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 僕たちはその後、少女を村に送り届けることにした。

 少女の村はアーヴィン家からそう離れていない場所にあり、畑が多く穏やかな空気が流れるのどかな村だった。



「おお、アンネ! 無事だったのか!」

「心配したんだぞ! 1人で村の外に出ちゃ、ダメじゃないか!」


 村に入るなり、両親が駆け寄ってきて少女を抱きしめた。


「お父さん、お母さん。ごめんなさい」


 しょんぼり謝る少女。

 実に微笑ましい光景で、助けが間に合って良かったと安堵(あんど)する。



「あなた方は、娘の命の恩人です。何とお礼をしたら良いか!」

「お礼なら、命がけでこの子を守り抜いたティアに言ってやって下さい」


「え!?」


 僕はティアの背中を押した。

 何故か彼女は、一歩引いたところから、事態を見守っていたのだ。


「あなたが、アンネを守って下さったんですね!」


 拝まんばかりの勢いで少女の両親は、何度も何度もティアに頭を下げた。

 こういう状況には、あまり慣れていないのだろう――ティアは恥ずかしそうに目を白黒させていたが、

 

「そ、その……。どういたしまして」


 やがて小声で、そう答えるのだった。




◇◆◇◆◇


 是非とも村でゆっくりして行って欲しいと少女の両親にせがまれ、僕たちは村の中央の広場に移動した。


「やったー!」


 少女は楽しそうに、僕たちの周りを駆け回る。

 すっかり懐かれてしまったようだ。


 

 やがて少女が見つかったという騒ぎを聞きつけたのか、広場に村人が集まってきた。

 少女を見て思わず表情を緩める。


「そちらにいらっしゃるのは、もしかしてアーヴィン家のアレスさんですか!?」

「はい。追放されてしまいましたが……」


「やっぱりアレスさんでしたか!」


 僕に声をかけた村人の表情が、パッと明るくなった。

 それから人懐っこい笑みを浮かべる。



「それにしても……アレスさんを追放なんて。噂は本当なんですか?」

「――はい」


 僕は黙って頷いた。


 この村には、視察で何度か訪れている。

 いずれは領主になるはずだと、随分と期待されていたはずだ。

 期待を裏切ることになり、ただただ申し訳なかった。



「こんなことを言って、慰めになるかは分かりませんが……」


 うつむく僕にかけられた言葉は、温かいものだった。



「アレスさんは領地を知るために、剣の修業の合間を縫って、毎日のように領地を回っていらっしゃいました」

「私たちのような下々の者にまで、気さくに話しかけて下さいました」

「農作物の実りが悪いときは、税の免除が必要だと、領主様にかけあって下さいました!」


 村人たちが、口々にそんなことを言い出し――そんなこともあったなあ、と僕は懐かしくなった。


 戦うだけでは、領地を治められない。

 僕は頻繁に視察のために(ときにはお忍びで)、領地の村を訪れるようにしていた。


 家族からは、無駄だと馬鹿にされた。

 報告が上がってくるのだから、それに目を通すだけで十分だと。

 領地の評価を上げるためには、まずはモンスター相手に戦果を立てるのが最優先で、領民の機嫌を伺いなど時間の無駄だとも。



「ありがとうございます。こんな僕でも、お役に立てていたなら嬉しいです」


 こうして僕のしてきた事を認めてくれる人が居ると思うと、これまでの行動は間違っていなかったんだと胸が温かくなる。

 どこか誇らしそうに、ティアがそんな様子を眺めていた。



「それに比べてゴーマンさんは――普段は基本的には屋敷にこもって……。視察に来たときは、話しかけるのも嫌だとばかりに私たちを見下して……」

「これから先が不安ですよね……」


 どうやらこの村には、弟も視察で何度か訪れているらしい。

 しかし評判は、お世辞にも良いものではないようだった。



「今回のことも、娘の危機に通りかかったのがアレスさんでなく、ゴーマンさんの方だったらと思うと背筋が凍りそうだ」

「あの方は、自分が矢面に立って民を助けるなんてこと……まずしませんよね?」


 う~ん……否定してあげたいけど、否定できる材料がまるでない。

 これから信頼を頑張って勝ち取るんだぞ――と、僕は内心で弟にエールを送る。


 その後、少女の両親から「どうしてもお礼がしたい」と言われ、僕たちは村で一晩お世話になることになった。




◇◆◇◆◇


 そして翌日。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん! ありがとうございました!」

「アレス様の旅先でのご活躍を、お祈りしています!」


 何故か村人たちに総出で見送られ、僕たちは少しだけ恐縮しながら村を後にした。

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