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10_それは、お預かりできません!_前編

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少年冒険者三人組を研修センターに置いてきたライガは、一階に降り、売店へと向かう。


「マリー婆、すみません。お待たせしました。」


と売店で下級ポーションの品出しをせっせと行っていたマリーに声をかけた。


マリーは、いつもフリフリの服をきた、背の低いやせ型のおばあさんだ。頭にてっぺんに纏めた髪のお団子がトレードマークらしい。


ちなみに、そのお団子の中から飴が出てくるとか、出て来ないとか...。



「いや、良いってことよ。

初々しくて、良いわいね。

まあ、それが過ぎると命を亡くすことにも繋がるが。」


「はは。俺も何とか真っ直ぐ育ってほしいんですけどね。」


「まあ、あんたが、そこまで責任を持つ必要はないさ。

自分の命は、自分で守るもんだ。自分から冒険者になると決めたんなら余計にね。

ところで、あんた!いつから、武器の知識が“ある程度”まで落ちちまったんだい?」


「いや、マリー婆に比べたら、俺なんて足元にも及びませんよ。」


「ふん。そうかい。」


マリーは長年、このクワッツ冒険者ギルドで働いているが、元々生家が武器商店を経営していたらしく、そこいらの冒険者よりも、武器に関しては、全然詳しい。


売店に来た冒険者に辛口のコメントを吐きつつ、その冒険者に合った武具や使い方など、売店に置いてあるものだけでなく、他の店の物や鍛冶職人の物も含め、アドバイスをしている。


マリーのアドバイスを聞くためだけに、売店に行く者も結構いて、ライガは、マリーを専門職として、しいては、アドバイス料を、冒険者からせしめられないか、一時期本気で考えていたが、もうずいぶんと長年に渡り、これできてしまっているので、今更有料サービスにすることもできず、マリーはマリーで「ただの趣味だから」と言ったので、現状維持になった経緯がある。


とはいえ、売店に置いてある武器は、マリーの目利きによって選ばれた品々なので、初心者用だとしても良い物が揃っている。


そして、ピンキリの「ピン」の方が売れた際には、1つでも結構良いお金になる。

しかも、知る人ぞ知るマリーの一品達。

長年の伝手を駆使し、ここでしか買えない武器もあるらしい。


そんな訳で、結構な数の武器が売れていて、ギルドにとって全く馬鹿に出来ない売り上げを、マリーは毎月たたき出していたのである。


ちなみに、武器武具の繋がりという事で、修理カウンターのバール爺とも、良く武器武具談義をしている。二人とも頑固な為、意見が合わないと、どちらも折れず、喧嘩になることもしばしばあるが。


「ところで、マリーさん。私をお探しと。

アレですね。先日、俺が頼んでいた奴ですね。

お忙しい中、ありがとうございました。」


「いや、気にしなさんな。ホレッ」

とマリーはライガに紙をポンっと投げ渡す。


「ありがとうございます。」


「お前さん、また何かしようとしているのかね?」


「ええ、まあ。」

とライガは言いながら、パラパラと紙をめくって数字を追っている。


そうか。

そもそも保存食の種類が少ないから、参考にならないか...。

ってことは、やっぱりいくつか魔獣の種類と価格設定も3種類位仕込んで、参考にしてみる必要あるか...。


とブツブツと呟くライガ。


見慣れているのか、マリーは特に気にした様子もなく、さっさとポーションの品出しを終えると、レジの所で椅子に座って本を読み始める。(タイトルは、「バトルアックスの殺傷能力とその考察」)


「そういえば、売店で何か変わったこととかって、ありました?」


「そうさね。魔獣除けのポーションがいつもより売れている気がするね。」


ええっと。

と言って、先ほど渡された資料の中で、魔獣除けのポーションの売り上げの推移を、ライガは確認する。


「本当だ。何でこんなに売れているんだ?何か聞いてます?」


「いや。今度それ買った冒険者達にそれとなく聞いておいてやるよ。」


「本当ですか?助かります。」


と紙を見ていたライガはパッと顔をあげ、マリーを見る。


「おう!まかせときな!」と言って、何とも頼もしい笑顔のマリーがいた。





マリーが渡してくれた売上表を、ある程度読み込んだライガは、売店でお気に入りのワイルドボアサブレを購入し、売店を出る。


ちなみに、このワイルドボアサブレは、ワイルドボアの肉がサブレの生地に練りこんでいるわけではなく、ワイルドボア全体のシルエットを型どったサブレで、このクワッツの観光土産の1つだ。観光土産な為、まあまあのお値段がし、良く購入するライガにとって、とても残念な事だった。


売店を出て、廊下を出ると何やら行列が出来ていた。


おや、めずらしい。


クエストカウンターは冒険者や依頼人の列。研修センターは人気講座の席取りの列と、それなりに、冒険者ギルドには列があるが、一時荷物預かりカウンターの列とは、珍しい事であった。


