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「緊急クエストを発令します! ごめんなさい。冒険者登録の続きは、また今度でお願いします」


 受付嬢は、申し訳なさそうに頭を下げた。

 本来なら、簡単なテストと共に冒険者ランクを決めて、先輩冒険者により手ほどきを受ける流れだったそうだ。

 緊急事態なら仕方がないか。



「うわあ。やっぱり領主さまは動かなかったか」

「普段は兵士に丸投げしておいて、緊急事態が来たら冒険者に丸投げ。あいつら、王宮からの覚えを良くすることにしか興味がありやがらねえ……」

「お、俺は嫌だぞ! 変異型のカオス・スパイダーなんて――勝てる訳がねえ!」


 ついに来てしまったと、冒険者ギルドの一角で悲痛な声が響く。



「街道に現れた例のカオス・スパイダー?」

「はい。ここから馬車で半日ほど移動した場所に、領の兵士ですら手を焼く変異型のカオス・スパイダーが出てまして」


「安心して下さい。それならさっき倒したところです」


 たぶん、あれのことだよね?

 カオス・スパイダーなんてやばいモンスター、そんなに大量発生しているとは思いたくないし。



「……え?」


 何を言ってるんだろう、と受付嬢は口をあんぐりと開ける。


「じょ、冗談ですよね?」


「恐ろしい相手でした。ビッグバンも物理攻撃も効かなくて――最終的にはブラックホールが有効手になりました。闇属性が弱点で良かったです」

「ブラックホール!? その歳で、そんな魔法を!? 本当にアレスさんたちが、倒してしまったんですか?」


「はい。確認して頂いても構いません」


 いまだに信じられないという反応。

 どうやら討伐に成功したという情報はまだ伝わっておらず、入れ違いになったらしい。



「少々お待ちください」


 受付嬢は、わたわたと奥の部屋に引っ込んだ。

 何かを慌ただしく確認していたが、それから少しして、


「皆さん、ご安心ください。確認したところ――本当にカオス・スパイダーは討伐されていたようです!」


 と宣言した。



「「「おおおおおお!!!」」」


 冒険者ギルドの中に、歓声が響き渡った。



「私たちのパーティーでは、どう考えても力不足。いつ緊急クエストが来るかと、ヒヤヒヤしていたんだ!」

「絶対に俺たちに回ってくると思ってた。そんなクエストを受けたら、命がいくつあっても足りねえ。何とお礼をすれば良いか!」


 中でも冒険者ギルドの隅で、酒を飲んでいたパーティはひときわ喜んでいた。

 街では有数の実力者であり、緊急クエストが発令されたら、真っ先にカオス・スパイダーに挑むことになっていたらしい。



「アレスさんたちの実力は、測るまでもありませんね。まさか単独でカオススパイダーを討伐してしまうとは……。Eランクからのスタートで、どうでしょう?」


 冒険者ランクは、SSS~Gランクまでに分類される。

 SSSランクは歴史上でも、世界に1人しか存在しない伝説の冒険者だ。

 ティアに聞くと、通常、登録したての冒険者はG~Eランクのライセンスを発行されるらしい。

 Eランクスタートというのは、その中では最高位だった。



「おいおい。そりゃ無いんじゃないか?」

「そうよね。緊急クエストをあっさり解決してみせたんだもの。最低でもDランク、Cランクにしても、文句を言うやつなんて居ないわよね?」


 不満そうだったのは、先ほど頭を下げてきた冒険者だちだ。

 彼らはBランクのパーティーらしく、自分たちが達成できそうにないクエストをあっさり解決した僕たちがEランクになるのは、ギルドにとっての損害だと口にする。



「申し訳ありません。それほどの戦果を上げていらっしゃる方を、Eランクというのは心苦しいのですが、規則ですので……」

「Eランクで構いませんよ。ね、リーシャもティアも大丈夫だよね?」


「お兄ちゃんが大丈夫なら、それで!」

「私も問題ないわ」


 2人が頷いたのを確認し、僕は受付嬢にそれで構わないと告げた。



「それにしても、ものすごい新人が入ってきたな!!」

「カオス・スパイダーを単独で倒すほどの腕を持ちながら、欲が無いなんて!」

「俺たちも負けちゃ居られねえ! これから修行だ!」

「ええ……。今日は休憩って話だったじゃないですか……」



 そして何故か、僕たちには更なる尊敬の視線が向けられていた。

 その日、僕たちはEランクの冒険者になった。

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