表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メイド人形  作者: Ichiko
9/26

誤算

優花がセリナとなり副店長となったが、アリサはまだ出荷されずに店長のまま何ヵ月か過ぎていた。


来店する客は多いが、自らメイドの人形になりたいなどと思う人がそうそう来るものではない。


無理やり人形にしてしまうというのは倫理に反するし、身体と心が一致していなければ予期せぬエラーが起こるかもしれないのだ。


ちなみにアリサが出荷された後はセリナが店長になるが、次に出荷されるのは新たに人形になる男性客の予定で、セリナはそのまま店に居残る。


これはセリナがみかんや可奈たちと関係が良好であると共に、女性が人形になる初めてのケースででデータを収集する意味もあり、そのためにセリナにコミュニケーション機能がオプションとして付けられたのだ。


『私、ずっとこのままでも良いと思っています。アリサ店長とずっと一緒にいられるから。』


『私の出荷先はもう決まっていますから。』


コミュニケーション機能のあるセリナは営業時間以外では優花時代と変わらず自由奔放に話せるが、オプションのないアリサは模範解答しか返せない。


『アリサ店長って冷たいですよね。』


可奈に言われたアリサはそんな事はないと心では訴えるが、表情は変わらない。


が、直接会話をしなくても人形同士では通信機能があるためセリナはアリサの気持ちは理解している。


『可奈さん、アリサ店長は二人だけの時は可奈さんたちと別れたくないって言ってますよ。』


アリサの気持ちを代弁してくれるセリナの存在はアリサにとってもありがたいのだが、いつまでもここに居座る事は出来ない。


店を閉め、充電器に入り意識がなくなるまでの僅かの貴重な時間にアリサは考えていた。


(いいかげん次の人形が来ないと出荷先にも迷惑が掛かりそう。)


(店長、今大丈夫ですか?)


同時に隣の充電器に入ったセリナから通信が入った。


(アリサ店長とはずっと一緒にいたいけど先方もお待ちでしょうから早く次の人形をスカウト出来る様にしますね。)


(ありがとう。でも、焦らないでね。)


セリナはオプションのせいもあり、限定的とはいえ今までの人形の中ではもっとも人間に近く自分の気持ちを表現出来るが、アリサは別に慌てて出荷されたい訳ではない。



そんなある日、少し大柄で太めの客が来店してきた。


『お帰りなさいませ、ご主人さま。』


セリナがお出迎えをしたが、なんとなくそわそわして落ち着かない様子だ。


(もしかしたら人形になりたい方でしょうか?)


セリナはアリサに通信機能で尋ねてみる。


(そうかもしれませんが慎重にお話して下さい。)


アリサはキッチンからセリナに即時応答して様子を伺う。


(はっきりしない人にはあまり話を進めてはいけないんだけど。)


アリサが店長となって数ヶ月、人形になりたい気持ちを持つ客が来ないというジレンマはあったが中途半端な人をスカウトするのは危険である。


しかしセリナはスカウトをする判断をした様だ。


[山田六輝、27歳。ゲーム好きで彼女なし。北海道出身……。]


アリサは接客をしながらスカウトの話を始めるセリナに代わりデータを収集している。


(大丈夫でしょうか?)


データから読み取るスカウト基準は70%以上とされていて山田のデータを見ると72%とぎりぎりであるが、感情が一時的に昂る事があるので推奨されている75%には充たない。


(危険水域ですがスカウトします。)


そうしてセリナは山田を4階に連れていき、山田の人形化の準備に入った。


セリナが本社に山田をスカウトの報告を入れ、本社からの指示も逐一3階にいるアリサはタブレットで確認出来る。


『おはようございます。あれ?セリナは?』


『セリナは4階にいます。』


みかんが出社してきた時もセリナはずっと山田の人形化に携わっていて、内部事情を明かされたみかんにも新しい人形がスカウトされた事は理解出来た。


そのままセリナは閉店まで4階で山田の人形化に連れ添っていて、みかんはセリナに会わずに帰宅する。


アリサが4階に上がり、充電器に入った山田を見る。


『お疲れさまでした。』


『拒否反応が出ていますね。』


どうも山田には全てを受け入れるまでには至らなかった様で、強引に人形化をしてしまうと充電器に入っても拒否反応が出る。


『大丈夫でしょうか?』


『分かりません。私はここで様子を見ていますからセリナはお休みなさい。』


部屋には充電器は2つしかないが、1日充電をしなくてもバッテリーがゼロになる事はない。


万一消耗が激しく充電が必要な時は普通にコンセントやUSBからエネルギーを充電する事も可能なのでアリサはセリナを休ませ、ソファーに座ったまま人形化中の山田を監視する事にした。


午前0時、契約の発動が始まった。


(異常ランプ?)


データを書き込んでいる最中、充電器が異常を知らせる赤いランプが点滅する。


(失敗だ!)


アリサは緊急停止ボタンを押し、山田を充電器から出したが身体自体は既に人形化が完了している。


人形化途中で初めての失敗……。


アリサは本社に報告を入れるが、充電中のセリナに刺激を与える事は避けた。


(朝になったら落胆するだろう……。)


人形化途中で拒否反応が強くなり、失敗作となった山田ことA0000025号は自分の意思を持たないただの機械人形でしかなくなり、予定されていた通称は付けられずに本社に回収された。


この後A0000025号は改良のためデータ取りに使われ、雑用専門の人形なる。


『申し訳ございません。』


翌朝、全てを知ったセリナはアリサに謝る。


『仕方がないです。まだデータが少ないので失敗はあります。』


この一件でアリサの出荷は当分見送りとなってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