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そうして、瞬く間に決闘の日がやって来た。
決闘は、街外れの闘技場で開かれるらしい。
貴族同士の揉め事に使われるほか、冒険者が腕を競い合うためにも使われているらしい。
街では数少ない娯楽としても機能していた。
「うわあ。すごい人だね……」
「そりゃ、期待の冒険者が出るって噂だもの。戦いを一目見たいって願う人は、多いんじゃない?」
人ごみにドン引きする僕に、ティアがそう笑いかけた。
たぶん目的は、僕ではなくゴーマンだと思うけど……。
ゴーマンは「超レアスキルを手にした次期領主・ゴーマン様の初決闘だ!」と大々的に触れ回り、多くの観客を集めたらしい。
ティアたちに無茶な要求を突きつけた以上、僕も全力で迎え撃つだけだ。
「アレス様、頑張ってください!」
「やりすぎないでね、アレス」
ティアとリナリーに見送られ、僕は闘技場の中に入った。
◆◇◆◇◆
闘技場に入った僕を迎えたのは、ゴーマンだった。
「ふん。よく逃げずに来たな。これだけの大人数を前に、化けの皮を剝がされる気持ちはどうだ?」
「今日まで出来ることは全てしてきたからね。精いっぱい戦うだけだよ」
「ふん、口だけは一丁前だな? 辞退するなら今だぞ?」
ゴーマンが嗜虐的な笑みを浮かべる。
負けることなど、みじんも想像していないようだった。
「僕だって、あれから遊んでた訳じゃない。ティアの意思を無視して、決闘で決着を付けると言うのなら――僕だって負けるつもりはないよ」
「ほざけ! ティアは俺と一緒にいた方が幸せになれるに決まってる!」
僕だって最初は、そう思っていた。
だけどティアの願いを聞いてしまった今、こんなことで彼女の意思を曲げさせる訳にはいかないと思っていた。
「ティアの幸せを決めるのは、ティアだよ。僕たちじゃない」
「ふん。最後まできれいごとを言うか。アレス、お前のことは昔から嫌いだった。ようやく俺の方が優れているって証明できるんだ――観客の前で、ボコボコにしてやるよ」
僕の宣言に、ゴーマンは獰猛に吠えた。
そうして僕たちは決闘の場に向かった。
◆◇◆◇◆
「ゴーマン様~! 次期領主の力、見せつけてやって下さい!」
ゴーマンが決闘場の中に入ると、観客席の隅っこでそんな声が上がった。
会場にいる人数からすれば小さなものだったが、ゴーマンは気持ちよさそうに手を振り返している。
続いて僕が決闘場に入ると、
「うおーーー! アレス様~!!」
「ついに! ついに! アレス様の戦いが見られるんだな~!」
「そんな口だけ領主、叩きのめしてやって下さい!」
観客席から、割れんばかりの声援が響き渡った。
最前列で見守るのは、ティアとリナリー。
それだけでなく冒険者ギルドでお世話になった人たちが、楽しそうに声を上げている。
「な、馬鹿な――今日に備えて、俺を支持する配下を、闘技場まで応援に来るように誘ったのに。アレス! いったい何をしやがった!」
「な、なにもしてないよ?」
ゴーマンがケンカを売った相手は、『神殺し』の称号を手にした例の冒険者で、その正体は実家を追放された元・次期領主らしい。
実はそんな噂が街中を駆け巡っていたのだが、あいにくとアレスはそのことを知らなかったのだ。
「俺が今の次期領主だ! ふざけるな! 俺を見ろ!!」
ゴーマンは地団駄を踏んでいた。
「――試合、はじめ!」
そうして審判が戦闘開始の合図を送る。
「ハッハッハッハ! 外れスキル持ちには超えられない、圧倒的な力量差を、思い知らせてやるよ! 一瞬で終わらせてやるぜ!」
ゴーマンが高笑いをしながら、僕に突っ込んできた。
フェイントかな?
ゴーマンの動きはあまりに単調だった。
恐らくはスキル【剣士】による突撃技。
敵に向かって突っ込むだけの一撃だ――まだ初級モンスタの方が工夫する。
僕はゴーマンの剣を見据えて、軽くいなしていく。
「おらおら! どうした! 防ぐので精いっぱいか!?」
一方、ゴーマンは実に楽しそうに剣を振るっていた。
剣士や剣聖のスキルを、次々と振るってくるが……。
「ゴーマン、どうして剣士や剣聖のスキルを?」
「はっはっは! 可哀想なアレスにも教えてやろう。極・神剣使いはな! 手に入れたら剣士・剣聖の技を、すべて手に入れることが出来るんだよ!」
そんなことは知っている。
下位スキルである【剣士】【剣聖】の技が使い放題になるのが【極・神剣使い】のスキルレベル1による恩恵なのだ。
「ハッハッハッハ! あの剣聖のスキルだって使い放題なんだぞ! まったく、極・神剣使いってのは、最高だよな! どうだ、アレス!! これが俺の手にした力だ!!!」
ゴーマンは高笑いしながら、なおも剣を振るっていた。
一方の僕は、ただ反応に困っていた。
極・神剣使いのスキルの真骨頂は、下位スキルを得ることではない。
たとえばスキルレベル6で覚えた神剣使いの固有スキルは、そんな恩恵を過去にするほど強力なものだ。
僕より早く、極・神剣使いのスキルを手にしたゴーマンが、分からないはずがない。
それなのに、僕に対して剣聖のスキルを使う理由は――
「『虚空・瞬破ッ』!」
そういうことか。
僕は、極・神剣使いのスキルを発動する。
目にもとまらぬ強力な切り上げ――それはゴーマンの武器を一瞬で弾き飛ばした。
極・神剣使いスキルレベル6で覚える『虚空』スキルの中の1つだ。
「ゴーマン。これで手を伏せる意味はないよね? 見せてよ、君が手にした極・神剣使いの本当の力を――」
僕は再び剣を構える。
ゴーマンは慌てて剣を取りに行ったが、もちろん追撃はしない。
極・神剣使いの手の内を、この場で晒さないため?
あるいは下位スキルによる技で十分だと判断した?
僕は、この決闘に本気で臨んでいるのだ。
まさか手抜きをされるとは……ゴーマンにとっては、違ったのだろうか?
僕はわざと、極・神剣使いの技を使って見せた。
――撃って来いと誘った。
対するゴーマンは、震える声でこんなことを呟いた。
「な、何だよ。さっきの技は?」
……あれ?






