ...。」

とちょっと考えこむアルフレッド。


無理か?


「構わないぞ、その代わり...。」

とニヤッと笑うアルフレッド。


え?


「ライガ、今日、 飲みに付き合え!この前、約束したろ!」


ゲッ


「お。行って来い!ライガ!」


「ん?何言ってんだ?副ギルマス!あんたもだぞ!」


他人事だと思っていた副ギルマスは、まさか自分もとは、これっぽっちも思っていなかった。


そして、その夜、二人は、アルフレッドとその愉快な仲間たちに終業後拉致られ、夜の街へと消えていったのだった。


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