13_ご利用は計画的に_後編
アルフレッド達を見送った後、ライガは装備品修理のバール爺の元へと向かった。
先日のスライムの一件で、一本位自分の手元にある方が良いだろうと思い、自分の部屋にある短剣と長剣を一本づつ持ってきて、ついでにバール爺に研いでもらおうと思ったからである。
カウンターに行ってみると、バール爺はどこかしょんぼりしていた。
どうしたのかと尋ねると、「聞いてくれるか~!」と椅子とお茶が差し出され、これは話が長くなるとライガは覚悟したのだった。
で、幾度かループするバール爺の話をまとめると、先日のスライムの一件で得た臨時収入で、カワイイ孫娘にせがまれるまま、ホイホイッとお菓子やら玩具やら、買い与えていたところ、息子に怒られた。という事らしい。
「老い先短いというのに...。」と言ってしょんぼりしている。
どうしよう。
ここで、息子さんに肩入れすると、へそ曲げそうだしなぁ...。
「困りましたね。バール爺の楽しみですもんね。」
「そうじゃろ、そうじゃろ!儂の生きがいなのに、息子の奴め!」
「まあ、お孫さんの将来の為に、取っておくってのも手ですけどね。」
「へ?」
「ほら、もっと大きくなると、もっと高い物が欲しくなるでしょ?ここぞって時にドーンと出してあげるのも、かっこいいですけどね。」
「なるほど!良いな、その案!ムフフ、見ておれ~息子よ!
おっと、ところで、お前さん、何用で儂の所に来たんじゃ?」
とやっと本題に入れるとライガはホッとした。
「俺の剣を研いでもらおうと思いまして。」
「ほうか。ほれっ見せてみい!
ほう、なかなか良い代物じゃないか。」
「ええ、以前マリー婆に見繕ってもらった奴です。」
「なるほどのぉ。」
と長剣を目の高さまで水平に持っていき、真剣に見ているその顔は、先ほどの顔とは打って変わって、職人の顔そのものだった。
「急いでないんで、時間が空いている時にお願いします。」
「ああ、この剣達にふさわしい“研ぎ”をしておいてやろう。」
バール爺の所を離れ、ライガは階段を上り、二階へと行く。登り切った所で、階段を降りようとしていた人気講師ディオナに会う。
「こんにちは、先生。」
「こんにちは、ライガ君。」
「先生。あの三人どうですか?」
「がんばってるわよ、あの子達。最初はどうなることかと思ったけど。」
とウフッと色っぽく笑うディオナ。
ライガは、知っていた。
最初、彼女に勧められた講座なので、あの三人は、担当講師がディオナだと思い込んでいたことを。しかし、薬草の初級は、ディオナではなく、おじいちゃん先生なのだ。
おじいちゃん先生の教え方は丁寧でわかりやすいので、初級者にはもってこいなのだが、ディオナだと思っていたのに、おじいちゃん先生だと気がついた彼らは、当初とても不満顔で不機嫌だった。だが、今では、学ぶ事に喜びを感じているようだとわかり、ライガは安心した。
「あの子達も、スライム討伐に参加してたわよね。」
と何やら悪魔的に笑うディオナを見て、ライガは思わずクイーンスパイダーを連想してしまった。
「今度は、どの講座を勧めようかしら...。」
「程ほどにお願いしますね。」
と自分の事は棚に置き、顔を引きつらせながら、ライガはディオナと別れた。
ギルマスの部屋を訪れると、ギルマスは、執務用の椅子に座り、しょんぼりしていた。
「...。」
「おお、ライガか。」
話を聞いてほしそうに、ギルマスはライガの顔をじっと見ている。
はぁー。
「何が、あったんですか?」
はて。
先日のお貴族様のおかげで、当ギルドは財政的にホクホクだし、差し当って、大きな問題もなかったはずだが。
「ちょうどマーケットに出てたドラゴンの牙を見つけたんでな、ちょうどスライム討伐の臨時ボーナスで、買おうと思ったんだが、直前にパーシィーにバレてな。こっぴどく怒られてしまった。」
!!ここにもいたよ!駄目な大人!
バレたって言ってる時点で、怒られるの分かってんじゃん!
しかも、ドラゴンの牙って、職員のボーナスじゃ、絶対買えないし!
もし、元の白金印の冒険者の報奨金なら、手が届いたかもしれないが、ギルマスとはいえ、一職員のボーナスでは、どう頑張ったて手が出せない。ってことは、他の財布からも突っ込んで買おうとしたな。
そりゃあ、怒られるわ...。
ちなみに、パーシィーとは、ギルマスの奥さんの名前だ。
「しかも、しばらく俺の好きなミートパイを作ってくれないと言うんだ!」
「はぁ、そうですか。」
「そうですかじゃねぇよ!冷たいなぁ、お前は!
なあ、お前、パーシィーを説得してくれないか?」
「は?何で俺が!?
イヤですよ!」
「そう言わず、な!せめてミートパイだけでも!」
「イヤですって!ご自身で説得なさってください!」
「そんな、殺生なー!」
めんどくさいと思いながらも、しばらくの間、ギルマスを宥めすかせたライガは、ギルマスとの打ち合わせを何とか終わらし、部屋を出た頃には、げっそりと疲れていた。
はぁ~、疲れた。
売店に行って、甘い物でも買って食べよう...。
売店に行くと、お菓子売り場に新商品と書かれたPOPを見つけ、ライガはしっかり、全種類を買う事にした。
「対比しないとわからないからな。」と誰が聞いても、それは言い訳だろう!と突っ込まれそうな理由を付けて。
そして、クワッツ観光グッツのお土産菓子にも新商品のPOPが...。
そんな時、後ろから大きな声が聞こえた。
「いいかー、お前達!報奨金が手に入ったとはいえ、全て使うんじゃないぞ!欲しいからと言って、全て買うんじゃない!本当に必要だと思った物だけを買うんだ!」
ロキが、他二人に注意喚起している声だった。
その声で我に返ったライガは、ふと自分の腕の中を見てみると、抱えきれない程の、そして、賞味期限までに食べきれないであろう量のお菓子を手にしていた。
「...。」
「まいどあり。」
とマリーはライガを見てニタァと笑う。
どうやら、自分も立派な駄目な大人の一人だったらしい。
 




