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「ねえ、アレス? こいつ、凍らせても良い?」


「ティア落ち着いて!? ゴーマンにそんな悪気はないから」

「でも……。アレスはこいつのせいで、追放されることになったのよね?」


 いきなり物騒なことを言い出すティアを、僕は慌てて止める。

 放っておくと氷の彫像が1つ出来上がってしまいそうだ。


「私が騙されてるって?」

「ああ。そうに違いない! アレスの奴が、あなたに聞こえの良いことを言って、旅に誘ったに違いない!」


 ゴーマンはなおも顔を赤くして主張する。

 もちろん、そんな事実はない。



「私がアレスの傍に居たくて付いて来たのよ! アレスにはむしろ危険だから止めてくれって、さんざん止められたわ。無視したけどね――悪い!?」

「な、なんでそんなことを……」


 ティアがキッとゴーマンを睨み返す。

 ゴーマンは心底理解できないとばかりに、首を振った。



「アレス様? ティア様。何かトラブルですか?」

「リナリー!? 貴様――!!」


 そんな騒ぎを聞きつけたのか、リナリーまで姿を現した。

 やっぱりアレスの元に居たのかと、ゴーマンは激昂する。


「やっぱりアレスのもとに行ったたんだな! 恩を仇で返しやがって……。すぐに戻って来い!」


 いつものように居丈高に命令した。

 それだけで言うことを聞かせる自信があったのだ。

 屋敷に居たころのリナリーなら、思わず従ってしまう強い口調だった。


「私が仕える人は、私が決めます! アレス様に救われた恩は、これから一生かけて返します。何も出来なかった日々に戻るのは、もう嫌なんです!」


 それでもリナリーは、僕の隣に立ち、今日ばかりは強い口調で拒否する。

 


「ティアもリナリーも、どうしてだよ? そんな奴の傍に居るより、アーヴィン家の当主になる俺の傍に居た方が幸せになれるに決まってる。どうして、そんな簡単なことが分からないんだ!?」


 いくらゴーマンが口にしても、ティアたちは決して聞く耳を持たなかった。


「というか外れスキル持ちって馬鹿にするけど、絶対にアレスの方が強いわよ?」


 何気なくティアが発した言葉。

 それが、ゴーマンに火をつけたようだった。



「おい、アレス! ティアとリナリーの隣に居るべきがどちらなのか、俺様と決闘しろ!」

「ゴーマン、君は本気でそんなことを……?」


 結局のところ、ゴーマンの発言に彼女たちの意思は入らない。

 ティアとリナリーを、何だと思っているのか。

 


「ここまで馬鹿にされちゃ引き下がれねえ。きっちりとどっちが強いか、白黒付けてやる!」

「下らない。そんなの、僕にとっても、ティアたちにとっても、何の得も――」


「……もし断るなら、おまえを領地内の犯罪者として捕えよう。おまえが『神殺し』の称号を手に入れたなどというくだらない噂を広めたことは、すでに調べがついているからな」

「え? それは噂じゃなくて……」


「はん、まさか事実だとでも言うつもりじゃないだろう? あまりに馬鹿けた噂だ――つくなら少しはまともな嘘にするのだな!」


 嘘みたいな話だけど本当なのに。

 それでも僕が何を言っても、ゴーマンが聞く耳を持たないのは明らかだった。



「見ててくれ、ティア。俺がアレスの野郎が口だけの詐欺野郎だってこと、必ず証明してみせるからな」

「こんなところまで押しかけておいて、言うことはそれ? 縁談のお断りの連絡が、お父さまかセバスから行くはずだけど……」


「俺はまだ認めていない!」


 ゴーマンは、ティアが気になってに仕方ないようだった。

 自らをアピールするようにグイっと身を乗り出し、ティアの手を掴もうとする。

 ――ティアは本気で嫌そうだった。



「分かったよ、ゴーマン。そこまで言うのなら白黒をつけよう。その決闘、引き受けるよ」

「ふん。可哀想に、外れスキル持ちは、実力の差も分からんらしいな」


 僕はティアを守るように、一歩身を乗り出した。

 その姿を見て、ゴーマンは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「決闘は明後日の午後。この街にあるコロシアムを貸し切っておく」


 ゴーマンは一方的に要求を突きつける。

 そして回りのざわめきも気にせず、我が物顔で冒険者ギルドを去っていった。



「いーだ! あんたなんか、アレスに勝てるはずないじゃない。アレス、私はあんな奴と一緒になるつもりなんてないわ! 決闘、絶対に勝ちなさいよ!」

「私も、もうアーヴィン家に戻るつもりはありません。アレス様のこと、信じてますからね!」

「なんかよく分かんないけど――お兄ちゃん、頑張って!」


 べーっと舌を出すティア。

 さらにリナリーとリーシャまで、こちらに集まってくるとそんなことを言った。

 そうして、あれよあれよという間に、弟のゴーマンと決闘することが決ってしまうのだった。

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