しかも、ギルドで預かれる1個の最大容量の大きさの荷物が何個も。

あまりの多さに後ろに並んでいる親子もあんぐりしている。


「早くしてくれないかね。

こっちは、主をずいぶん待たせているんだ!」

とずいぶん横柄な態度だ。


「申し訳ないね。何分、そちらさんの荷物の数が多くてね。

 えー、そしたら、こちらに必要事項を記入してください。」


「はー。これかね。」


「ええ。それと、こちらのリストに上がっている物は、お預かり出来かねますので、今一度ご確認を。ない場合は、ここにチェックを入れてサインして下さい。」


「あーはいはい。ないよ。」



「何アレ?」

とライガが呟くと


「あーあれか?」

隣の運送カウンターのガラモンは答えた。


「何でも、どこぞのお貴族様の三男坊だか四男坊だかのパーティーの荷物らしい。」


冒険者ギルドでは、荷物を預かる事ができる。観光やクエストの邪魔になるので預ける人、宿を見つけるまで荷物を預ける人などなど、理由は様々だ。1荷物一時間10パクロ~荷物の大きさ、重さなどにより値段は様々だ。とはいえ、殆どの冒険者は必要最低限の荷物した持たないので、預けても1個。多くても二個位が相場なのだ。


「いや、でもあの量おかしくないですか?どんだけビッグなパーティーなんだ。」


「あれじゃ、冒険って言うより、まるで旅団だよな。

なんでも、この街を最後に王都へ戻るらしい。」


「良くご存じですね、ガラモンさん。」


「まあな。荷物運んでると、色々情報が入ってくるのよ。

しかも、アレじゃあ、異色過ぎて、ネタにならない方がオカシイぜ。」


「確かに...。

 それにしても、ギルドに預けなくても、貴族なら他にいくらでも預ける所ありそうですけどね。」


「全くだ。」

と言ってガラモンは、首をすくめる。


ガラモンと話をしている間に、先ほどのお貴族様の荷物手続きは終わったようで、次の冒険者の番になっていた。


「おっと。終わったようだ。俺、荷物運ぶの手伝ってくるが、おめえはどうするよ?」


「もちろん、手伝いますよ。」


重い荷物を持ち上げ台車に乗せて、地下倉庫へと運ぶ。


台車に乗せるとはいえ、地下倉庫まで階段なので、台車の恩恵は、わずかばかりなのが残念だ。


運んでいる途中、エントランスホールを見ると、先ほどの荷物を預けていた小太りの男は、綺麗な女性を伴ったやたらと身なりの良い男に近づいていって、何やら話していた。きっとあれが、主で、どこぞの貴族の三男坊だか、四男坊なのだろう。


「本当に、旅行みたいだな。」


荷物を地下倉庫に入れ、もう一度、残っている荷物を運びにカウンターへと戻る。

すると、カウンターでビーッと音が鳴った。


一時荷物預かりに設置してある荷物感知器の魔道具だ。


「お客さん、何か入れているでしょ?

んーランプが緑ってことは、植物かな。

はいっ、ほら出して!」


男は、何やらしぶしぶ、荷物から取り出しているようだった。


一時荷物預かりは、何でも預かってくれるというわけではない。


貴重品、動植物、危険物は預かれないし、呪われたアイテムももちろん預かることは、出来ない。

そういった物は専門業者を案内するが、料金がバカ高い上、大抵はそんなに量を持っていないので、大体みんな手荷物に入れ直している。


もう一度、台車に荷物を載せて、階段入り口まで行くと、バラモンに「あとはこっちでやっておく。」と言われたので、ライガはクエストカウンターへと向かった。


向かったは良いが、こちらでも例のお貴族様の話で持ち切りだった。

家臣が荷物を預けている間に、お貴族様はこちらで何かやらかしていたらしい。



「お疲れ様です。マーサさん。」


「お疲れ様。」


マーサは長年、クエスト部で働いているベテランで、一癖も二癖もある冒険者も頼りにする肝っ玉母さんだ。実際に二人の男の子を育てているワーキングマザーである。


「何かあったんですか?」


「いやね。やたらと身なりのいい冒険者が来てさ。」

身なりの良い冒険者と聞いて、片方の眉がクイッと上がったライガ。


「ブラックバイソン討伐依頼書持ってきたんだけどさ。隣のカウンターで別の冒険者が持ってきたメタルグリズリーの討伐に興味を示しちゃって、貴族の自分に譲れって大騒ぎ。」


