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 それは、ある日のアーヴィン家。

 私――リナリー・ローズは、今日も憂鬱な気持ちで朝を迎えました。


 私はローズ家の四女として生を受け、今はアーヴィン家でメイドをしています。

 使用人もアーヴィン家に相応しくあれ、と洗練されたマナーを求められましたが、理不尽な要求はなく、先輩にも恵まれて、働きがいのある職場でした。


 ……ですが最近、その状況は一変してしまいました。



「本当にどうしてこんなことに……」


 すべての歯車が狂ったのは神託の儀。


 次期領主になるはずだったアレス様は外れスキルを、ゴーマン様は【極・神剣使い】という超レアスキルを手にしました。

 その結果を受けて、領主様はあっという間に手のひらを返して、ゴーマン様を次期領主に決定したのです。

 そしてあろうことか、アレス様を追放処分にしてしまったのです。

 

 ――アレス様を追放することは、ゴーマン様の希望だったと言います。

 彼のわがままを、誰にも止められなくなったのです。



 私は先日、ゴーマン様の専属メイドとなりました。

 ゴーマン様が、専属メイドを増やしてほしいと父親に要求したからです。



「はあ。これから毎日、ゴーマンお坊ちゃまのご機嫌伺いか……」

 

 私は憂鬱な気持ちで、ゴーマン様の部屋に向かうのでした。

 



◆◇◆◇◆


「失礼します」

「何をしていた! 遅いぞ!!」


 部屋に入った瞬間、罵声が飛んできます。

 


「申し訳ございません」


「まあ良い。早く朝飯を持って来い!」

「は、はい! 準備がございますので、少々お待ち――」



 ゴーマン様はつかつかと私に歩みより、パーンと私の頬を張りました。


「良いからさっさと持って来い! ふわふわマカロンに、食後のティーもセットだぞ!」


 いきなりどうして?

 ――私は思わず地面に倒れこみ、呆然とゴーマンの顔を見つめ返してしまいます。



「いつまでそうしている!」

「申し訳ございません」


 再びゴーマン様が手を上げようとします。

 私は慌てて立ち上がり、必死に謝罪しました。



「まったく。どいつもこいつもノロノロしやがって――たまたま良いスキルを貰っただけだと、俺を舐めてるんだろう?」

「そ、そのようなことはありません」


「どうだかな? 働きが悪いやつは、すぐにクビにするからな!」

「申し訳ございません」


 どうしてこんなことになってしまったのでしょう。 

 アレス様なら、こんな無茶苦茶な要求は絶対に出さないのに。


 アレス様は、本当に謙虚な方でした。

 日々の剣の修行に加えて、次期領主の教育にも真摯に取り組んでいました。

 屋敷で働くメイドが相手でも、分け隔てなく接してくれました。



 それなのに――


「なあ、リナリー。外れスキル持ちなんて例外なくクズだ。そうは思わないか?」

「……おっしゃる通りです」


 私は思わず、ギリリと歯ぎしりしたくなりました。

 何故なら私も、《外れスキル》を持って生まれたからです。

 それを分かっていながら、この方は、わざわざそんなことを口にしたのです。



「そんな外れスキル持ちにも関わらず、俺はわざわざおまえを選んでやったのだ。俺は下らない事に捕らわれず、その人が持つ実力を見抜く人間だからな!」

「……さすがは、ゴーマン様です」


 心にもない私の賛辞に、ゴーマンは気持ちよさそうに笑いました。

 外れスキル持ちだからとアレス様を追い出しておいて、どの口がそんなことを言うのでしょう。



 こんな人に、一生仕えるの?

 こんなことを、ずっと続けるの?

 ……それは、ちっとも明るい未来だとは思えませんでした。



 私は外れスキル持ちは要らないと、半ば強引に奉公に出されました。

 そんな私がアーヴィン家で頑張ろうと思えたのは、アレス様が居たおかげでした。

 彼は意識もして居ないのでしょうけど、私は彼の優しさに救われてました。

 だから彼の専属メイドになって、いずれは恩返ししたいと願って、仕事にも前向きに取り組めたんです。

 ――アレス様は私の心の支えでした。



 それなのに……私はアレス様が大変なときには、声をかけることが出来ませんでした。

 どんな表情で会えば良いのか分からなかった――あまりに臆病者です。

 そうして迷いを抱えたまま、今もこうして屋敷にくすぶっています。



 もう遅すぎるかもしれない。

 それでもアレス様を追いかけよう――私はひそかに、そんな決意を固めるのでした。

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