12_ご利用は計画的に_前編
「初めての報奨金、いかがですか?」
先日のスライム討伐の報奨金を手にしたホクホク顔の少年冒険者達に、ライガは、声をかけた。
「ふん。俺たちにとっちゃ、大した事ないさ!」
と言ったが、そんな事はない事をライガは知っている。
初めての討伐だ。
興奮しない者はいないし、このスライム一匹一匹は本当に大した額にはならないのだが、今回はそれはそれは怖ろしい数だった為、報奨金も今回の件の報奨金は、結構良い額だった。
当初、スライムの核の数で報奨金を分けようかと話していたが、あの時は、あまりの数の多さにいちいち“たかだか”スライムの核を一つ一つ手に入れる事はしなかったと、特に上級印の冒険者から指摘され、かと言って、それ以外の方法で、それぞれ、何匹狩ったかなんて、証明できるわけもなく、またペーペーのそれこそあのロキ達少年冒険者と銀印のジークハルトが同じ数のスライムを討伐したとは、さすがに思えない為、今回は特別ルールとして、ランクごとに傾斜をつけて、支払う事になった。
ちなみに、その核はどうしたかというと、当初は核の数で報奨金の分配をしようとしていた為、その日中に冒険者から回収してあった。
そして、予想通り、量が多すぎる為、保管するにしてもどうしようかと思っていたが、例のお貴族様が有償で買い取ってくれたので、ギルマス共々一安心したのだった。何やら自分の研究に役立てるらしい。
傾斜を付けた事により一番下の印の報奨金は少ないが、ロキ達にとっては結構な大金なはずだ。何より今の彼らの顔は見るからにホクホクしている。
ちなみに、この討伐に参加した職員にも、臨時ボーナスが出たので、ライガの懐もホクホクしている。
「ちなみに、この冒険者ギルドでは、そのお金を預けられる“信用金庫”なるものがあるのをご存じですか?」
「「「信用金庫?」」」
と三人揃ってコテンと首をかしげる。
...。
やっぱり、最初に渡した冊子3人とも読んでねえな。
「金庫に金を預けるってことか?」
「まあ、そうですね。物理的には、そのお金を金庫に入れるという事に間違いはないのですが、色々と利点があるのですよ。そのお金をそのまま預けておいていただけたら、その額に応じて、ほんの僅かですが、利子として金額が増えます。」
金額が増えると聞いて、三人は「ほー。」と言って、直ぐに興味を持ったのだった。
「預けていれば、自分の手元にないので、途中で財布を落としたり、野盗などに襲われても、ギルドで預かってる分は無傷なので、無一文にならずにすみます。冒険者ギルドがある街であれば、どこでも引き出しできますので、多くの冒険者の皆さんにご活用いただいております。特に高ランクの冒険者さん達は、稼いでますからね。全てのお金を手元に置いておくのは、非常にじゃまですからね、ご活用頂いております。」
高ランク冒険者と聞いて、より一生けん命に聞いている。
あともうちょい!
「それにですね。これは、ギルド内に限られてしまうのですが、ギルドカードを使ってお買い物も出来ちゃうんです。」
が、残念ながら、三人の理解が追い付かず、何のこっちゃ?という顔をしている。
「では、ご自身のギルドカードをお手元にご準備ください。そして、“預金バランス”と念じてみてください。今何も入れていないので、表示が0のままだと思うのですが...。」
「本当だ!何か浮かんできたぞ!」
「信用金庫にお預け入れいただきますと、そこに入れてあるだけの金額が表示されます。実際に、ギルド内でお買い物をする時、職員に現金かギルドカードどちらで支払いをするのか聞かれますので、カードとお答えください。
ちなみに、当たり前ですが、ギルドカードに表示されている金額、すなわち預けている金額以上の物は、購入できませんので、ご注意ください。
このサービスが受けられるのは、冒険者だけですからね。何か特別な気がしませんか?」とライガはニッコリ笑って言う。
「す、スゲーな...。」
「どおりで、売店とかでギルドカード出している冒険者がいると思ったよ...。」
などロキ達は声に出していた。
「オッサン!その金庫に案内してくれ!」
だから、せめてお兄さんと!
