タオルと青春
さて、私が所属している野球部は県内で強豪と呼ばれている。
とは言っても私はマネージャーで、みんなが白球を追いかけているのを応援し、サポートする役目だ。
アニメや漫画のマネージャーは意外とベンチからみんなを見ている、みたいな感じだけど、そんなの嘘で。
やることはいっぱいあるから、そんなの1日にちょっとの時間しかない。
まぁ監督の隣でストップウォッチ係するときは見れるけど、大体ランメニューだからバテバテのみんなを見る感じ。
それでも頑張ってる彼らを見れば、いつもキラキラしてる。
ちなみに、私は三年生。そう、今年が最後の甲子園だ。
一年のときも二年のときも、あと一歩で届かない。
特に去年の夏は忘れられない。あのボールを叩く金属バットの音……
非情にもレフトポールギリギリに吸い込まれるサヨナラホームラン、エースがマウンドで唯一膝をついたあの日。先輩との夏を終わらせたあの一球。
「おい、マネージャー。タオルある?」
今年こそは、みんなに甲子園連れてってもらうんだ。
「おーい、あずさ。聞いてる?」
「えっ!?なに?テーピング?」
びっくりした!!まぁ私が考え事してたのが悪いんだけど。
「はぁ、もう聞いてなかったな!」
「ごめんごめんっ!」
周りを見ながら、洗濯後のタオルを探す。
ちなみにこいつは、去年の夏、マウンドに膝をついたエース。
去年は二年生エースだった。
「なに、去年の夏のこと思い出してたの?」
少し胸がドキッてした。当たってるし。本当こういうの鋭くて嫌になる。顔を背けてタオルを取る。
「ち、違うから!ほら、タオル!早く汗拭きな!」
無言で受け取り、雑に汗を拭くエースくん。
「そんな顔で言われてもな。ん、さんきゅ。」
タオルを顔に投げられる。
「ちょっと!汗臭いから!もう!」
「青春の汗の香りだ!覚えとけ!」
帽子を被り直して、グラウンドに戻る姿は、やっぱりキラキラしてて、眩しい。
少し見つめていると、ふとエースが振り返る。
「今年は行くよ、甲子園!お前を連れて行きたいから!」
ぶわっと顔が熱くなる。あいつはもうグラウンドまで走り出していて。
持っているのは、汗くさいタオルだけ。
真っ赤な顔を隠したくて、しょうがないからそのタオルで顔を隠した。
青春の汗の香りを嗅ぎながらタオルに吐き出した、「信じてる」の一言は甲子園の切符をもぎ取ってもらってから伝えようと思う。