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 それは神託の儀から、数日が経った日の事でした。

 ゴーマン様は数日前から、どこかそわそわと浮かれた様子を見せていました。



「ふっふっふ。俺はアーヴィン家の当主になる男だ。アレスと仲が良かったようだが、ティアだって俺を見たらすぐに俺に惚れるに違いない――リナリーもそう思うだろう?」

「そうでございますね」


 私――リナリーは、淡々とゴーマン様にお茶を注ぎます。

 ゴーマン様の専属メイドになってから、私は彼に個人的に呼ばれることが増えていました。

 感情の(こも)らない相槌にも、気持ちよさそうにゴーマン様は頷きます。


 専属メイドなんて、普通なら大抜擢です。

 下手すれば同僚に嫉妬されてもおかしくない――それなのに私は、むしろ同僚には感謝すらされていました。

 ゴーマン様の相手を、押しつけてごめんなさいとも。



「アレスのような軟弱者の婚約者なんて、ティアも嫌だったに違いない! ふっふっふ、それでも結果的には、俺の妻となれるのだ。ティアの奴も幸せだ――リナリーもそう思うだろう?」

「そうでございますね」


 ティア・ムーンライト――それは、とても可愛らしいお嬢様でした。


 はじめは、なかなか人を寄せ付けない難しい方だったと聞いています。

 それでもアレス様の努力の甲斐あって、最近ではアレス様と仲睦まじそうに領内を観光する姿も目撃されています。

 政略結婚でありながらも、関係は良好なものに見えました。


 とてもゴーマン様の言うとおりになるとは思えませんが……。

 ――そう遠くなく屋敷を去る私には、もう関係ないことですね。


 その知らせが届いたのは、そんな日々の中でした。



「ゴーマン様。その……ムーンライト家から使者がいらっしゃいました」

「おお。ついに俺とティアの婚約が、正式なものになるのだな! ついに顔合わせだ。すぐに向かおう、この日を待って――」


「それが……どうもアーヴィン家との縁談自体を、無かったことにして欲しいと――」


 恐るおそる私は口にします。

 ウキウキと立ち上がったゴーマン様は、ぽかーんと口を開くのでした。




◆◇◆◇◆


 豪華な装飾品の置かれた応接間。

 そこではムーンライト家の使者と領主さまが、顔を突き合わせていました。


「ティアとの婚約を無かったことにしたいって。どういうことだよ!!」


 勢い良く乗り込み、ゴーマン様がまくし立てます。

 私もゴーマン様の専属メイドとして、同席を許されました。



「ゴーマン、落ち着きなさい」

「これが落ち着いていられるか! あの野郎が居なくなれば、ティアは俺のものになるんじゃなかったのか!?」


「な――ッ!?」


 ゴーマン様のあまりな物言い。

 これにはムーンライト家の使者が、啞然(あぜん)としました。



「ゴーマン、仕方ないだろう。アレスを追放したことで、縁談が無かったことになった……これは我々の落ち度だ。この縁談を受けるも受けないも、ムーンライト家の意向次第だ」

「それは……。あいつが外れスキルを持つゴミだったのが原因だろう!?」


「そんな事情は関係ないのだ。決定権はすべて向こうにある」

「なら一度、ティアに会わせてくれよ! 俺に会えば、いかに俺がアレスなんかより優れてるかってことが、一発で分かるはずだ!!」


 椅子から立ち上がって喚き散らすゴーマン様。

 そんな彼にムーンライト家の使者から、冷たい視線が突き刺さります。



「ゴーマン様のことは、よく分かりました。あなたのような人に、うちの大切なお嬢様はお任せ出来ません。どうやら縁談は、断って正解だったようですね」

「なんだと――!?」


 ゴーマン様は、使者に掴みかからんとしましたが、



「――ッ!?」


 使者は、ゴーマン様を鋭くひとにらみ。

 それだけで気圧され、ゴーマン様はへなへなと椅子に座り込んでしまいました。



 そんな彼に追い打ちをかけるように、使者が言葉を続けます。


「ティアお嬢様は、アレス様を追いかけて家を飛び出してしまったのです」

「そ、そんな馬鹿な――だって、あいつらは、ただの政略結婚で……」


「アレス様が追放されたと聞いて、ティアお嬢様は随分と取り乱しておりました。父を相手に啖呵を切って、地位を捨ててでもアレス様を追いかけると、家を飛び出してしまって……」


 使者は苦笑しながら、そう言いました。


「失礼、無駄話でしたね。これ以上、お話しすることは無いでしょう」


 ゴーマン様は、信じられないとばかりに目を見開き、わなわなと震えていました。

 そうして使者は、帰っていきました。




 使者が帰って数分後。


「くそっ。くそっ! アレスめ……こんな屈辱――絶対に許さねえぞ!」


 ゴーマン様は机の上にある皿を手に取り、壁に叩きつけました。

 感情のままに荒れ狂う彼を、こうなったら止めることは出来ません――見守るしかありません。



 やがて、ひと通り暴れてスッキリしたのか、


「おい、貴様ら。きちんと片付けておけよ」


 その場に居た使用人にそう言い残し、ゴーマン様は部屋に戻って行きました。

アーヴィン家サイドです。


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