61
冒険者ギルドに戻った僕たちの周りに、あっという間に冒険者たちが集まっていた。
共に大災厄に挑むために、世界各地から集まった冒険者たちだ。
「アレスさん! よくぞご無事で──!」
「アンデッドの群れが突如として消えたからな。もしかするとアレスさんたちがやったのかと思って、急いで戻ってきたんだ!」
そう感動したように言うのは、先頭に立つロレーヌさん。
怪我を負った負傷者の姿も目立つ。
アルバスは大災厄を引き起こし、アンデッドの群れを街に向かって解き放った。
それを迎え撃った冒険者たちの負担は大きかったのだろう。
しかし街を守り抜いた彼らの表情は明るかった。
「ロレーヌさん、それに集まって下さった冒険者の皆さんも。この街が大災厄という危機を無事に乗り越えられたのは、あなたたちのおかげです」
倒せど倒せど押し寄せてくるアンデッドの群れ。
終わりの見えないモンスターによる襲撃。
それはバハムートと対峙するのとは異なる精神を摩耗する戦いだろう。
これも僕だけでは成せなかったこと。
僕は集まった冒険者たちに、深々と頭を下げる。
しかし集まった冒険者の反応は、予想外のものだった。
「おいおい! 大災厄から街を救った英雄が、そうやって頭を下げるもんじゃねえ!」
「今日は思いっきり飲むぞ! 英雄様から話を聞く格好の機会だ──!」
達成感に満ち溢れた冒険者の面々。
冒険者たちは、基本的に祭りが好きだ。
誰かがお酒を持ち込んだのだろう。
さらには上機嫌な商人も、空気に当てられ秘蔵の酒を取り出す。
またたく間に冒険者ギルドが宴会会場と化そうとしたところで、
「こんのクソ忙しいときに、宴会なんてやる気!? 冗談でしょう、外でやってちょうだい!」
かたや後始末に追われる受付嬢が、そうブチギレた。
普段はニコニコと愛想の良い受付嬢。
反面、怒らせると誰より怖いのも誰もが知っており、蜘蛛の子を散らすように冒険者たちが逃げ出した。
筋骨隆々のマッチョも怒れる受付嬢には勝てないのだ。
「大変そうですね……」
「ええ。でもこれも、皆さんもがこの街を守って下さったからこそ。そう分かってるんですけど──」
これから報告書にまとめるだけでも一苦労だと、受付嬢がため息を付いた。
「アレスさん! バハムートを倒した英雄譚。どうかこちらに来て聞かせて下さい。やっぱり、英雄が居ないと始まりません!」
「アレスさん、行って下さい。ここからは私たちの仕事ですから」
受付嬢は、そう言って微笑んだ。
それでは、と頭を下げて僕たちは冒険者ギルドを後にする。
◆◇◆◇◆
それから向かったのは、宴会会場と化した飲食店。
今日は特別な日だからと冒険者たちを快く迎え入れたばかりか、特別なお酒を惜しみなく提供してくれた。
……まあ僕たちの中に、お酒を飲める人は居ないのだけど。
「ええ!? それじゃあバハムートを倒したのは、ティアちゃんなのかい!?」
「ええっと、はい。ドラゴンスレイヤーの称号も手に入りました。でも大災厄を引き起こした黒幕は、別に居ます。バハムートは、そのおまけで……」
「いやいや。バハムートがおまけって……」
すべてを話せるわけではない。
それでもティアがバハムートを倒したこと、バハムートを使役して大災厄を引き起こした黒幕を僕が倒したことを、ティアが面白おかしく説明していく。
彼女の戦いは、僕も詳しく見ている訳ではないので興味深い。
「ティアも無茶するよね。防御は要らないから、攻撃力だけ欲しいって。ドラゴン相手に『図体ばかりがでかい相手から、攻撃貰う方が難しいわよ』なんて言うのは、後にも先にもティアぐらいだよ」
「そ、それは無我夢中で……! 良いじゃない、勝てたんだから!」
ティアの語るバハムートとの戦い。
さらには大災厄の黒幕を、僕が打ち倒したエピソード。
それらは時に脚色されながら、街の吟遊詩人に語り継がれる定番の物語となっていくのだが──それはまた別のお話。
「ドラゴンスレイヤーのティアと、神殺しのアレス!」
「めでたいな! 我が街から、こうも短期間に、称号持ちの冒険者が2人も現れるなんて──!」
称号持ち。
それは冒険者にとっては、憧れの1つ。
「なんてお似合いなんだ!!」
「良いなあ。俺もこの街に引っ越して、拠点にしようかな……」
「いやいや、そうもドラゴンや邪神と戦う機会があってたまりますかい!」
冒険者たちのテンションは、底なしに上がり続ける。
引っ張られるティアも楽しそうで、リナリーも目の前で見た戦いを盛りに盛りながら話していた。
一方、リーシャは眠たそうに目をこすり、そのうち船を漕ぎ始めていた。
そうして夜は更けていく。
「ちょっと、アレス。聞いてるの? バハムートだって倒せるようになった今、もう私を置いていこうとはしないわよね?」
「も、もちろん──」
「そう言いながらアレスは何かあったら、私を置いていくんだ~!」
世の中には空気だけで酔える人が居る。
そしてティアは酔うと──存外に面倒くさい少女だった。
「知ってるんだから! でも、そんなことは許さない! 何があっても、地の底までも追いかけてやるんだから……!」
「ティア、もしかして酔ってる……?」
「酔ってない!」
くわっと目を見開くティア。
「ヒューヒュー、痴話喧嘩かい?」
「若々しくて良いねえ!」
「アレスさんは、ティアちゃんを大事にしないといけないよ……?」
無責任に煽って、バタバタと酔いつぶれていく冒険者たち。
そして広がる地獄絵図。
「ちょっと、アレス。聞いてるの? だいたい、あなたはいつも──」
「ええっと……」
一方のティアは、どこまてもマイペース。
「あ、私はお手伝いしてきますね。頑張って下さい、アレス様!」
リナリーに助けを求めるが、彼女はそっと目をそらし、厨房に向かってしまった。
一方、スピーと安らかな寝息を立てるリーシャ。
周りの冒険者たちは面白がって囃し立てるのみ。
その日、宴会会場を訪れるものは後を絶たず。
にぎやかな夜はいつまても続いていった。






