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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

古屋敷の呪器

作者: みやび

 物好きなカルトマニアは、その古びた屋敷で、土に埋められた扉を見つけた。

 不審に思ったが、好奇心と言うものには なかなか抗えず、彼はその扉を掘り起こして中へ入った。

 そこは相も変わらず、雑然としたぼろ屋敷の一部屋に見えたが、ぼんやりと月明かりが射す窓の方を見やって目を疑った。

 そこには確かに、椅子に縛り付けられた少年がいた。

 そしてあろうことか彼は、かつてこの屋敷に住んでいた伯爵が、養子に取ったという少年の姿によく似ていた――いや、恐らく、本人だった。



 ***



 この屋敷に住んでいた者は使用人を含め全員が、ある日突然姿を消したという。

 嘘か誠かは分からないが、その原因となったのが、呪いの紋を持った養子の少年であると、そう伝わっていた。

 その紋は大昔から存在する呪いの1つで、何でも一族全員を滅ぼす程の力を持つという。普通にしていれば何も起こらないが、紋を持った人間が何か強い恨みの感情を持った時には、恨まれた対象の一族が悲惨な最期を遂げるだとか、確か、そんな話だったと思う。


 そしてこの屋敷に住んでいた伯爵は、少年を養子として迎えた後、偶然彼の体にその禍々しい紋があることに気づき、地下室に閉じ込めた。それから二度と外に出られないよう、入り口を土で埋めた。恐らくそれが、今私が掘り返したこの扉だった。

 しかし、あの話はもう何十年も前の話で、仮に本当にその養子の少年がここに閉じ込められていたとしても、生きているはずがないし、ましてやあんなしっかりとした姿かたちを持って、ここに居るはずがなかった。有り得るとしたら、精々白骨化死体が良いところなはずだ。

 だが、窓際に居るそれは、間違いなくしっかりとした人間の形をしていたし、何よりその脱げ掛けたシャツの間から覗くのは、例の紋に違いなかった。

 そして更には恐らく――息をしている。



 ***



 少年は動くことも無ければ、こちらを向くことも無い。

 だが死んではいない。あれは生きている者の体だ。

 カルト好きの男は恐怖のあまり、逃げることも出来ずに ただただ立ちすくんだ。

 だが、不思議と、悪霊の類が持つ邪悪な気配などは一切しない。

 間違いなく異様ではあるが、この少年自身は、ごくごく普通の――自分と何ら変わりのない人間であると、そんな気がした。


 男は恐る恐る、少年の方に近付いていく。

 少年が少し、頭を動かした。

 男が君は、と声を掛ける。

 だが、猿ぐつわが施された少年の口では、上手く喋れない。

 喋ることを諦めた少年は、ここでやっと男の顔を見た。

 その目には、何年分の涙だろうかと考えてしまうほど大粒の涙が溜まっていた。それを見て、男はこの少年が普通の人間であることを確信した。そして普通の人間であるとしたら――それはあまりにも可哀想に思えてきて、男は急いで、少年を拘束する猿ぐつわと縄の類を解いてやった。

 拘束を解かれた少年は、力なく男の胸に倒れ込む。その肌は確かに普通の人間の肌の感触だったが、しかしあまりにも冷たかった。心臓の鼓動は確かに伝わって来るが、生きている人間としては有り得ない程冷たい。

 少年は何か言おうとするような動作をしたが、突然気を失ったように、眠りに落ちた。



 ***



 それから暫くの話である。

 私はあの後、すぐに少年を病院へ連れて行った。

 だが、その後少年と再び会ったのは、街でも有名な呪術師の家だった。

 そこで聞いたことの衝撃と言えば、後にも先にも、あの時一度きりだったように思う。


 まず、病院の検査の結果は、体内の内臓の類は全て機能が停止していたとのこと。

 それでもどうにか心臓が動いて、生きることが出来ているのは、その胸にある紋の力によるものだと、そう医師は結論付けた。

 だが紋については、医者ではどうすることも出来ない為、呪術師の元に送られることになったらしい。


 そして送られた先の呪術師は言う。その紋の呪いは強力で、解くことは出来ないと。

 少年はそれなら、殺してくれと言った。

 伯爵の失踪事件がもう何十年も前の話なら、確かにこの少年も、何十年もあの部屋に閉じ込められたまま、呪いの力によって命を繋いできたことになる。これ以上生きろという方が酷な話だろう。

 でも最期に、この呪いから救ってくれた私にもう一度会いたいと、それで今ここに、私を呼んだのだと、呪術師はそう言った。


 少年は既にまともに喋る能力を失っていたが、確かにその時、”有難う”と言う口の動きをしていたように思う。

 その後、呪術師は見るからに怪しげな小瓶を取り出してきて、少年に飲ませた。

 少年は小瓶を飲み干すと、間もなく崩れ落ちるようにして倒れた。

 その肌は相変わらず冷たかったが、もうあの時のような鼓動は聞こえなかった。

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