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メイド人形  作者: Ichiko
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変化

アリサが店長となり1ヶ月が過ぎ、今日は武藤が点検にやって来る。


『こんにちは、アリサ。』


『こんにちは、武藤さん。』


アリサは武藤にタブレットを差し出すと、武藤は管理モードに設定してアリサの状態をチェックした。


『うん、正常だね。ところで、アリサの契約がまとまりそうなんだが。』


『分かりました。』


(いよいよか。後任をスカウトしなきゃいけないな。)


会話は淡々としているが、心の中は契約する相手がどんな家か、気になって仕方がない。


『まあ慌てなくても良いから。マリーだって話が出てから君が来るまで半年近く見付からなかったから。』


そう簡単に条件に合う人物が来る訳ではなく、気長に待てば良いと武藤は言った。


(せっかくここの雰囲気にも慣れてきたし、直ぐじゃなくても良いよね。)


アリサ自身は、ここでの生活は気に入っているのでもう少しいたいと思っているのだ。



武藤が帰ると、優花が休憩から帰ってきた。


『休憩、ありがとうございました。』


平日なので遅番のみかんが来るまで店にはアリサと優花の二人しかいないが、通常は充分回せる。


『優花さん、顔色が悪いけど大丈夫ですか?』


優花の顔が青ざめている様だ。


『すみません、大丈夫です。』


しかし、優花は接客中も精彩を欠き、皿を落として割ったりしてしまい、みかんが来ると強制的に退社させられた。


(最近どうしたのだろう?)



優花は翌日、普通に出社した。


『おはようございます。昨日はどうもすみません。』


『もう大丈夫ですか?』


アリサは優花を気遣った。


『あの……相談があるのですが……。』


『なんでしょう?』


大切な戦力である優花が辞めたりするのは大きな痛手であるが、30歳を目前にしている彼女をひき止めるのは難しいかもしれない。


『……アリサ店長って普通の男の子だったんでしょう?』


アリサになる前の日にマリーと1対1で会話した時は司もかなり大きな声だったが、マリーが優花には聞こえない様に音声を吸収していたのでアリサが司だった事までは知らない筈だ。


『私は人形ですよ。』


バレているのにシラを切るのはそういう質問があった場合必ずそう答える様にプログラムされているからである。


『マリー店長がこの店に来た時と一緒だったから……。アリサ店長が来た前の日のお客さまの雰囲気から分かりました。会話は聞こえなかったけれど、羨ましいなって。』


今までメイド人形になる対象が全て男性なのは異性に憧れを持つ人間の方がプロジェクトに順応するだろうという目論みがあったからで、女性が対象になっても技術的には問題がない。


しかし、店の経営を考えたら女性は即戦力であり、特に優花の様に長く貢献してくれる人物はそのままバイトであった方が都合が良いのだ。


『出来れば優花さんにはずっと今のままで頑張ってほしいのですが。』


『アリサ店長もこのところの私のポンコツ振りに呆れているでしょう?私、人間である以上失敗もするし、嫌なお客さまには顔が見えなくても態度に出るから限界だと感じたんです。……それにもう30歳になるから。』


優花はずっと思い詰めていた事を一気に吐き出した。


『結婚は諦めました。この仕事は続けたいけど、人としてももう潮時かなって……。』


『優花さんのお気持ちは分かりました。会社には通しておきますがどのみち人手が足りなくなるから新しい人に来てもらわないといけませんね。』


AIも優花には隠せないと判断した様で、優花をメイド人形として受け入れるつもりだ。


『それと、今までは全て男性で女性は初めてですのでデータがありません。多少時間が掛かりますが宜しいでしょうか?』


これが優花に対するファイナルアンサーである。


『はい。宜しくお願いします。』


あまり時間が空くと考えが変わる事もあるので、今までは一気に人形化を進めてきたが、今回は事情が違う。


『あと、みかんちゃんも可奈ちゃんも知ってますよ。バイトの子にはちゃんとお話した方が良いと思います。』


これはAIでも判断が難しい。人を人形に変えるのは犯罪行為になる訳だから二人を巻き込んでしまうのだ。


そのため、バイトの女の子たちには更衣室に催眠剤を仕込んでいて、何事もない様に優花たちが働いてくれる様にしていたのだが、ある時優花が気付いて催眠剤は効かなくなっていたのである。


『みんなあなたと同じ考えではありませんよ。もし二人のうちどちらかが知り合いにお話でもしたら私たちは生きていけなくなります。それから、優花さんも人形になってしまったら一切自分の意思や感情を表に出す事は出来なくなるのですよ。』


『店長自身は別に意思があるのですか?』


『意思はないのと同じです。私は人形ですから。』


アリサは最初と同じ答えをしたが、自分の感情や意思があっても人形の身体の中に封じ込まれている事が優花には伝わった。


『分かりました。私自身は人形になる気持ちは変わらないので、手続きを宜しくお願いします。』


アリサは優花の申し入れを受諾した。

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