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「本当に助かりました。あなたたちが居なければ、どうなっていたことか」
「想像するのも恐ろしいです」
その後、僕たちは森を出て街道に戻る。
兵士たちは、すっかり恐縮した様子で僕に頭を下げていた。
「こちらこそ、巻き込んでしまったようですいません。お役に立てて良かったです」
僕も兵士たちに頭を下げる。
もともとカオス・スパイダーが動き出したのは僕を見てからだった。
その後の【バグ】については、言わずもがなだ。
「巻き込んだなんて、とんでもないです」
「犠牲者が何人も出てるって訴えても、まるで領主さまは聞く耳を持ってくださいませんでしたからね……」
「そうなんですよね。変異種で手に負えないと救援要請を出しても、領主さまはカオス・スパイダーぐらいさっさと倒せの一点張りで……。いつ無茶な突撃命令が出るかと――あっ!」
話している途中で、僕が元々は領主の息子であることを思い出したらしい。
一族を前に悪口を、と思わず青ざめる兵士たちだったが、
「気にしないで良いですよ。でも、そんなことが……」
兵士たちの言うことは無視できるようなものではない。
領内の兵士たちは実力者だ。
そんな彼らに対応できないモンスターが出てきたなら、領を治める者として、適切な判断をしなければならないだろう。
直接出向いて討伐しても良いし、近隣の領に助けを求めたり、最悪の場合は王宮に助けを求めたりなど、やらなければならないことは山ほどある。
父上の対応はお世辞にも優れたものとは思えなかった。
「アレス様は、どこに行かれるのですか?」
「やりたいことがあるんです。まずは、冒険者ギルドに登録するために、ティバレーの街まで行こうと思います」
「いずれはアレスさんのように立派な人になりたいと思います」
「アレスさんは我々の目指すべき姿です!」
「これからの旅の無事をお祈りしています」
兵士たちに頭を下げられながら、僕たちはティバレーの街に向かうことにする。
◆◇◆◇◆
途中で馬車を拾い、移動すること半日ほど。
僕たちは無事、ティバレーの街に到着した。
「お兄ちゃん? ティバレーの街って、どんな場所?」
リーシャが街をきょろきょろと見渡した。
「そうだね……人口は1万人ぐらいかな。冒険者も頻繁に立ち寄る活発な街だね」
「ここで冒険者登録をする人はかなり多いわよね。それに合わせて、駆け出し冒険者向けのサービスもたくさんあるわね」
足元はレンガで舗装されており、整備の行き届いた街並みだった。
街の中は人通りに溢れており、活気に満ちている。
「そうだ。そんなワンピースじゃ心細いだろうし、まずは装備ショップを見ていこうか?」
「や! これが良い!」
リーシャにそう言うと、思いっきり断られてしまった。
ぷ~っと頬を膨らませて、大切そうにワンピースを撫でる。
「やれやれ。アレスにはこの子の気持ちが、なにも分かってないのね?」
「え? 大丈夫だよ。女の子向けの装備屋には、可愛いさと性能を両立した物も多い(らしい)から!」
僕の言葉に、呆れたようなため息が2つ重なった。
(お兄ちゃん……いつもこうなの?)
(そうよ! 私だって、さりげなく何度アプローチしても――って無し無し! 今の無し!)
(……ティアお姉ちゃんも苦労してるんだね)
ヒソヒソと2人が何やら語り合う。
仲良くなったようで、何よりだ。
「そもそも装備品を買い替える必要なんて無いわ。そのワンピースは最高クラスの装備品だって、最初に言ったじゃない?」
「そう言われても、初めて作った物だから自信がなくて……」
僕たちはそんなことを話ながら、街の一角にある冒険者ギルドに入るのだった。