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『状態異常の付け替え!』



 あいにくチート・デバッガーの効果では、もともと付いていた状態異常を外すことは出来ない。

 それならそれで、やりようがある。


「アレス、何するつもりなの?」

「ティアなら、厄介な攻撃アップの支援を受けたモンスターと出くわしたらどうする」


「そうね、まずは強化魔法を打ち消すわ。理想は『ディスペル』だけど、そんな高レベルの支援術士とは滅多に組めないから……。攻撃ダウンとかで打ち消せないか――あっ!」

「うん、それ! このモンスターたちが狂暴化しているなら、打ち消せないか試してみる!」


 そんなことを説明しながら、僕は状態異常のリストをスクロールしていった。


 腹痛、腰痛、頭痛、ぎっくり腰――この辺は違う。

 炎攻撃アップ、氷攻撃アップ――これも違う。



「アレスさん、まだか!?」

「アレス様! 戦闘音を聞きつけて、レッド・トレントが続々と集まってきています!」


 ロレーヌさんとリナリーが、悲鳴のような声を上げた。

 モンスターが集まってくることにまで気が付くとは、リナリーのスキルは外れスキルどころか、かなり有用なのではないだろうか?


「これも違う、これも違う。何でこんなにいっぱいあるの!?」


 あまりにも利便性が低い。

 僕は焦りながらスクロールを続け、



「――あった!」


 ようやく目的のものを発見する。


 状態異常――狂暴化、超・狂暴化。

 その下には、鎮静化。超・鎮静化――狂暴化の対になりそうなものを発見した。



「ごめんなさい、無茶を言って。でも、これでいけると思います!」


 僕はレッドトレントに向かって『鎮静化』の状態異常を付与する。

 予想どおり、それはトレントにかかった狂暴化を打ち消し、



「やった! さすが、お兄ちゃん!」


 効果は劇的だった。

 あれだけ荒れ狂っていたトレントが、こちらに向けていた枝を下ろしたのだ。

 どうしてこんなことをしていたのだろう、とばかりにヨロヨロと立ち去っていくではないか。



「アレス様! まだレッドトレントはたくさん居ます!」

「対処法は分かった。任せて!」


 レッドトレントが行商人を襲っていたのは、どうやら状態異常が原因のようだ。

 そうと分かれば、それを打ち消してやればよい。



「後ろから2匹――また遠距離から狙われてます!」

「リナリーのそれ、めちゃくちゃ便利じゃない! ――『アイシクル・ガード』!」


 リナリーが感じ取った敵の気配を聞きながら、ティアがパーティを守ることに専念する。

 幸い「狂暴化」の状態異常が付与されたレッドトレントたちは、好戦的になっており、動きが単調だった。

 リナリーが探知した敵に向かって、僕は片っ端から「鎮静化」の状態異常を与えてていく。


 状態異常を解除されたレッドトレントは、平常心を取り戻すると、戦闘から逃げるようにあっさり立ち去っていくのだった。

 やっぱり元は温厚かつ臆病なモンスターなのだ。



「Cランクのモンスターなんて倒してしまえば良いと思っていたが……。まさか、これほどの数が居たとは……」

「我々だけでこの数に囲まれたら、対処どころか逃げることも覚束ないかもしれないな。こんなことになっていたなんて……」


 ロレーヌさんたちが、ゾッとしたように呟いた。

 結局、鎮静化させたレッドトレントの数は二桁の後半――ここら辺いったいに居たレッドトレントは、ほとんどが狂暴化していたと見るべきだろう。



 そうして戦うこと数十分。

 

「アレス様! たぶん狂暴化したレッドトレントは、もう居ないと思います。おめでとうございます、これで依頼達成ですね!」

「ありがとう、リナリー。まさか、そんなに凄いスキルを持ってたなんて! ものすごく助かった!」


「専属メイドともなれば、主の護衛も出来て一人前だと――! 何かの役に立てばと必死にスキルを磨いてきましたが、こうしてお役に立てたなら良かったです!」

「それ、明らかにメイドの役割じゃないよね!?」

 

 リナリーは、輝かんばかりの笑みを浮かべた。

 屋敷に居たら、絶対に活躍の機会がなかったスキルだろう。

 それにも関わらず、リナリーは日常生活の中で自らのスキルを磨いてきたのだ――驚異的な向上心だった。



 クエストを終えた帰り道。

 和気あいあいとした空気の中、リーシャだけが浮かない顔をしていた。


「どうしたの、リーシャ?」

「おかしいと思わない? バグでもないのに不自然に状態異常が付与されたレッドトレントの群れが出るなんて。こんなこと、出来るのは――」


 ぶつぶつと独り言を呟くリーシャ。


「こんなことが出来るのは? リーシャ、何か心当たりあるの?」

「お兄ちゃん!? ううん、何でもない。だって、そんなこと――あるはずないもん」


 リーシャは首を振り、そう答えた。


 たしかに、これは自然ではない。

 バグではないとなると、これは人為的に引き起こされたもの?

 でもここら辺一帯のレッドトレントだけに、狂暴化の状態異常をばらまくなんて――誰が、どうやって、何のために?



「まあまあ、考え込んでも仕方ないわよ。無事にクエストも終わったことだし、今日はリナリーの歓迎も兼ねて、パーッと遊びまわりましょう!」

「え、夜の遊び!? 本当は真面目なティア様が、私なんかのために――滅相もないです!」


「何よ、今さら? 一緒にパーティ組んで、クエストもこなした仲じゃない!」

「た、たしかに……。いいえ、だめです!」


「……いや、たぶんリナリーが想像しているようなことは、何もないと思うよ?」


 謎の想像力を働かせるリナリーを、僕は呆れた目で見る。

 笑顔で絡むティアに、リナリーは恐縮した様子で手を振っていたが、やがては勢いに吞まれたように頷くのだった。




◆◇◆◇◆


 その後、僕たちはティバレーの街に戻り、冒険者ギルドでクエストを報告する。

 

「レッドトレントが狂暴になっていたのは、状態異常のせいだったんですか!? どうやって、そんなこと調べたんですか?」

「僕のスキルです。あ、鎮静化の状態異常で打ち消したので、もう大丈夫だと思います」


「鎮静化の状態異常で打ち消した!? どうやってそんなことを――!?」

「……それも僕のスキルです」


「私からも証言しよう。最初こそ時間稼ぎが必要だったが――後は凄かったぞ。襲ってくるレッドトレントを指さすだけで、相手は戦意消失して立ち去っていった。最近の狂暴化は、間違いなく状態異常によるものだったんだろうな」


「どれだけ規格外なんですか。アレスさんのスキル……」


 受付嬢は、何故かどっと疲れた様子でため息をついた。


 それから「クエスト・済」のスタンプを押し、続いて「クエスト発行・狂暴化したレッドトレントの鎮圧」などと書き、おもむろに僕に押し付けた。

 さらに新規に発行したクエストにも「クエスト・済」のスタンプを――


「あ、あの。これは?」

「話が本当なら、調査依頼の報酬だけでは割が合いません。良いから黙って受け取ってください!」


 そんな大事件を調査依頼で済ませたら、ウチはとんだブラックギルドですよ! と、受付嬢は悲鳴のような声を上げる。


 ……僕としては調査の一環のつもりだったし、新たに覚えた【コード】の試し打ちも出来たし、全然気にしないで良いんだけどな。

 それでも受付嬢を困らせるぐらいなら、


「分かりました、ありがとうございます」


 僕は頭を下げて、受付嬢から2つのクエストの報酬を受け取った。

 そうして僕たちは程よい疲労とともに、宿に戻るのだった。

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