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冒険者ギルドに戻った僕たちは、さっそく事の顛末を報告した。
Fランクのダンジョンの最奥部に、何故かランク50を超えるモンスターがたむろしていたこと。
最奥部で復活した邪神を倒したこと。
「にわかには信じられない話ですね……」
「私も引率者として同行していた。アレスさんの言うことが本当であることは、私が保証しよう」
にわかには信じがたい話。
それでも冒険者ギルドの中でもトップクラスのロレーヌさんたちも証言するので、受付嬢が深刻な表情になった。
「何も知らない人が入ったら大変です。入口を封鎖して、すぐに調査チームを向かわせます!」
「目に付いたモンスターは倒しましたが、よろしくお願いします」
受付嬢は傍に居た事務員に、何やら指示を出す。
「ところで……。復活した邪神というのは、何か証拠になるものをお持ちだったりは?」
「おいおい、アレスさんや私たちが嘘を付いているとでも言うのか?」
むっとした表情でロレーヌさん。
たしかに邪神の話は、あまりにも非現実的である。
証拠になるもの?
そうだ。
「もしかして『称号』は、証拠になったりしませんか?」
「え、アレスさん。称号を手に入れたんですか? ……失礼ですが、確認させていただいても?」
半信半疑の受付嬢に、僕は水晶を渡された。
僕が触れた水晶を、受付嬢はまじまじと覗き込んでいたが、
「失礼しました! これはまさしく『神殺し』の称号――神を殺した者に送られるものと書かれていますね!」
「それじゃあ?」
「はい。水晶に映る称号を偽ることは何人たりとも不可能――アレスさんは間違いなく、ダンジョンの中で『神』に等しきものを倒しています!」
そう受付嬢が宣言。
「称号持ちの冒険者!? 俺、生きてて初めて見たよ!」
「しかも『神殺し』だって!? そんな物を見たロレーヌのパーティが羨ましいぜ!」
「アレスさん、やっぱりとんでもねえ!」
聞き耳を立てていた冒険者たちが、次々と歓声を上げる。
あっという間に、ギルド中から注目を浴びることになってしまう。
「た、たまたまですよ?」
「あのね、アレス? たまたまで神は殺せないわよ!?」
思わず口走った僕に、ティアがぴしゃりと突っ込んだ。
「なあ、ロレーヌさん。邪神とアレスさんたちの戦いは、どんな戦いだったんだ!?」
「本当に凄かったぞ! 邪神はやっぱり、生き物としての格が違ったな。恥ずかしい限りだが、私は、動くことすら出来なかったんだ」
「そんな相手をどうやって……!?」
「アレスさんが何事かを呟くと、邪神の攻撃が一切効かなくなったんだ。破壊不可能と言われたボス部屋の壁を貫く神話生物を相手にだぞ? あの戦いは、まさに神々の争い――『神殺し』の称号に相応しい戦いだった!!」
興味津々の冒険者たち。
ロレーヌさんは目を輝かせて、冒険者たちにいかに戦いが凄まじかったかを、語り聞かせていた。
「なあ、アレスさん! また何か引率の依頼があれば、是非とも私たちに! いいや、もうクエストを受けるときには是非とも私たちのことも誘ってくれ!」
「ちょっと、ロレーヌさんたちばっかりずるぞ!」
「私たちもアレスさんたちの戦いっぷりを見てみたい!」
「アレスさんたちも、こっちに来て、神殺しの逸話をもっと聞かせてくれよ!」
「え、ええっと……」
更には、冒険者たちがこちらに押しかけてくる。
こんな風に注目を集める機会なんて今まで無かったため、僕が口ごもっていると、
「ちょっと! 一斉に押しかけたらアレスさんたちに迷惑ですよ!」
シッシッと、受付嬢が追っ払った。
さすがは百戦錬磨の受付嬢、実に手慣れていた。
そうして冒険者ギルドに静寂が戻ってくる。
「ふう。すごい騒ぎだったね――」
「ロレーヌさんったら、完全にアレスのファンじゃない! 良かったわね、美人なファンが付いて?」
何故だろう。
少しだけティアの機嫌が悪い。
「ファンというか、生粋の冒険者なだけだと思うよ? 誰だって珍しいものを見たら、人に自慢したくなる。冒険者としては当然だよね?」
「え、ええ?」
「そういう意味では、僕たちと合同でクエストを受けたところで、ロレーヌさんの好奇心を満たせるような事態には、そうそうならないと思うけど……」
基本的にバグを探すのは、人を巻き込まない形でやる予定だった。
今回のようなイレギュラーは、もう懲り懲りだ。
そんな僕の言葉を聞いて、ティアとリーシャは顔を見合わせたが、
「「はあ」」
と大きくため息を付くのだった。






