プロジェクトの真相
翌日、普段なら昼休みで更衣室か外出している優花はそのまま店に残った。
『こんにちは、アリサ。……君が優花くんか。アリサから聞いたよ。』
武藤がアリサからの報告を聞いて、やって来たのだ。
『宜しくお願いします。』
優花は少し緊張している。
『それじゃ、身辺チェックをするからこのタブレットにサインしてくれる?これはまだ契約ではないから。』
優花は武藤に言われた通りにタブレットにサインをすると、優花の個人データがタブレットに表示された。
『ふむ。今は全然実家に帰っていないんだね?人形になったら二度と会えなくなるんだけど良いのかい?』
人間でなくなる前に一度田舎に帰った方が良いのではと武藤は思うが優花の気持ちはそうではなかった。
『中途半端に未練を残したくないので良いです。』
東京の大学を出て一流と呼ばれる企業に就職したものの、配属されて2ヶ月で退職して以来、優花は田舎に帰れなくなったのだ。
『こんにちは!』
武藤と優花が話しているところに可奈とみかんが突然現れた。
みかんの出勤時間にはまだ早いし、可奈は大学に行っている時間の筈だ。
『君たちはバイトの子たちだね。何でこの時間に?』
人形化は企業秘密なのでわざわざ二人のいない時間を武藤は選んだのだが、想定外であった。
『優花くんが教えたのかね?』
『い、いえ……。』
優花にとってもサプライズである。
『私たち、勝手に来たんです。ここのところ優花さんがちょっと悩んでいたからアリサ店長に「私も人形になる」って言っちゃうんじゃないかって思って。』
みかんが代表して言ったが、優花の気持ちを二人は良く分かっていた。
この更衣室で三人はいつも情報を共有していたのだろう。
『ちょっと聞きたいんだけど、君たちは人が人形にされる事をどう思うんだい?』
答え次第では二人はこの場で消されてしまうかもしれない。
『少なくても優花さんは自分が望んでいるから良いと思います。私たちだって、このお店で働いているのは人形になりたい思いがあるからです。』
可奈は自分の思いを武藤に告げる。
『君たちもアリサや優花くんの様になりたいのかい?』
『いえ。私は今のままで良いです。でも将来生きていくのが嫌になったら、人形になりたいって言うかも。』
三人の思いは共通の様だが、優花とみかん・可奈の違いは人間としての未練があるかないかである。
『私、今までの店長さんもアリサ店長も大好きだけど、もし優花さんが人形になって店長になったらもっと楽しくお仕事出来ると思います。』
『君たちの気持ちは分かりました。実はこの人形化は、本来人生に行き詰まって自殺する人を救済するために政府の肝いりで開発されたプロジェクトなのです。しかし、非人道的という批判もあり研究段階から先に進んでいません。』
武藤は人形化プロジェクトに付いて解説した。
『この内容に付いてはくれぐれも口外されては困るので、今までは人形化を希望する者以外には話してきませんでした。なので、二人にも本当は人形化をしなければならないのですが。』
可奈とみかんは殺されてしまうのかという緊張が走った。
『将来、つくばにある研究所で働いてもらいたいのです。勿論、今のままここでバイトを続けて戴くのも結構。しかし、研究所の職員になれば普通の新卒では考えられないくらいの待遇を用意しているし、人形たちもみんなリース期間が終わるとここに戻るんだ。』
人形にならなくても、口外さえしなければ将来を約束すると言うのだ。
『私は優花さんくらいの歳まではここで働きます。その先はその時点で研究所に行くか人形になるか判断します。』
みかんはそう答えた。
『私は大学を卒業して研究所に行けたらと思います。』
可奈は大学は卒業したいのだ。
『君たちの考えはよく分かりました。ただ、心変わりをしない様、定期的に催眠剤は浴びてもらうよ。』
歴代店長が更衣室に設置したアロマディフューザーは催眠効果があるが、身体には害がなく、武藤らも毎日出社すると浴びているが、このアロマの効果に気付いた優花がいつも部屋に入るとスイッチを切っていたので、三人とも催眠状態になっていないのである。
『それから、優花さんが人形になる時に私たち、立ち会っても良いでしょうか?是非見届けたいんです。』
前の日に人間だった優花が次の日に来たら人形になっていただなんて味気ない。
どの様に人形になっていくか、二人は興味津々なのだ。
『ここまでお話したのだから良いでしょう。優花くんの新しい顔とボディは来週届きその晩アリサが手解きするので付き添って下さい。』
『あなたたちも物好きね。』
優花も呆れ返っていた。