「承知しました。それでは、私に付いてきてください。」
と言ってライガは三人を連れだって、クエストカウンターの角を曲がり、階段の左奥にある信用金庫カウンターへ案内する。
ちなみに、その様子を見ていたマーサは、「まるで、カルー(カルガモのような鳥)の親子のようだね。」と呟き、一緒にいたミシカは、ブッと噴き出していたが、当の本人達は、ライガも含め、もちろん聞こえていなかった。
信用金庫に到着したライガは、カウンターにいた眼鏡をかけた少し神経室そうな若い男に声をかける。
「ロッツさん、すみません。初めてのお客様です。ご対応お願いしても良いですか?」
「承知しました。」
と言ってロッツは、クイっと眼鏡を手で押し上げる。
「それでは、皆様。初めてという事で、ご利用ありがとうございます。ふむふむ、なるほど。今回のスライム討伐の報奨金をお預けいただけると。それでは、今回お試しに200パクロを入金してみる...というのはいかがでしょう。」
しばらく様子を見ていたライガだったが、結構真剣に話を聞いている三人の様子を見て、その場からそっと離れる事にした。
信用金庫には、その他保険や貸付業務など行っているが、ライガはあえて、それには触れなかった。信用金庫という言葉を初めて知っただろうあの三人組には、保険の説明をあの場でした所で、混乱するのは目に見えているし、まだ若い彼らに借金に頼ることを覚えさせたくもなかったからだ。
まあ、貸付に関していえば、年齢制限も事前審査もあるから、直ぐに借りられるわけではないが。とはいえ、彼らに最初に渡した冊子には記載されているので、気がつく日が、いつかは来るだろう...たぶん。いや、むしろ気がついてほしい。
信用金庫から離れると、綺麗なお姉さん二人組に遭遇した。
彼女達は、先日、サービスアパートメントを借りたアルフレッドのパーティーメンバーである。
「こんにちは、エリザさん、リタさん。」
「あら、こんにちは、ライガ君。」
「こんにちは。」
エリザは、頼れるお姉さんの金印のアーチャーで、リタは、美人が多いと言われるエルフの回復を得意とする魔法使いである。
アルフレッドさんの所のパーティーは、全体的に大人だよな。
アルフレッドと残りの二人の前衛を思い出し、そう思うライガだった。
お子様三人組をさっきまで見ていたせいか、余計にそう思ったのかもしれない。
「新しい部屋、いかがですか?」
「もう、すっごい快適よ!あの部屋紹介してくれたのって、ライガ君なんでしょう?
本当にありがとう!」
「ギルドの宿泊施設に文句はないし、遊びに来ているわけでもないって、わかってるんだけどさ。やっぱり、部屋にお風呂があるっていうのは、やっぱり違うわ!」
と戦闘職のエリザは言った。
「しかも、アメニティーがあのロティアーヌじゃない?私、ここぞとばかりに使ったら、使い過ぎちゃって、エリザに怒られちゃった。」とリタはテヘっと笑う。
「後の人の事も考えてほしいわ!」とエリザは言うが。
「エリザだって、結構使ってるじゃない!」とリタは顔を膨らませ反撃しる。
「ああ、どおりで!いつも以上にお二人とも髪が綺麗だなと思ったんですよ。」と褒めるライガ。
「もう、褒めたって何も出ないわよ~!」とまんざらでもない女性二人。
「オイオイ、こんな所で、うちのメンバーを口説かないでくれるかな。」
と後からアルフレッドと二人の前衛がニヤニヤしながら、やってきた。
「いえいえ、滅相もない。
ところで、アルフレッドさん。新しいお部屋、いかがですか?」
「ああ、すっげえ、過ごし易いぞ!最初聞いた時は、だいぶ高けーなと思ったんだがな。やっぱり選んで正解だったよ。自分たちしかいないからミーティングもスムーズだし、何より落ち着くわ。」
「そうですか!それは良かった。」
「それでさ、近くに魔獣を持ち込んだら、それで料理してくれる店が近くにあってよ。もちろん料理は上手いんだが、やっぱり、自分で仕留めてきた獲物をつまみに酒が飲めるってのは、最高だね。今度、お前も一緒に行こうぜ!」
「はは。そうですね。是非。」
アルフレッドさん達って、飲みだすと長い人達だっけ?
それとも、結構サクッと終わる人たちだっけかな?
前者だと面倒だなと思いつつ、魔獣料理のお店には興味があったライガは、今度ジェイクと行っても良いかと思ったのだった。




