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「どうしてあんなモンスターが居たんだろう?」
消えていくサイクロプスを見ながら、僕は首を傾げる。
間違いなくFランクダンジョンに生息する相手ではない。
しかし考えている暇はなかった。
ドゴドゴドゴドゴッ!
ダンジョンの奥から響く凄まじい音。
新たに現れたのは、モンスターの群れだった。
「じょ、冗談じゃねえぞ……!?」
「ここに来て、ダンジョン内のモンスター大量発生――スタンピードだと!?」
ダンジョンの通路を覆いつくさんばかりのモンスターの群れ。
モンスターの中には、先ほどあれだけ手こずったサイクロプスの姿もある。
さすがのロレーヌさんたちも、引きつった顔になった。
「こんなもん命がいくつあっても足りねえ!」
「お、落ち着け! 引率者の我々が取り乱してどうする!?」
「でも命あっての物種だろう! あんなの、敵いっこねえ!!」
盾役の男が、パニックを起こす。
明らかな異常事態。
僕は一歩前に出て『バグ・サーチ』を使った。
――――――――――
【コード】バグ・サーチ
半径500メートル以内に【バグ】を発見しました
――――――――――
このスタンピードには、バグが絡んでいるらしい。
現れた矢印は、ダンジョンの奥を指していた。
「私たちが、しんがりをつとめる。少しでも時間を稼ぐから、アレスさんたちは街に戻って、スタンピードが発生したことをギルドに報告してくれ!」
悲壮な覚悟を固めるロレーヌさん。
自らを犠牲にしてでも、後輩を逃がそうという姿勢。
冒険者の先輩として、たしかに尊敬できる姿ではあったが……
「嫌です。先輩たちを見捨て逃げる訳には行きません!」
「でもあの数が相手だ! このままでは全滅だぞ!!」
大勢を生かすために、時間稼ぎをしつつ街に報告に戻る。
ロレーヌさんの判断は、正しいのかもしれない。
――それでも納得出来なかった。
僕の力なら、この場面を打開できるかもしれない。
「すみません、ロレーヌさん。少しだけ試したいことがあるんです。やるだけやらせて下さい。……いざという時は、街への報告をお願いします」
「おい、アレス! いったい何を――」
僕は一歩前に出た。
――――――――――
【極・精霊使い】
SKLV1:中位精霊までを自由に召喚可能
SKLV2:同時に精霊を2体まで召喚可能
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先ほどの戦いで、極・精霊使いはスキルレベルが2になっていた。
「顕現せよ――『イフリート』『シルフ』あのモンスターたちを蹴散らせ!」
僕の呼び声に応えて、現れたのは炎の魔神と小さな妖精。
召喚した精霊が、モンスターに飛び掛かっていった。
イフリートは巨大な拳でモンスターに殴りかかり、高ランクのモンスターをあっという間に粉砕していく。
さらにはシルフが風魔法を駆使して、モンスターを吹き飛ばす。
どうやら特に指示を出さずとも、自分の判断で戦ってくれるようだ。
「な、何だこの戦いは……。私は夢でも見ているのか!?」
2体の精霊の戦いは圧倒的だった。
イフリートが、みるみるうちにモンスターを光の粒子に変えていくのを、ロレーヌさんが呆然と眺めている。
それでも数が多すぎた。
倒し切れずに、こちらにもモンスターが流れてくる。
「お兄ちゃん! 早く『神剣使い』のスキルを!」
「え、この状況で精霊が消えたら――」
「精霊は一度召喚したら、放っておいても大丈夫!」
リーシャが必死に叫ぶ。
今はリーシャの言葉を信じるしかない。僕はスキルを極・神剣使いに付け替えた。
『ユニットデータ閲覧』で、相手のステータスを確認する。
――――――――――
【コード】ユニットデータ閲覧
名称:どろどろヘドロ(LV51)
HP:162/665
MP:0/0
属性:耐→炎、風、氷
弱→物
▲基本情報▼
――――――――――
どうやら精霊の攻撃で、だいぶ弱っているようだ。
ヘドロ状のモンスターであり、こんな奴を相手に物理攻撃が効くの? と疑問に思いつつも剣を一閃。
『虚空・破斬!』
不安をよそに、僕の一撃は的確に弱点を突いたようだった。
へどろ状のモンスターが、一発で光の粒子になって消えていく。
――ホッと一息。
それは一瞬の隙だった。
視界の外で、急に何かが光った。
気が付けばこちらに向かって、超スピードでレーザーが飛んてきていた。
精霊の召喚主が、僕であることに気づいたのだろう。
呪文の主はウィザード・ゴブリン――ゴブリンでありながら、高度な術を操るハイランクのモンスターだ。
――避けられない
そう思ったとき、凛とした声が響く。
「『アイシクル・ガード』!」
ギーーーンッ!
