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 その後、僕たちは宿を探すことにした。

 ティバレーの街まで移動した疲れだけでなく、カオス・スパイダーとの戦闘の疲労も残っており、今日は休もうと満場一致であった。

 僕たちが選んだのは、冒険者も愛用している手頃な価格の宿。



「すみません、2部屋取りたいんですが」

「申し訳ございません。今日はもう満室で、ひと部屋しか空いてないんです」


 受付で申し訳なさそうに、そう言われる。


 ひと部屋か。

 ティアとリーシャも一緒だし、男女で同じ部屋は流石にまずいよね?

 断って別の宿を探そうとする僕だったが、



「やった! お兄ちゃんとお泊まり!」


 リーシャがウキウキとそんなことを言い出した。


「え? リーシャはアレスと泊まるつもりなの……!?」

「うん! 兄妹は一緒に寝るのが、当たり前だよね?」


「そ、そうなのかしら……?」


 そんな当たり前、初めて聞いた。

 しかし、あまりにも当たり前のようにリーシャが言うので、ティアも思わず頷いてしまう。


「ま、まあ? そんなに言うなら……い、一緒でも良いんじゃない?(アレスの寝顔が見られる……!)」

「ティア どうかしたの?」


「何でもないわよ!」


 ティアがプイッとそっぽを向く。

 それでも一緒の部屋に泊まることに、ティアもノリノリだった。

 その様子を見て受付がテキパキと準備を始めてしまい、今さら泊まらないとも言えず、僕はその宿に泊まることにした。




◆◇◆◇◆


 僕たちの案内された部屋は、宿屋の2階の小さな部屋だった。

 部屋を訪れた僕たちは、目の前の予想外の光景に目を丸くしていた。


「な、なにこれ……」

「こ、これは……。予想外ね」


 部屋に置かれたベッドは、たったの1つ。

 恋人同士が一緒に眠るための大きなベッド――いわゆるダブルベッドになっていた。

 ティアは顔を真っ赤にして、わなわなと震える。


「ぼ、僕はこっちのソファーで眠るよ……」


 これは……さすがにない。

 かといって、今から宿を変えるのも迷惑すぎる。

 他に部屋に空きがない以上、それが最善に思えた。



「え、一緒に寝ないの?」

「う、うん。さすがにね……」


 リーシャが、残念そうに僕に尋ねる。


 僕とティアは婚約者だ。

 そう考えれば別段問題ないかもしれないけど、さすがに色々なステップを飛ばしているような気がした。

 ティアも同じだろうと思ったのだが、



「べ、別に良いわよ――!」

「……え?」


「一緒のベッドでも、良いって言ったのよ!」


 ちょっとだけ涙目になりながら、ティアはキッとそう言った。

 そうしてティアは、ベッドの隅に腰掛ける。



「ほ、本当に良いの? 別に無理しなくても……」

「無理なんてしてないわよ! 明日、クエストを受けたときに、寝不足で活動出来なかったら迷惑ってだけよ。別にアレスと一緒に寝たいとか、一緒のベッドで寝れて幸せとか、思ってる訳じゃないんだからね!!」


 まじまじと見られて、ティアは口早に誤魔化すように言う。

 その顔はみるみる赤くなっていき、僕までこっ恥ずかしくなってきた。



「それなら大丈夫だよ。どこでも眠れるように、師匠には訓練を――」

「しのごの言わない! 早く寝るわよ!」


 ティアがそこまで言うのなら。

 僕は勢いに気圧されるように、ティアの隣に座る。

 そうして微妙な距離感で向かい合う僕たちの間に、リーシャがぴょんと飛び込み、ぴょーんと無邪気に飛び跳ねる。

 実に楽しそうだ。


 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん! まくら投げしよう?」

「リーシャは元気ね……」


 まだまだ元気いっぱいのリーシャ。

 気まずい僕たちの空気などものともせず、その瞳は「お泊まり~!」と無邪気にきらめいていた。




◆◇◆◇◆


 それから数十分後。

 そこにはスースーと平和に寝息を立てるリーシャが居た。

 ちゃっかりまくら投げを満喫して、すっかり遊び疲れて眠くなったようだ。



「むにゃむにゃ。お兄ちゃん、お姉ちゃん!」


「眠っちゃったみたいね」

「ずっと、はしゃいでたからね。遊び疲れたんだと思う」


 リーシャの正体はさておき、今の体は年相応の子供である。

 幸せそうに微笑むリーシャを見て、ティアが優しい笑みを浮かべた。


「むにゃむにゃ、お兄ちゃん。私みたいにちっちゃな子が好きだからって、いきなり話しかけたらダメだよ? 不審者に見えちゃう」


「え? リーシャ、どんな夢を見てるの!?」

「やっぱりアレスは、小さい子が好きなの……?」


 やっぱりって何?

 何故かティアからジト目が向けられた。



「そういえば最初に抱きつかれたときも、まんざらでもない顔してたわよね!」

「誤解だよ! 驚きで固まってただけだって!」


「ふ~ん……?」


 ぶす~っといきなり不機嫌になるティア。

 ――絶妙な居心地の悪さは、その後、ティアが寝付くまで続くのだった。

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