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出会い その2

最初はまともだと思います。最初だけは…

「……オレ、なんかおかしな夢でも見てるんかな。じいちゃんが死んだショックで…」

暗闇の中、鍵を手にしたまま肇は立ち尽くしていた。

その正面にあるのは、ごくごく普通の引き戸だ。縦に細かく木の格子が入り、引手が付いている。

ぼんやりと発光しているようで、周りから浮いて見える。

引手に手をかけ、そっと力を入れると、


   カランコロン   カラカラカラカラ・・・・・・


思ったより軽くあき、かわいらしい音が響く。

見ると上部にカウベルが取り付けてあった。そして濃紺の小さな暖簾。

「料理屋、かな?」

入り口をくぐって中に立つと、まさにそうだった。


右側にカウンター席。大体6人程度か。左はテーブル席。4人掛けで3組ある。

天井から降ってくる明かりがまぶしすぎず暗すぎない。

穏やかな暖色系の明かりだった。

ふらふらと中央付近まで進み、もう一度見まわす。と、


『侵入者発見。誰何シマス』


金属的な声が響き渡った。


「え?だ、誰だ?」

周りを見るが誰もいない。ただ声だけが響いてくる。


『誰ダトハコチラノコトデス。名乗リナサイ』

「え、お、オレは佐久和肇さくわはじめだ。ここ、どこだ?」

『サクワハジメ……登録ナシ。タダシ、系統探索ニ反応アリ……マスターゼロノ名前ガサクワデシタネ』

「マスターゼロ?それって、佐久和全太郎さくわぜんたろうじゃねぇ?」

確か、PCで使っていた名前がゼロだって聞いたことがあった。

()んた()う=ゼロ。簡単だがわかりやすいじゃろう。そう言って笑っていたじいちゃんを思い出す。


『マスターノ本名ヲ知ッテイルトハ、関係者デスカ?』

「あ、ああ。ゼロはオレのじいちゃんだ」

『マスターハ今、ドウシテイマスカ?』

「じいちゃんは…死んだんだ。おととい、急な病気で」

『死……生命活動ノ停止ヲ意味スル言葉。マスターハモウイナイノデスネ…』

機械的な音声だが、肇はその中に悲しみの色を感じていた。


「なあ、聞くけど、ゼロ…じいちゃんはここで何してたんだ?オレ、このカギとURLだけをもらったんだけど、何も聞かされてなくて」


『URLトカギヲ、デスカ。デハ、アナタガ次ノマスターデスネ』

「…は?ま、マスター?誰が」

『アナタデス。デハ、契約ヲ』

「いやいやいや、ちょっと、ちょぉっと待て。早まるな」

『何カ問題デモ?』

「アリアリだろーがぁっっ!」

『コチラニハアリマセンガ、ハテ?』


「駄目だ、話が通じるようで通じない……」

思わずorzになりかけたが、これではいかんと立ち上がる。


「契約の前に現状の確認からだろう?オレは何が何だかわからないんだから、まずはそっからだ」

『ナルホド論理的デス。デハ、何カラ説明マスカ?』

「まずは…じいちゃんは、ここで何をしてたんだ?ていうか、ここ、どこだ?」


『位置確認カラデスネ。ココハ座標軸369876279316ノ三次元空間軸9173.2277オヨビ第526183027時間軸ニ代表サレル・・・』


「オイコラ待ていぃぃっ!」

『何デショウカ?』

「その膨大な訳わからん数字はどっから湧いてきた!」

『正確ナ位置表示カラト思イマシテ』

「ますますわからんわっ!」

『デスガ、本当ニ基本的ナ数字デスヨ?』

()()()()にとってはな。じいちゃん、いや、ゼロの故郷から見てどこいら辺なのかが分かればいいんだ」

『前マスターノ故郷カラ…ナラバ、一言、異世界デス』

「……シンプルな答えをありがとう」

分かり合える気がしない……この先どうするか、な?


『マスターノ仕事デスガ、ココデ料理ヲ作ッテフルマッテイマシタ』

「じいちゃん、ここで料理人していたんだ。お客さんはどうしてた?ここ異世界だよな?」

『ハイ。冒険者ギルドニ連絡場所ヲ設ケテ、ソコデ調整シテイマシタ。何セ、冒険者ギルドノマスタートオ友達デシタカラ』

「じいちゃん何気にスゲェな…それじゃ、次にだな…」


『ア、スミマセン。前マスターノ録画ガアッタノヲ忘レテマシタ。コチラニ来テクダサイ』

いやに人間臭い奴だな、と思いながら、点滅する矢印に従ってカウンターの中に入る。


お客と対峙するような場所に来ると、手元の位置でモニター画面が立ち上がる。

少しのタイムラグの後、画面が明るくなり、人物が映った。


「…じいちゃん……」


それは在りし日の祖父だった。故郷を旅立った時よりは老けていて、だが、診療所の時とは確実に違う生気にあふれた一人の男がそこに居た。

紺色の作務衣と白い巻き前掛けを締め、同じ紺色に染めた和帽子を白髪頭に乗せた、どこからどう見ても料亭の板前にしか見えない祖父が照れ笑いを浮かべ、画面を見つめている。


『あ~、こほん。これでいいか、ロット?ちゃんと映ってるだろうな?』

『大丈夫ですよ、私をなんだと思ってるんですか?』


『お前、時々ポカやらかすからな、念のためだ。

で、だ。これは次へ引き継ぐために記録として取っておく。ワシ自身にもよう分からん経緯でマスターになっちまったからな。次代にも同じ苦労は背負わせたくない。ロットの扱いも結構きついからなぁ…』

『何ごちゃごちゃ言ってるんですか、マスター。聞こえてますよ?』

『ホントのこと言って何が悪い。まあ、何にせよ、説明じゃな。

ワシは5年前からオンラインげぇむのMMOにハマっての、ぼちぼちやっとったんさ。結構面白くってなぁ、いろいろ知り合いもできて狩りやったり、だんじょんへも潜ったりして過ごしとったんじゃが、今一つ続けたいと思うものが無くっての。そろそろ止め時かと思うとったんだが。

そん時に…ガチャイベント、とかいうやつでもらったのがこいつじゃ。最初は真っ黒の小石でしかなかったのに、何がどうなったのか分からんが、一軒家みたいに育った。で、今は小料理屋をやっとる。うん、満足じゃな』


じいちゃん。その説明じゃ何が何だかさっぱりわからないよ。




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