「横取りですか?で、結局、最後どうしたんです?」


「私たちが介入する前に、金に物を言わせて、メタルグリズリーの依頼とブラックバイソンの依頼を交換してたよ。」


「交換させられた冒険者の方は、大丈夫でした?」


「ああ、提示された額が、割と良い額だったらしくてね。

しばらく良い酒が飲めるって、喜んでいたよ。

まあ、あの冒険者のパーティーじゃあ、メタルグリズリーは無理そうだったから、ちょうど良かったのかもね。」


「まあ、それなら良いんですか。」

むしろ、あのお貴族様がメタルグリズリーを倒せる実力があるのもびっくりだな。


「あと、不思議だったのは、デゼル草の群生地があるなら、教えてほしい。と」


「デゼル草ですか?クワッツの森に自生してましたっけ?」


「あれは、もっと温かくて乾燥した地域で育つ植物だからね。とりあえず、聞いたことがないと答えておいたけど。私には、お貴族様が何を考えているのは、さっぱりさ。」


「そうですか。

そういえば、先日は三人組のワイバーン討伐の件、ありがとうございました。

うまく、ガリア草採取の方に誘導していただいたようで。」


「気にしないでおくれよ。それが私らの仕事さ。」


クエストカウンターの受付職員は、冒険者が持ってきたクエスト依頼書を、ただ黙って受理しているわけではない。


クエストの難易度と冒険者のレベルを加味して、クエストを振り分けている。

ある意味、審査官的な役割になっている。


でないと、時に虚栄心を織り交ぜて、チャレンジ精神旺盛な冒険者の事だ、身の丈に全くあっていないクエストに挑戦する者が多い。


失敗しては、ギルドとしては、困るのだ。


特に討伐関係は。命を落としたり、命まで落とさないにしても冒険者を続けられないような大怪我をしてしまう可能性もある。そう何回も失敗すれば、ギルドの信用にも関わってくるし、何より狂暴な魔獣に、変にちょっかいを出し、街へと刃を向くなんて事になれば、堪ったもんじゃない。


冒険者達がレベルアップする為に、ある程度の許容は認めているが、度を超す挑戦に関しては、何を言われようと却下している。


「彼らもね。慣れてくれば、ワイバーンじゃないにしても、それなりの魔獣を討伐出来るようになるだろうけど。」


「だと良いのですがね。

ワイバーンを討伐出来ると思っているうちは、しばらくは無理ですね。」


「しょうがないさ。あの子らの年頃じゃ、難しいだろうね。自分の実力も測れずに、お互いがお互い大きく見せたい年ごろだからね。それに、三人同じ村から出てきたっていうじゃないか。あの子らの関係性を見ていると、思ってなくても自分を強く見せるために、つい、言ってしまうんだろ。」


「さっき研修センターに三人送り込んだんで、少しはわかってもらえると良いんですが...。しばらくは、引き続きお願いします。」


「ああ、このマーサに任せときなっ!」

とマーサはウィンクをする。


クエスト課で所用を済ませたライガは、解体場へと向かった。

そこでシェフのジェイクに会った。


「よう!ライガ!」


「こんにちは、ジェイクさん。この時間、お昼の仕込みしなくて良いんですか?」

 

 「ああ、ペーター達に任せてるから、大丈夫だ。

解体場は午後より、今の時間帯の方がすいているからな。イバンさん達と相談しやすいんだ。」


「なるほど。午後はみんなクエスト終えて、魔獣片手に戻ってきますからね。

その後どうです?魔獣を使ったメニューは進んでますか?」


「ああ、おかげ様でな。原価計算もほぼ済んでるよ。」


「さすが!仕事早いですね。じゃあ、早速明日にでも、それを持ってギルマスの所に行ってみます?明日丁度、俺会う約束あるんで、一緒にどうですか?俺も燻製に関して三人で話したいと思っていたんですよ。」


「お前も、仕事早いな...。」と顔をひくひくしているジェイク。


「恐れ入ります。」とニッコリ微笑むライガ。


「ああ、そうだ。今イバンさん、ちょっと機嫌が悪いから、気を付けろよ!」

とこそっと教えてくれたジェイクさんは、厨房へと戻っていった。


解体場にイバンを訪ねにいくと

確かに解体場のイバンは機嫌が悪かった。

どうやらここでも例のお貴族様は、やらかしたらしい。


何でも、自分のマジックバックに入れていた魔獣の解体を数時間後までに解体しろと言ってきたらしい。


通常ならば、問題ないのだが、この日は、足が早い(腐るのが早い)と言われている魔獣の解体作業が入っていた為、直ぐには無理だから預かれないと断ったらしい。


そこで、例のお貴族様は、金で解決を試みようとしたが、足の早い魔獣そっちのけで、別の作業を行う事は出来ないと職人気質のイバンは改めて断ると、今度は「これだから、田舎の職人は駄目なんだとか、王都ならもっと作業が早い、など妙にプライドをくすぐるような言い方をしてきたらしい。


「で、結局、依頼を受けたんですか?」


「ああ、王都の奴らに出来て、俺らに出来ないなんて、言わせねえ!」


「そ、そうですか。」

例のお貴族様は、人を乗せるのか上手いらしい。

と逆に感心してしまったライガであった。

イバンには、そんなこと決して言えないが。




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