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「暗黒竜バハムート――不完全な状態での復活だけど、この町を消し飛ばすぐらいなら訳ないよね」


 さらに脅威はドラゴンだけではない。

 まるでドラゴンの咆哮と呼応するように、闘技場の中に大量のアンデッドが発生していた。



「こ、これが大災厄!?」

「そうだよ。この町は、直にアンデッドの大群に襲われる。止められるものなら、止めてみるが良いさ」


 アルバスは、そう言って笑った。

 世界を守るはずの初代デバッガーが望んだのは、世界の破滅。


 ティバレーの街の周辺には、大量のアンデッドが発生していた。

 産まれたアンデッドたちは、近くの街を滅ぼさんと一斉にティバレーの街を目指す。



「アルバス! どうして、こんなこと――!」

「リーシャこそ、どうしてこんな世界を守りたいと願うんだい? こんな世界、滅んでしまえば良いと、ずっと思っていたよ」


 悲鳴のような声を上げるリーシャ。

 それに答えるアルバスの瞳は、どこまでも淀んでいた。


「やれ、バハムート! この場に居る人間を皆殺しにしろ!」



 グアアアアアアアア!


 アルバスの声を受けて、バハムートは咆哮とともに凶悪なブレスを放った。

 生身の人間がまともに喰らえば、跡形も残らないドラゴンのブレス。

 直撃すれば、あっという間にパーティが全滅しそうな禍々しい一撃であったが、


「『エンチャント・アイスバリア!』」

「――ッ! 『アイシクル・ガード!』」


 それは咄嗟の判断だったのだろう。

 ティアが前に出て、特大の氷シールドを展開した。

 僕も慌てて『状態異常の付け替え』で、支援効果を付与する。



「ティア、すごいよ! ドラゴンのブレス、防げてる!」

「どう考えても、アレスの支援効果のおかげ! でもあのブレスはヤバすぎる。長くは持たないわよ!」


 ガリガリと削られる氷の盾。

 辛うじて凶悪なブレスを防ぎきったものの、ティアの負担はあまりにも大きすぎた。

 

 ちっぽけな人間なんて、あっさりと蹴散らせると思っていたのだろう。

 バハムートは苛立ったように、巨大な翼を羽ばたかせた。

 突如として巻き起こった突風は、アルバスが深く被ったフードを吹き飛ばして――


「――ッ!」

「人間とモンスターのハーフ!?」


 ティアが隣で、驚きに息を呑む。

 アルバスの額には、角が生えていた。

 それは到底、人間が持ち得るものではなく――



「そんな、バケモノを見るような目で見ないでよ? 人間と鬼族のハーフなんてさ。別に世界全体で見れば、珍しくもなんともないだろう?」


 そんな驚愕を見て、アルバスは面白くもなさそうに笑った。


 モンスターとの戦争状態にある今、モンスターは恐怖の象徴であった。

 その特徴を有したものが、どのような扱いをされるか――



「アルバス。君は……」

「安っぽい同情は要らないよ。結果的に僕は世界に選ばれて、こうして力を手に入れたんだから」


「アルバス、あなたはそんなことを望む人じゃなかった! 私は前世で、あなたからいろいろなことを教わった。だから、だから――」

「今さらやめろとでも? 冗談じゃない。こんな楽しいこと、どうして止められるっていうんだい?」


 アルバスは再度、バハムートに何やら指示を出した。


「止めれるもんなら、止めてみなよ」



 大災厄を引き起こす凶悪なモンスターを、完全に支配下に置いているようだ。

 相手の使役するドラゴンに対して、こちらの戦力はあまりにも小さい。

 それでも――

 


「お願い、お兄ちゃん、お姉ちゃん! どうかアルバスを止めて!」


「任せておきなさい!」

「望むところだよ」


 こんなところでは終われない。




◆◇◆◇◆


 一方の、冒険者ギルド。


「アリスさん! 北門にもアンデッドの群れが現れたと、門番から報告が上がっています!」

「そんな! この街、完全にアンデッドに囲まれてるじゃない!」


 次々と飛び込んでくる報告を前に、受付嬢――アリスは頭を抱えていた。

 ただならぬ様子で出ていったアレスを見て、嫌な予感はしていたのだ。


「これが、アレスさんの言っていた大災厄――」

「ついに来てしまったのだな」


 受付嬢の隣で、ギルドマスターも深く頷いた。



 それぞれの門の前には、いざという時のために各都市から集まった冒険者の集団が守っている。

 この日に向けて、随分と準備はしてきた。 

 だとしてもアンデッドの大量発生というのは、あまりにも唐突で予想の外側。


「アリスさん! 闘技場の方で、巨大なドラゴンが発見されたそうです。どうしますか!?」

「ドラゴンですって!?」


 さらには追い打ちをかけるように、こんな情報まで飛び込んでくる。


 ドラゴンは魔界の奥深くに眠っているはずの、強大なモンスターだ。

 人間に抗うことなど許されない絶対的な強者。

 間違いなく、そいつが大災厄を率いているのだろう。



「ええい! 落ち着け!」

「でもアンデッドにドラゴンですよ!? 我々はいったいどうすれば!?」


 うきあしだつ立つ冒険者たちを前に、ギルドマスターが声を張り上げた。

 こんな状況でも冷静なギルドマスターを前に、わずかに騒ぎが収まる。



「焦っても状況は好転せん。我々の役割を見失うな!」

「向こうにはアレスさんが居る。私たちはとにかく、アンデッドからこの街を守り抜くことを考えるべきだ!」


 混乱が収まるのを見計らって、ロレーヌさんもそう声を上げた。



「でも……。いくらアレスさんたちでも、ドラゴンの相手は――」

「そこはアレスさんたちを信じるしかない。とにかく街をアンデッドたちから守り抜く――とにかくそこだけに注力するべきだ!」


 アレスのことを信じ切ったロレーヌの発言。

 街でも有数のパーティの言葉は、じんわりと冒険者の心に染みわたっていく。



 ティバレーの街を囲むように現れたアンデッドの集団。

 もし、何も準備出来ていないところに襲い掛かって来ていれば、数の暴力で押し切られてしまうことだろう。

 しかしアレスの言葉により、ティバレーの街には歴戦の冒険者が集まっていた。


「北門の群れは、多数のアンデッドナイトを含む混成部隊だ。こちらの余剰戦力を投入したいのだが、問題はないか?」


「ああ、問題ない。こういう状況でのロレーヌの判断は信じられる」

「ここが踏ん張りどころですね! 分かりました!」


 頷き返すギルドマスターに、受付嬢がパッと笑った。



 このような緊急事態でも、冷静なロレーヌとギルドマスター。

 そんな彼らを見て、冒険者に控えていた面々も、少しずつ落ち着きを取り戻していく。



 そんな様子を見届け、ロレーヌは街はずれにある闘技場の方を見た。

 そこに現れたのは大災厄の本体であろうドラゴン。

 それでも、アレスさんたちならきっと――



「私たちは、私たちで出来ることをやらないとな」


 祈るように目を閉じていたが、やがてはロレーヌたちのパーティも戦場に向かうのだった。

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