16
突如として空中から現れた全裸の少女。
居合わせた兵士たちは、大慌てで目を逸らした。
「あ、あ、あ、あなたはアレスの何なのよ!」
「え? リーシャはアレスの妹だよ?」
リーシャが僕に抱きついたまま首を傾げる。
「い、妹!? そんな馬鹿な――いいからアレスから離れなさいよ!」
「や!」
ギュッと僕にしがみつくリーシャ。
「アレス? ……その子が妹って――本当なの?」
「ええっと……」
僕はチラッとリーシャを伺う。
彼女はこくこくと頷いた――妹だということにして欲しいらしい。
できる限り正体を隠したいということだろうか?
本来生まれるはずだったが、バグによって生まれなかった妹。
先代の【チート・デバッガー】のスキルの持ち主。
……たしかにどう説明したものか分からない。
うん、父上に犠牲になってもらおう。
「うん。リーシャはその……僕の……生き別れの妹だよ」
「そ、そうなの……!? アレスのお父さまに隠し子が――」
ティアがショックを受けたように、リーシャを見る。
貴族の隠し子――珍しいことではないけど、あまりにすんなり受け入れられ過ぎではないだろうか。
「えへへ! 妹ならお兄ちゃんに抱きつくのは、当然だよね?」
「それとこれとは別よ! いいからまずは、服を着なさい! というか一体どこから現れたのよ――!」
ティアがついに実力行使。
リーシャの手を引っ張り、強引に僕から引っぺがそうとする。
「ティアお姉ちゃん、どうしてそんなに怒ってるの?」
「お、お、お、怒ってはないわよ!(その……ちょっと羨ましいだけで――) それより―、お姉ちゃんっていうのは?」
「え? だってティアはお兄ちゃんと結婚するんだよね? なら……私のお姉ちゃん!」
「お、お姉ちゃん? 私がお姉ちゃん?」
リーシャの言葉のどこかが、ティアの琴線に触れたらしい。
ティアは、顔を真っ赤にして俯いた。
「い、いきなり何を言い出すの、リーシャ!? ごめんね、ティア。リーシャがいきなり、変なことを言いだして」
「アレス――」
僕は怒らせてしまったかと慌てたが、
「――この子、めちゃくちゃ可愛いわね……!」
ティアは顔をパッと明るくした。
……彼女の機嫌の悪くなるスイッチが、さっぱり分からない。
ティアはニコニコしながら、リーシャをギュ~ッと抱きしめた。
「私、ティアお姉ちゃんみたいな、お姉ちゃんが欲しかったの!」
「リーシャは本当に良い娘ね! アレス、妹のことは大事にするのよ?」
その後、リーシャはどうやってこの場に現れたのか説明した。
リーシャは、たまたま近くに兄の気配を感じ、上位魔法である『テレポート』で、この場所に飛んできたと口にする。
「リーシャは、今まではどうしてたの!?」
「その、ごめんなさい。あまり言いたくないんです」
消え入りそうな声で、リーシャが呟いた。
何の打ち合わせもしていないし、あっという間にボロが出るのではないかと、僕はハラハラと2人を見守っていたが、
「か、可哀想に……。父に捨てられて家族からは虐待されて――たまたま通りがかったアレスに、助け求めたのね――」
「え……それは違――」
「無理して喋らないで良いのよ!」
そしてティアの中では、そんな結論が出てしまった。
「アレス、お兄ちゃんとして! これからは責任持って、リーシャを守るのよ!」
さらにはピンと指を立てて、そんなことを言い放つ。
うきうきとリーシャの世話を焼くティアを見て、僕は彼女の新たな一面を見た気がした。
「リーシャ、取りあえずこれを着てなさい?」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
ティアから借りた上着を身に付けながら、
「でも……私――お兄ちゃんに服、作ってほしいな?」
リーシャは上目遣いで、そんなことをお願いしてくるのだった。
服を作る――そんなこと出来るかな?
『アイテムの個数変更』は、あくまでアイテムだし……僕は記憶を辿りながら、自らのスキルを起動する。
『チート・デバッガー!』
――――――――――
絶対権限:8
現在の権限で使用可能な【コード】一覧
→ アイテムの個数変更
(▲エクスポーション▼)
→ 魔法取得
(▲ブラックホール▼)※習得中
→ ユニットデータ閲覧
→ バグ・サーチ
→ スキル付け替え(NEW)
(▲極・神剣使い▼)
――――――――――
あれ?
なんか見覚えのない、やばそうな【コード】が増えてるような……