ウォルフガイド国 その3
異世界編3話目です。
その翌日。
いつもの騒動が終わった時間帯に、ガイラスが冒険者ギルドの受付に来た。
「いらっしゃいませ、ガイラスさん。ご用件をどうぞ」
対するのはいみじくもフレームレスの眼鏡嬢。言葉も態度も冷え込んでいる。
「……」
「ガイラスさん?ご用件は?」
「ん、ああ、追加条項の件でギルマスに伝言がある。取り次いでほしい」
「…はい、お待ちください」
今までにない穏やかな言動に少々引っ掛かりつつも、受付嬢は席を離れる。ほかの受付嬢も仕事をする振りをしながら、ガイラスの様子を窺っている。わずかな緊張感が流れた。
「ガイラスさん、ギルマスがお呼びです。こちらへ」
「わかった」
受付嬢に続いて2階へ上がるガイラスを眺め、残ったギルド員たちは声を潜める。
「ねえねえ、彼どうしちゃったの?昨日と違うじゃん」
「ホントねぇ。随分落ち着いてるけど、何があったのかしら」
「追加条項の伝言って、アレでしょ?見つけたのかな?」
「そうねぇ、可能性はアリ、かも」
「昨日ランドルさんと長い間話してたじゃない。その効果があったかな」
「うんうん、かっこいいよね、ランドルさんって」
「あんたたち、おしゃべりするなとは言わないけどいい加減にしなさい!!」
「「「は、は~いぃぃ」」」
「ギルドマスター、ガイラスさんをお連れしました」
「中へ入ってもらって」
「はい。…ガイラスさん、どうぞ」
「失礼する」
正面にある大きな机で書類を片付けていたらしい穏やかな爺さまが、ここケナンのギルドマスターだ。メガネもかけず片っ端から処理している姿はとてもじゃないが信じられそうにない。
「おお、ガイラスくん。すまんが、少々忙しくてな。そこで待っててくれんかの」
「あ、はあ」
言われるままに腰を下ろし、辺りを見回す。ギルドマスターの部屋に入るなんて事はそうそうない。
特に元Aランク保持者であるだけに、机の後ろにあるウォーハンマーは凶悪としか言いようがない形状である。大きさもさることながら、柄とハンマー部分を取り付けている楔が槍の先端のように尖っているのは、やりすぎの感がしないでもない。
これを振り回す膂力の持ち主と対峙したいと思うのはもはや自殺志願者かバトルジャンキーではなかろうか。
そんなたわいもないことを考えていると、
「よしよし、これで一段落じゃの。待たせたのう」
そう言いつつ、ひょいと座る。
「で。追加条項の伝言、じゃったの。うまくいったかの?」
「は、はい。『はなみずき』、でしたか、そこの食堂の店主に会えました。え~と、『火の月23日1900、お任せで』予定を入れておく、とのことです。それと、これを預かりました」
渡された包みをテーブルに置くと、
「おおおぉっ、こ、これは!ワシの好物『味噌漬け』ではないかっ!!よくやったぁぁぁっっっ!!!」
飛びつくように手に取り、挙句に頬ずりを始めた。いきなり壊れたギルマスにあっけにとられる。
「ああ、やっぱりこうなりましたね。まったく」
お茶を出しに来た受付嬢が呆れ半分あきらめ半分でギルマスに声をかける。
「ギルドマスター、うれしいのは分かりますが先に仕事してください。でないと取り上げますよ、それ」
「うおっ、なんちゅう非道なことを言いよるんじゃ、ワシ年寄りじゃぞ」
「ギルドマスター以外のお年寄りには優しいですよ、私」
「さらに酷いっ!?」
「漫才はいりません。で、お仕事は?」
「ったくもう、ここはワシをなんだと…」
「お・し・ご・と・は?」
「…はい……」
傍観者に徹したガイラスは、見ぬふりを決め込んだ。ああ、お茶がおいしい。
「ん、コホン。で、ではガイラスくん。これで昇格試験の条件をすべて完了したことを認める。じゃによって、ランクを一つ上げよう。受付でランクの更新をしてくるといい」
「ありがとうございます。では」
「うむ。あ、そう言えばのう、ひとつ聞くが」
退出しかかったところを後ろから呼び止められる。振り返ると、
「『はなみずき』はどうじゃった?」
何故か笑顔全開で質問された。
「すごい、店でした。今まで見たことのない、変わった雰囲気でした」
「うんうん、そうじゃろう。で、そこと縁は出来たかの?」
「はあ。3か月後には行けるとか言われました。意味、分からないんですけど」
「お?そうかそうか。では、メダルをもらったんじゃろ?それが青になったらワシのトコロに来るとええ。後のことは教えるでの」
「はい、そう…」
「ギ・ル・ド・マ・ス・タ・ー?」
「うぉっ、まだ居ったんかい!」
受付嬢が再度冷気を垂れ流していた。想像以上に震えがくる!
「ガイラスさん、メダルに変化があったら受付へきてください。そのあとの対応はこちらの仕事です。間違ってもギルドマスターには言わないように」
「あ、は、はいっ」
「どぉしてそこまでぶった切るんじゃあぁぁっ!!」
「おや、ご自分の言動に悪いところはないと?」
いい笑顔で答える受付嬢の反応に冷や汗が止まらない。
「屁理屈つけてお仕事をサボるギルドマスターを監視するのもギルドの大切な業務です」
「くうぅぅっ……残り少ないワシの楽しみを奪いおってからに…」
「あら、まだ50年はありますよね、最低でも。あまり生き急がなくても大丈夫だと思いますよ?」
「はぁ、このギルドの娘っ子たちは優しくないのう。ワシ、引退しようかの…」
「できるものならどうぞ。もっとも、マーサ様に勝てるのなら、が条件ですが」
「ぐぐぐっ……」
「ガイラスさんは1階へどうぞ。更新の準備は出来てますよ」
「あ、どうも、です」
殺気を帯びた言葉の応酬に背筋を凍らせながらも、ようやく1階へと降りてきた。
ここのギルド職員、半端なく怖い。
(オレよく今まで無事だったよな…)
カードの更新をしてもらいながらそんなことを考える。
「更新終了しました。これでガイラスさんも高位ランク入りですね。おめでとうございます!」
「ああ、ありがとう」
「早速で申し訳ないんですが、この依頼を受けてもらえませんか?ついさっき至急便で入ったんですけど、ランク的にほかの人に頼めないんです」
「何々、ファングボアが畑を荒らしてるって?それなら請け負おう。今からなら昼過ぎに着けるな」
「助かります!すぐに手続きしますから!」
魔獣の討伐は今までも受けていた。ファングボアとてそれほど脅威には感じない。
だが、自分が目指した『冒険者』を追いかける初仕事にふさわしいと思う。
(今日からまた、気合入れないとな)
「はい、受注終わりました!お願いします!」
「おう、任せとけ。行ってくる」
「お気をつけて!!」
ギルド職員のあいさつに片手をあげて答えながら、ガイラスはギルドの扉を抜けていった。
ガイラス君、ついに目覚めました。
なにって、ギルド職員の怖さ、にです(笑)
ここで一区切り、次は現代に戻ります。