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そうして僕たちは、さらにダンジョンを進んでいく。
「それにしてもレベル50以上のモンスターが現れるなんて……恐ろしいダンジョンだね」
「アレスでもレベルは40なんだから――よく倒せたわね。アレスのスキルが、それだけ規格外ってことなんでしょうけど……」
僕たちを先導するように歩くイフリートを見ながら、ティアは呆れた目で僕を見る。
ときおり現れるモンスターは、精霊があっさりと蹴散らしていた。
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【コード】ユニットデータ閲覧
名称:アレス・アーヴィン(LV40→46)
HP:332→578
MP:157→61
▲基本情報▼
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さきほどのモンスターの群れとの戦いを経て、僕のレベルは40→46に上がっていた。
ちなみにロレーヌさんのレベルは30後半で、トップ冒険者でもレベルが50を超えている者は、そうは居ない。
レベル46というのは、冒険者の中でもトップクラスである。
また単純なレベルアップでは説明が付かないこともあった。
HPが倍近くに上がり、何故かMPは減少している。
これは【極・神剣使い】のスキルを装着したことで、ステータスにも大きな変化が生じたのだろう。
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【コード】ユニットデータ閲覧
名称:ティア・ムーンライト(LV28→31)
HP:236→249
SP:62→69
▲基本情報▼
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ティアのレベルも3つ上がっていた。
「アレスのそれ、本当に何でもありね。そのうち、ステータスそのものも書き換えられるようになるんじゃない?」
「はは。そんな馬鹿なこと――」
これまでも【チート・デバッガー】は、訳の分からない現象を起こしてきた。
冗談のような話だが、あり得ないとは言い切れない。
そうして歩くこと数分。
ついにダンジョンの最深部に到着した。
「アレスさん、ついにボス部屋に辿り着いたな!」
「ボス部屋?」
「ああ、そういえばダンジョンに潜るのは初めてだったな……。ボス部屋とは、ダンジョン最奥部に存在するダンジョンのボスが居る空間だ。ボスを倒せばダンジョンはクリア。報酬を手に入れつつ、入口に戻ることができる」
聞きなれない言葉に僕が首を傾げると、ロレーヌさんが説明してくれた。
ようやく引率役として力になれると、やけに張り切っている。
「過去にボスを倒した人は居ないんですか?」
「ボスは一定周期で復活するんだ。Fランクのボスならさっくり倒して帰れば良いのだが、このダンジョンはあまりに異常だな。このまま帰りたいぐらいだが――判断はアレスさんに任せよう」
『バグ・サーチ』により現れた矢印は、うるさいぐらいにボス部屋の奥を指していた。
「アレス、どうするの?」
「……進もう」
ここで戻るぐらいなら、最初からこんなところまで来ていない。
この奥に何かがあるのは間違いない。
そうして僕たちは、ボス部屋に足を踏み入れた。
◆◇◆◇◆
ボス部屋。
それはこれまで歩いていた洞窟とは異なる人工建造物だった。
狭い小道が中心だったダンジョンとは異なり、30メートルほどに広がる小部屋。
中は等間隔で並ぶ青白い松明に照らされており、どこか幻想的な空間であった。
部屋の奥には巨大な女神像が2つ向き合うように並んでおり、その間には禍々しい"何か"を祀る祭壇が存在している。
そしてボス部屋の中心に居たのは――
「まさか……。ここにたどり着く人間が居るなんてね」
小柄な人間であった。
ぼろぼろのマントを見にまとい、顔はフードで隠している。
「な――!?」
「ボスが人間!?」
ボス部屋に居るのが人間なんてことがあるの――?
ロレーヌさんに視線を向けると、彼女はふるふると首を振った。
「いいや。ボクは人間じゃないよ?」
そう言って目の前の少年は、フードを外す。
その頭上には鬼型モンスターの証明――小さな角が生えていた。
『ユニットデータ閲覧!』
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【コード】ユニットデータ閲覧
名称:×(バグモンスター)
HP:×
SP:×
▲××××▼
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「――ッ!?」
すかさずステータスを解析しようとしたが、何も見ることは出来なかった。
今まで、こんなことはなかったのに。
「ふ~ん、なるほどね。君が今代のデバッガーか」
少年は面白がるように僕を見た。
「き、君はいったい……?」
「おまえがそれを知る必要はないよ、アレス・アーヴィン。何故なら――君はここで死ぬんだから!」
『Access: Security Hole(セキュリティの穴を付け)』
『Access: Event Start. 0x00003a2e. Evil God.(邪神イベントを起こせ)』
少年が何事かを呟く。
この世のものではない未知の言葉。
「なっ!? ――バグの利用? あなたは、もしかして……」
リーシャが小さく悲鳴を上げた。
目の前で、スキルでは説明出来ない"何か"が起きている。
――この少年が、たしかに世界を書き換えている。
ボス部屋の奥から、禍々しい気配が漂い始めた。
そしてそれは、どんどん増幅していた。
「この部屋はね。データとして存在した邪神の祭壇そのものなんだ。今【イベントコード】を実行した。内容は『10000年前に封印された邪神の復活』」
「邪神? そんなもの、居るはずが……!?」
ギョッとした顔でロレーヌさん。
『Access: Register Boss Evil Devil(ボスに邪神を登録せよ)』
「さらにボスを邪神として登録し直した。それじゃあ――頑張ってね」
そんな言葉を残し、少年は突如としてその場から消えた。
そうしてその場には、混乱する僕たちと――
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【コード】ユニットデータ閲覧
名称:邪神・クティール(LV???)
HP:46963/46963
MP:2361/2361
▲基本情報▼
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ボスモンスターとなった邪神が残された。






