83.
「もう大丈夫なの?」
僕とシャルロッテが戻ると、ティアは心配そうな顔で聞いてきた。
「はい、ご心配をおかけしました」
「そう、それは良かったわ」
「ティアも、シャルのことが心配だったんだよね? ありがとう」
「なっ⁉ 私は、それで戦いに集中できなかったら困るって思っただけよ!」
僕の言葉に、ぷいっと顔を背けるティア。
「えへへ、ティアさんはやっぱり優しいんですね。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるシャルロッテ。
まんざらでもなさそうに、ティアは柔らかく微笑むのだった。
「かくかくしかじかで――」
その後、僕はティアに事情を説明していく。
「ええっ⁉ 帰り道にモンスターに襲われて、シャルのスキルが使えるようになった⁉」
「うん。そしたらシャルが、とんでもないものを予知しちゃって……」
「てへっ、本当に驚きました」
冗談めかしてシャルロッテは笑っているが、笑うしかないというのが正直なところだろう。久々に使ったスキルで、ひとつの村が滅びる様を予知するとかヘビーすぎる。
一度、パーティメンバーでどうするか話し合うため、僕たちは宿に戻ることにした。
宿に戻る旨を告げると、リットさんたちには別れを惜しむように次々に握手を求めてきた。
「本当に助かりました!」
「この御恩は一生忘れません!」
彼らは口々にお礼を言いながら、深々と頭を下げている。
「少ないですが、どうぞ受け取って下さい!」
「そ、そんなに受け取れませんよ⁉」
金貨の山を渡そうとしてくるリットをどうにか躱わし、僕たちは宿に戻るのだった。
***
道中は特に何事もなく、僕たちは数分後には宿に戻ることが出来た。
「おかえり、お兄ちゃん!」
「おつかれさまです、アレス様。ご無事で何よりです」
ぴょーんと飛んでくるリーシャを受けとめ、よしよしと頭を撫でてやる。わ~い、とリーシャは無邪気に手を上げて喜んでいた。
「実は――かくかくしかじかで……」
パーティメンバー全員と合流し、僕は何があったかひととおり説明した。
「その予知について、具体的なことは分からないの?」
ティアが口にしたのは、しごく当然の疑問だった。
「少し待ってて下さいね、もう一度見てみます!」
「シャル、大丈夫?」
「はい、任せて下さい!」
少しだけ顔色が悪いシャルロッテだったが、久々に予知に成功してすっかり張り切っているようだ。シャルロッテが目を閉じ手を合わせると、どこか幻想的な光に包まれていく。こうして真面目な顔で祈りを捧げる姿は、普段からは考えられないほどに威厳があった。
「これが……、聖女様の予知――」
ごくりとティアがつばを飲んだところで、
「……見えました!」
シャルロッテは、パッと目を見開き声を上げる。
「遥か東の辺境にあるひだまりの村――天使信仰で有名な村ですね。その傍にある塔で、堕天使が復活するそうです。村は堕天使によって滅ぼされ――あたり一帯は廃墟になります」
「堕天使?」
にわかには信じがたい話だった。
だけども聖女の予知能力は、これまでも王国の危機を何度も救ってきたものだ。どれだけ荒唐無稽なものであっても、それは近い将来、確実に起こる出来事なのだ。
「辺境にあるひだまりの村……」
少し遠回りにはなるが、ティバレーの街に戻って馬車を貸し切るか?
そんなことを考えていると、シャルロッテがこんなことを尋ねてきた。
「足が必要なんですよね?」
「はい」
何やら考え込んでいた様子のシャルロッテだったが、
「非常事態です、背に腹は代えられないですね。移動手段については任せて貰えますか?」
そう言いながら遠隔通話用の魔導具を手に取り、どこかに向かって連絡を取り始めた。






