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 それは異様な光景だった。

 真っ白な蜘蛛の糸が、街道沿いの木々を覆いつくしている。

 その蜘蛛の巣を支配するように、全長数メートルはある巨大な蜘蛛型モンスターが、じっとこちらの様子を伺っていた。



「あれがカオス・スパイダーですか?」

「君たちがアレスとティアかい?」


「はい。カオス・スパイダーを倒しに来ました」


 頷く僕たちに、不安そうな視線が向けられる。

 どうやら既に現場の兵士には、話が行っているようだ。



「ああ、あれがカオススパイダーだ。変異種らしく、属性耐性がやたらと高くてね……こちらの攻撃が、すべて無効化されてしまうんだ」

「しかも近づきすぎると、糸に絡め取られて、あっという間にお陀仏(だぶつ)だ。まったく……厄介な相手だぜ?」


 そう愚痴る兵士。

 既に討伐を試みたものの、失敗して今に至ったらしい。



「『ユニットデータ閲覧!』」


 僕はスキルで、カオススパイダーを解析する。


――――――――――

【コード】ユニットデータ閲覧

名称:カオス・スパイダー(バグモンスター)

HP:1332/1356

MP:564/564

属性:完全耐性→炎、水、凍、雷、物理

  :弱点→闇

▲基本情報▼

――――――――――



「う、うわあ……」

「アレス、どうにかなりそう?」


 文字通り桁外れの強さだった。

 これまで倒してきた相手とは、比べ物にもならない。



「物理、炎、凍の属性に完全耐性を持ってるみたい」

「な、なによそれ。私たちじゃ、ダメージ与えられないじゃない?」


「そもそもの強さが尋常じゃない。出直すべきだね」


 冒険者は臆病なぐらいで丁度良い。

 勇気と蛮勇を履き違えてはいけない。

 ――これも師匠の口癖だ。


 弱点は闇属性。

 それなら闇属性が得意な魔法使いを集めて、作戦に臨もう――そんなことを提案しようとして、



「え……?」


 ぞくりと背筋に寒気が走った。

 今、たしかにカオス・スパイダーと、視線が交わったような?


 

 そして嫌な予感は的中する。

 カオススパイダーが、のそりと動き出したのだ。


「う、動き出したぞ!?」

「どうなってるんだ!? これまで縄張りを守るばかりで、自ら動こうとはしなかったのに!」

「まっとうに戦っても勝てねえぞ! 逃げろおおお!」


 兵士が酷く慌てた様子で、パニックに陥る。

 伝令魔法で、何事かを話していた。

 そうしている間にも、モンスターは真っ赤な目を怪しく光らせながら、こちらに向かってきた。


 その視線の先にいるのは僕だ。

 しかも、恐ろしく素早い。



「敵の狙いは僕みたいです。離れてください!」


 とっさに(おとり)になるように、僕は街道を走りだす。

 カオス・スパイダーは、予想通り僕を追いかけてきた。



「これで終わると楽なんだけど――『ビッグバン!』」


 立ち止まり、今使える最大級の威力を誇る魔法を起動。カオス・スパイダーに叩きつける。

 通常であれば、クレーターを穿(うが)つほどの威力を見せるのだが――


「やっぱりダメか」


 簡単にかき消されてしまった。

 これが完全属性耐性かと戦慄する。



「ど、どうするのよアレス!? というかあの蜘蛛、どうしてアレスに襲い掛かってきてるの?」

「わ、分からない。というかティアは、どうして付いてきちゃったの!?」


「そ、それは……アレスのことが心配で」

「え?」


「何でもないわよ! だいたい……私だけ安全な場所で待ってるなんて、冗談じゃないわ!」


 強気に言い切るティア。

 知り合いが戦っている中、ただ隠れているなんてごめんだと――それこそが氷の剣姫と呼ばれた彼女の生き方なのだ。 


 

 とはいえ、カオス・スパイダーの方が、圧倒的に足が速い。

 このまま無策にぶつかれば、勝負にもならず、一方的にやられてしまうだろう。


「それでアレス? もちろん、このままやられるつもりなんて無いんでしょ?」

「当たり前!」




 僕たちは、近くの森に駆け込んだ。

 木々が覆いしげる場所であり、どう見てもカオス・スパイダーの巨体では入ってこられないだろう。

 そう思っていたが――



 ズゴーン! ズガーン!


 カオススパイダーは木々を易々となぎ払った。

 それこそが我が道だと言わんばかりに、意気揚々と突き進む。


「そ、それは反則でしょ!?」

「このままじゃ、森に慣れてない分、私たちの方が不利よ!? どうするのよ!」


 

 このままでは追いつかれるのも時間の問題。

 僕は現状を打開するために、素早く『魔法習得』のコードを起動する。


――――――――――

【コード】魔法取得

※選択可能な魔法は以下の通りです。

 → ビッグバン

 → ラグナログ

 → ブラックホール

 → デス・オール

――――――――――


「ティア。『ラグナログ』と『ブラックホール』って、どんな魔法か分かる?」

「何よ、いきなり? どちらも神話級魔法だけど――まさか?」


「うん、たぶん覚えられる」


 僕とティアの攻撃手段は、カオス・スパイダーには通じないだろう。

 ダメージを与えられるとしたら、『チート・デバッガー』を使った攻撃だけだ。

 名前からして不吉なので、デス・オールは最初から選択肢から外す。



「この状況で使うなら、どっちが良い?」

「どちらも最上位の範囲魔法! どっちもやばいわよ!」


「それでも、どうしても使うなら?」

「そうね。ブラックホールは、無差別な吸い込み型魔法。強力だけと、この距離じゃ私たちも巻き込まれかねない。といってもラグナログは物理攻撃だし……」


「なるほど。効かないね……」


 完全属性耐性持ちの相手に放っても、ビッグバンと同じ運命を辿るだけだろう。

 厄介な相手だ。



――――――――――

【コード】魔法取得「ブラックホール」

ブラックホールの魔法を習得しました。

――――――――――


 やるしかないだろう。

 危険を取らずに勝てる相手ではない。



「ブラックホールを使う。少しでも距離を稼ぎたい。なんとか足止めできない?」

「随分と無茶を言ってくれるわね」


 そう言いながらも、ティアの瞳には好戦的な光が宿る。

 それから僕たちは頷き合い、カオススパイダーに向き直るのだった。

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