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冒険者ギルドに報告した日の夜。
結局、昨日と同じ宿に戻った僕は、改めてスキルの効果を調べることにした。
ちなみに何故か今日も、ティアやリーシャと泊まることになっていた。
今日は部屋も空いており男女別にするべきだと言ったが、リーシャが「お兄ちゃんと泊まる!」と駄々をこねて、気が付けばティアまで泊まる流れになったのだ。
邪神を倒すことにより、絶対権限は12まで上がっていた。
思わぬ強敵と戦うことになった場合、出来ることを理解しておくのは重要なのだ。
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絶対権限:12
現在の権限で使用可能な【コード】一覧
→ アイテムの個数変更
(▲エクスポーション▼)
→ 魔法取得
(▲ブラックホール▼)
→ ユニットデータ閲覧
→ バグ・サーチ
→ スキル付け替え
(▲極・神剣使い▼)
→ 状態異常の付け替え
(▲毒(弱)▼)
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「アレス、またスキルを覚えたの?」
ティアが興味津々と言った様子で、僕に聞く。
僕は頷き『ステータス変化の付け替え』なる機能が開放されたことを伝えた。
「選択項目は『毒』? 相手に毒を与える効果なのかしら?」
「えっと。たぶんいろいろと選べると思う」
僕は答えながら、「▲」の部分をポチっと押す。
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【コード】状態異常の付け替え
※選択可能な状態異常は以下の通りです。
※このコードは完全に復元されました
→ 毒(弱)
→ 毒(強)
→ 腹痛(弱)
→ 腹痛(中)
→ 腹痛(強)
→ 腹痛(激痛)
→ 腹痛(超痛)
→ 肩こり
・・・・・・
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「な、なにこれ……?」
自分のスキルを見て、困惑の声を上げるのは何度目だろう。
『状態異常の付け替え』を選んで目の前に現れたのは、おびただしいまでの物量を誇るリストだった。
どうやらチート・デバッガーのメニューに収まりきらないようで、リストはスクロールできるようになっていた。
思えば『魔法習得』や『スキル付け替え』で選べたのは、ごくごく少数の項目だけだった。
この文字列たちが、すべて状態異常だとすると……。
"このコードは完全に復元されました"
それは、スキルの効果の説明に書かれた言葉。
この言葉が意味するところは――
「どうしたのよ、アレス? 急に黙り込んで?」
「ごめん。ちょっと思ってたよりも選べる状態異常が多いみたいで……」
僕は気を取り直して、リストをスクロールしていく。
しかし一向にスクロールし終わる様子はなく、内容を把握しきるのは不可能に思えた。
「えっと、たぶん状態異常を与えるスキルで合ってると思う。ごめん、選べる量があまりにも多くて……」
「え? 状態異常といえば、毒・麻痺・やけど・暗闇、数え切れるぐらいしかないわよね?」
ティアが口にしたのは、一般的に状態異常として知られているものだ。
道具屋で回復薬も売られており、冒険者ギルドが公式に発表している状態異常であり、それが冒険者の間でも常識だった。
だというのなら、目の前にあるこのリストは何なのだろう。
「それが……毒だけじゃなくて――腹痛? 肩こり、なんて物もあるみたい」
「肩こりを与えてくるモンスターとかいたら嫌すぎない?」
「嫌すぎるね……。肩こり、要る?」
「要らないわよ!」
もちろん大事な仲間に、マイナスの効果が発動するものを付与するつもりはない。
僕は、さらに状態異常のリストらしきものをスクロールしていく。
「攻撃力+、防御力+……この辺は、バフの効果みたいだね。これは戦闘でも使えるかも――」
僕は自らに『攻撃力+』を付与してみる。
それから軽く武器を手に取り、少しだけ振るってみた。
「支援効果なら、私にも付与出来るのかしら?」
「試してみる。おかしい、と思ったらすぐに言って? 『状態異常の付け替え――攻撃力+!』」
僕は、ティアに状態異常「攻撃力+」を付与した。
「どう、ティア?」
ティアはベッドに座りながら、軽く短刀を振るった。
「お、驚いた……。たしかに支援魔法である『アタック・エンハンス』を受けたときと似た効果があるわね」
「ありがとう。なら実戦でも使えそうだね――?」
状態異常の付け替えのコード。
それは、この世のすべての状態異常を自由自在に付与(あるいは与えたものを除去)できる機能のようだった。
しかし「腹痛」「肩こり」など、あまり使い道がないものも多い。
戦闘中に悠長に、リストから状態異常を選ぶことはできないだろう。
実戦に向けて、使えそうな状態異常をピックアップしておく必要がありそうだ。
そんなことを考えながら、僕たちは眠りについた。
◆◇◆◇◆
そうしてティアが、静かに寝息を立て始めたころ。
「お兄ちゃん、おめでとう! ついに完全復元コードが手に入ったんだね!」
リーシャがそんなことを言いながら、ぴょんと背中に飛びついてきたのだった。






