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そうして僕たちは、冒険者ギルドに入った。
依頼掲示板の前には、すでに多くの冒険者が押しかけており、とても賑わっている様子だった。
昼間だというのに、酒を浴びるように飲みながら、顔を真っ赤にしている冒険者の姿も見える。
僕はカウンターに進むと、受付嬢に向かって話しかけた。
「すみません、冒険者として登録したいんですけど……」
「かしこまりました。最近は狂暴化したモンスターが増えてまして、人手不足が深刻なんですよ」
受付嬢は完璧な笑みを浮かべて、いくつか僕たちに質問をすると、書類に何やら書きこんでいった。
「今後はティバレーの街を拠点に冒険者として活動されるつもりですか?」
「いいえ。基本的に1箇所に留まるつもりはなく、このまま東に進んで魔界を突っ切るつもりです」
僕の言葉に、受付嬢は驚きに目を丸くした。
「ま、魔界だなんて。どうして、そんな命知らずなことを?」
「もちろん危険なことは知っています。それでも世界の果てを――師匠が見れなかった景色を見ることが、僕の夢なんです」
「ふふ、そうですか。素敵な夢ですね、そういうことなら分かりました」
受付嬢が柔らかく笑う。
冒険者にとって、夢は様々だ。
未知のダンジョンを攻略して、財産を築きたい。
ネームドモンスターを倒して、有名になりたい。
そして未知の世界を求めて旅をする者も、また少なくない。
「それでは、最後に冒険者ランクを決めたいと思います。こちらの水晶に、手をかざして頂けますか?」
「分かりました」
そう言って受付嬢が取り出したのは、ステータスを測定するための水晶。
まずはティアが水晶に触るようだ。
――――――――――
ティア・ムーンライト
LV:28
HP:236
SP:62
ATK:163
DEF:72
INT:91
SPD:66
スキル:剣姫
――――――――――
「おおお! その歳でレベル28とは、なかなか頑張っていますね。それにスキルも剣姫とは。将来有望だと思います!」
「ありがとうございます!」
ムーンライト領で、冒険者に混じって修行してきた成果だろう。
「どうよ、アレス!」
「すごいよ、ティア! また腕を上げてたんだね!」
「ふふん、私にかかれば楽勝よ!(アレスに置いていかれないよう、必死に修行して良かったわ!)」
ティアは、得意げな笑みを浮かべた。
「お兄ちゃん、次は私の番!」
――――――――――
リーシャ・アーヴィン
LV:13
HP:74
SP:147
ATK:31
DEF:26
INT:113
SPD:58
スキル:ーーー
――――――――――
「ふむふむ。こちらのお嬢さんは、魔法使いタイプですね。スキルはこれからですが……こちらも、将来有望だと思いますよ!」
「やったー!」
リーシャが無邪気にぴょんぴょんと飛び跳ねる。
神託の儀はこれからだし、スキルを持っていないのは当たり前だ。
――それにしても、リーシャ・アーヴィンか。
僕は、リーシャをしげしげと眺めてしまった。
先代のデバッガーであり、僕のスキル覚醒と同時に表れた謎深き少女。
ステータス鑑定の結果も、僕の妹だと認識されるのか。
「ほら、ボーッとしないで?」
「次は、お兄ちゃんの番だね!」
「あんまり期待しないでよ?」
2人にせがまれ、僕は水晶に手をかざす。
――――――――――
アレス・アーヴィン
LV:40
HP:332
SP:157
ATK:215
DEF:78
INT:132
SPD:41
スキル:チート・デバッガー
――――――――――
「レベルが40!? 歴戦の冒険者にも匹敵する高さですよ。それに何ですか、そのスキル!? 見たこともないですよ!?」
「やっぱり見たことないですよね。神託の書に載ってないからって、外れスキルだと言われましたよ」
「そんな馬鹿な! 神託の書に載っていないスキルということは、ユニークスキルってことですよね!? どこの神官ですか、そんな馬鹿なことを言ったのは――!」
アーヴィン家が直々に雇った神官です、とは言えず。
僕は苦笑いで誤魔化す。
そうなのか……。
父上は飲み会で知り合った凄腕の神官だと、自信満々に話していたけれど。
そうか……。
――まあ今さらの話だ。
「どんなことが出来るんですか!? あ、ユニークスキルの内容ともなれば、重大な機密情報ですよね? もちろん話せる範囲で構いませんが……」
「ええっと、こんな感じでアイテムが生み出せます」
そう言いながら、やくそうを出して見せた。
受付嬢はギョッとした顔で、取り出したアイテムをしげしげと眺める。
「本当にやくそうですね! これ、実際に使えるんですよね?」
「もちろんです」
「すごいですね! どんな旅でも、HP回復アイテム要らず。便利すぎる能力ですね!!」
「えっと。他にも魔法が取得できるようになったり、敵のステータスが見れるようになったり――」
「はあああ!? とても1つのスキルで出来るようになることじゃないですよね? 長年、ここで働いてきましたが、アレスさんのスキルほど珍しいものは、初めて見ました!」
受付嬢は身を乗り出して、僕のスキルについて尋ねてきた。
というかそれはもう、冒険者ライセンスを作るのには関係ないよね?
「おほん、すみません。珍しすぎるスキルを前に、思わず興奮してしまいました」
やがて我に返った受付嬢は、恥ずかしそうに咳払い。
テキパキと冒険者のライセンスを発行し、僕たちに手渡してくれた。
これがあれば、世界各地の冒険者ギルドの施設を使うことができる。
モンスターの素材の売買や、クエストの受注に必要なため、世界を旅をするなら必須にも近いアイテムだ。
「そうよね。これが普通の反応よね――」
「さすが、お兄ちゃん!」
テンションの高い受付嬢を見て、ティアとリーシャは苦笑いするのだった。
そうして、僕たちが冒険者ライセンスを受け取った直後――
「た、大変だ!!! なんでも街道に現れた例のカオス・スパイダーを、冒険者でどうにかしろって、お上からお達しが出たらしい」
「な、なんでそんな無茶を――!?」
冒険者らしき男が、駆け込んで来る。
その言葉を聞いて、受付嬢は悲鳴のような声を上げるのだった。






