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恐れる様子が無いのを見て、邪神は訝しげに僕を見る。
それから邪神の体を構成する文字列が、変化していくのが見える。
「レーザー攻撃が来るっ!」
今の僕には、邪神が何をしようとしているか、手に取るように分かった。
もっとも来ると分かっていても、人類に受け止めることなど不可能な一撃必殺の攻撃――それが邪神の放つレーザーである。
否、そのはずだった。
『Ability 0x00a3, Rewrite effect 0.』
邪神が持つアビリティ「レーザー攻撃」の攻撃力を、僕は0に書き換えた。
いかに神といっても、所詮は世界のルールには抗えない。
チート・デバッガーにより、世界のルールそのものに干渉できる僕にとって、もはやその攻撃は何ら脅威にはならなかった。
キィイィィィアァァァッァ!
邪神が金切り声と同時に、レーザーを僕に向かって放つ。
その一撃は僕に直撃するが、
――――――――――
アレス・アーヴィン(LV:46)
HP:378/378
SP:182/182
――――――――――
「その攻撃は、もう効かないよ?」
破壊不能オブジェクトすら破壊した邪神の一撃も、僕に1ダメージたりとも与えることは叶わない。
邪神のレーザーに攻撃力は無い――それが、今のこの世界におけるルールだ。
目の前で起きた現象が理解出来ないと言うように。
邪神は狂ったようにレーザー攻撃を放った。
その技こそ、邪神にとっての必殺技なのだろう。
避ける必要すらない。
僕は邪神の攻撃を無視して、邪神に向かってただ歩みを進める。
邪神が鎌を振るう。
邪神が魔法を詠唱する。
邪神が魔眼でこちらを睨みつける。
『Ability 0x01ca, Rewrite effect 0.』
『Ability 0x00b2, Rewrite effect 0.』
『Ability 0x01cb, Rewrite effect 0. Rewrite additional bad status None. 』
999999の固定ダメージを与える鎌の一撃。
一国を簡単に滅ぼせる邪神固有の究極範囲魔法。
確定で「即死」の状態異常を与える魔眼。
邪神の使う攻撃は、どれも人間をオーバーキル出来るだけの威力を秘めていた。
――そのことごとくを無効化する。
「それで終わり? なら次は、僕の番だね」
気が付けば、僕は邪神の目と鼻の先まで近づいていた。
ちっぽけな人間ごとき簡単に殺せるはず――邪神にとって、まるで理解出来ない光景だったのだろう。
神に分類されるはずのモンスターが、今や怯えたように後ずさっていた。
ここからどうしたものか。
邪神のHPが40000を超えていたのを思い出す。
ビッグバン一発で20ダメージしか与えられないとなると、日が暮れてしまいそうだ。
自分の攻撃力を99999とかにすれば良いかな?
それともビッグバンの威力を99999にする?
固定ダメージ999999を与える、邪神の「鎌攻撃」を自分で使う?
やろうと思えば、なんでも出来そうだ。
「お兄ちゃん! あくまで【バグ】の原因になってるモンスターを倒すための力だからね。ここで自分を書き換えたら、自分自身がバグになっちゃう――気を付けて!」
「わ、分かった」
リーシャが、心配そうに僕に声をかけた。
自分自身がバグになる――恐ろしい響きだ。
ティアの言葉を信じるなら、邪神を倒した後に、なるべく影響を残さないようにするべきだろう。
たしかに邪神を倒せるステータスを持った冒険者なんて、聞いたことがない。
『Instance EvilGod. Rewrite Status Slime. 』
僕は邪神のステータスを書き換えた。
頭によぎったのは、ぷるぷると愛らしい姿を持つスライム――最弱のモンスターだ。
――――――――――
【コード】ユニットデータ閲覧
名称:邪神・クティール(LV1)
HP:13/13
MP:0/0
属性:弱→炎、水、凍
▲基本情報▼
――――――――――
「よし、上手くいった!」
今、この瞬間から「邪神・クティール」のステータスは、スライムのものと等しい。
この神は、もはやスライムだ。
「これで終わり! ――『絶・一閃』!」
僕の剣閃は、一発で邪神・クティールのHPを削り切った。
そしてあまりにあっけなく――邪神は光の粒子となって消えていった。
――――――――――
【実績開放】初めてダンジョンをクリア
絶対権限が9になりました。
【実績開放】称号「神殺し」を獲得
絶対権限が10になりました。
絶対権限が11になりました。
絶対権限が12になりました。
―――――――――
邪神を倒したことにより、一気にチートデバッガーの絶対権限が上がったようだ。
ん? そして、称号を手に入れたとか聞こえたような……
僕は『ユニットデータ閲覧』で確認する。
――――――――――
アレス・アーヴィン(LV:46)
◆ 神殺し
HP:378/378
SP:182/182
――――――――――
「え、何これ……。ティア、称号って何?」
「称号っていうのは、ステータスの隠し機能らしいわね。人類史に残るような偉業を達成した人が手に入れるとか言われてるけど……」
「人類史に残る偉業!? ねえ、ティア? 称号を持ってる人を見たことある?」
「私は見たことないわ。そもそも確認するにも、特殊な方法じゃないと確認できないし……たとえば冒険者ギルドの水晶ね。え、アレス? まさか――!?」
「うん、手に入れちゃったみたい。その――『神殺し』だって」
僕は、称号らしき場所をポチっと押すと、
――――――――――
◆ 神殺し
神を殺した者に送られる称号
――――――――――
そんな言葉が、でかでかと書かれていた。
「神殺し。神殺し……? ごめん、ちょっと理解が追いつかないわ……」
「わ~い! お兄ちゃんは、やっぱりすごいね!」
遠い目をするティア。
一方、リーシャは無邪気に笑いながら、ぴょんと僕の背中に飛びついてきた。
「なあ……。本当にアレスさんたちに、引率なんて必要だったのか?」
「でも良いものが見れましたね! 神殺しですよ、神殺し! 我々は、間違いなく歴史の目撃者になりましたよ!」
「生きて帰れる!! 良かった~!」
ロレーヌさんたちは、一周回ってポジティブだった。
やや現実感を欠いたまま。
僕たちはダンジョンクリアの報酬を手にして、転移魔法陣を使ってダンジョンの入口に戻るのだった。
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