間一髪。
飛んできたレーザーは、氷の壁にはじかれる。
とっさの判断で飛び込んできたのは、ティアだ。
「ありがとう。助かった!」
「またひとりで危ないことをして……! 私のことは、守ろうとしないで良いって。頼って欲しいって、ずっと言ってるのに!」
肩で息を切らしながら、ティアは何かを訴えかけるように、そう言った。
その瞳にモンスターへの怯えはない。
「ティア。そこまで言うのなら……分かった。ここに現れるモンスターは、今までの敵とは格が違うみたい。とにかく気をつけて――」
「それぐらい最初から覚悟してるわ(私だけ残される方が、よっぽど怖いわよ……)」
この状況で、ティアの助けは大きい。
「アレスさん、私たちも!」
「いえ。ロレーヌさんたちには、いざとなったらこれを使って頂けると助かります」
そう言いながら、僕は『アイテムの所持数増減』を使う。
こちらに向かってくるモンスターが居ないことを確認して、僕は賢者の石を量産した。
「は!? 賢者の石まで作り出せるのか……!?」
「出来れば秘密でお願いします。これを使えば、パーティ全員のHPを回復できます。出し惜しみはいらないので、少しでも危ないと思ったらすぐに使って下さい」
「アレスさんのスキルは、本当に何から何まで規格外なのだな。分かった!」
そうして僕とティアは、モンスターに向き直る。
通路を埋め尽くさんばかりに居たモンスターは、だいぶ数を減らしていた。
細い通路だったのも、僕たちに味方したのだろう。
イフリートとシルフをくぐり抜けてくるモンスターは、少数だった。
「ティア! そっちはお願い、弱点は氷!」
「任せて! ――『氷華!』」
向かってくるモンスターは、まずは解析する。
そうして自分で相手をするか、ティアに任せるかを決めるのだ。
ときどきダメージを受けてしまっても、
「賢者の石!」
すかさずロレーヌさんが、アイテムを使う。
何か間違えば、それが一瞬で命取りになり得る戦闘。
それでも不思議と、安定感があった。
どれほど戦っていただろう。
体感では何時間も経った気がしたが、恐らく実際は一瞬のこと。
突然、モンスターの群れが動きをピタッと止めた。
そうして、諦めたようにサッと奥に引っ込んで行った。
「ふう……助かった〜」
去っていくモンスターを見送り、座り込むティア。
「ティア、大丈夫だった?」
「なんとか……」
レベル的に、格上のモンスターとの戦い。
一撃を貰うだけでも致命傷になり兼ねない張りつめた戦闘。
「この奥に何か――バグがあるみたいなんだけど……」
「お兄ちゃん。もしかして、進むの?」
僕は頷いた。
バグ・サーチにより現れた矢印は、今もやかましいぐらいに、ダンジョンの奥を指していた。
この先に、何かがあるのは間違いない。
「私も! もちろん付いていくわよ!」
正直、いまだにティアを巻き込むことには抵抗があった。
それでも、ティアの決意は固い。
「引率を受けた冒険者としては、今すぐ引き返すべきと言わないといけないんだろうが……。私たちも、ダンジョンの奥が気になるしな。このまま進むとしよう」
「ありがとうございます」
そうロレーヌさんも判断し、僕たちは更にダンジョンの奥に進んでいくことになった。






