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僕たちが冒険者ギルドに、Sランクダンジョンの調査クエストを報告して数日。
冒険者ギルドには、着々と近隣の街から冒険者が集まって来ていた。
すべては大災厄と呼ばれる現象に立ち向かうため。
結局のところその正体は予測できず、冒険者ギルドでは、SSS級のモンスターや、超大規模なA級以上のモンスターの大群を想定して準備を進めているらしい。
回復薬の備蓄や装備品の底上げなどが、順次進められていた。
「僕にも、何か手伝えることはありますか?」
「アレスさんには、かなりの数のアイテムを用意して頂きました。大災厄を止める切り札になるのは、アレスさんの力だと思います。今は少しでも休んで、英気を養って頂ければ……」
「そうは言われても、先輩の冒険者が働いてるのに……。落ち着かないよ」
「アレスらしいわね」
そんなやり取りをしていると、近くに居たティアがクスリと笑った。
「私たちに、集まった冒険者たちの指揮を取ることが出来る?」
「それは……。無理だね」
「こういう大規模な作戦では、集まった人がそれぞれの役割をこなすことが大切なの。下手に出しゃばっても、かえって混乱させてしまう。私たちは、出番がくるまでドンと構えておけば良いのよ!」
「そういうものなのかな?」
「そういうものよ」
ティアはどや顔でそう語る。
幼いころから冒険者に混じって、クエストをこなしてきたティアの言葉には不思議な説得力があったのだ。
それはどたばたと慌ただしい、冒険者ギルドでの他愛のない会話だった。
それは突然のことだった。
感じ取ったのはデバッガーの本能か。
明らかに異質なものが、接触しようとしているのを僕は悟った。
『デバッグコンソール!』
「お兄ちゃん?」
「リーシャ、みんな、離れて! 何かおかしい!」
僕は素早くデバッグコンソールを発動。
僕にしか見えない文字の羅列が、ふよふよと周囲を漂い始める。
この世界は、すべて文字と数字で構成されている――僕は周囲を見渡し、その空間を見つけ出す。
『null null null null null null 』
『null null null null null null 』
いつぞや見た、黒い染み。
僕は反射的に世界に干渉して、それを消そうとして――
「おいおい、挨拶だなあ。いきなりそれはないだろう?」
「な――!? ゴーマン!?」
その黒い染みが、突如として弟の顔を形作った。
真っ黒な空間に、ぴょこんとゴーマンの顔だけが現れる。
あれは、世界を壊すバグの1つだったはずだ。
どうしてそこから、ゴーマンの顔が現れる?
「アレス! 俺はこのとおり、世界を思うがままに操る力を得た! 今度こそ、おまえには負けねえ!」
「ゴーマン、落ち着いて! どこでそんな力を!?」
「はっはっは! 俺がこの力を手に入れたと知って、驚いたのか? 親切な人が、俺にこの力を授けてくれたのさ。世界を思うがままに操る力をな!」
「ゴーマン、それは世界を思うがままに操る力なんかじゃない! ただ世界を滅ぼす力で、君は体よく利用されてるだけだよ」
僕の言葉は、何らゴーマンには届かない。
「黙れ!! 俺は世界に選ばれたんだ。俺がお前に負けるなんて、やっぱりおかしかったんだ!」
「お兄ちゃん。ゴーマンは、バグに呑まれてる。恐らくはもう――」
一方的にまくし立てるゴーマン。
リーシャが黙って、首を振った。
どう見ても、ゴーマンは正気を失っていた。
ゴーマンに力を授けたという人は、恐らくアルバスだろう。
「アレス・アーヴィン。すべての決着を付けようじゃないか! 闘技場で決闘だ! もし来なかったらこの力で――分かってるよな?」
「分かったよ。デバッガーとして、君を放っておく訳にはいかない。決着を付けよう。その代わり約束して? その力を無暗に振るわないと」
「ちっ、最後まで良い子ちゃんぶりやがって。ああ、良いぜ! 俺は闘技場でおまえを叩き潰せるなら、それだけで十分だ」
僕の言葉に満足したのか、ゴーマンは獰猛に笑い顔を引っ込めた。
ゴーマンが消えるのと同時に、この空間に存在したバグも一緒に消滅する。
僕がふうとため息を付くと同時に、ティアとリナリーが駆け寄ってきた。
「アレス、さっきの話は本当なの!?」
「うん。信じたくはないけど……。どうやらゴーマンは、バグをある程度は使いこなしてるみたい」
「アレスに負けたからって、バグを使って復讐しようとするなんて。完全な逆恨みじゃない!」
「アレス様、ティア様。ゴーマンは、とても執念深い人です。どうか、お気を付けて……」
その後、僕たちは冒険者ギルドに闘技場付近の人払いを頼んだ。
バグの危険性に気づいていないゴーマンは、あまりに危険だからだ。
「アレス、まさか私を置いていくなんて言わないわよね?」
「お兄ちゃん、私も行くよ。黒幕は間違いなくアルバス。大災厄が関係しているのかもしれない」
「わ、私も! 私だけお留守番なんて、絶対に嫌ですからね!」
「うん、分かってる。――行こう!」
ティアたちは、危険を承知の上で、結末を見届けたいと願った。
それがパーティメンバーの意思なら、僕に出来ることは共に行くことのみ。
そうして僕たちは、ゴーマンに指定された闘技場に向かうのだった。






