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メイド人形  作者: Ichiko
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メイド喫茶の1日

洗濯機に入れていた制服の洗濯が終わるとそれを乾燥機に放り込み、二人は3階に降りて店や控え室の掃除を始めた。


いつもバイトの女の子たちが出社した時はごみひとつ落ちていないきれいなお店になっている。


開店30分前の10時半になるとバイトの女の子たちが次々にやって来た。


『おはようございます。』


最初にやって来たのは優花という名前のフリーターの子で、月曜日と火曜日が休みで制服の色は赤である。


『おはようございます。新人のお人形さん?』


『はい。今日からお世話になるアリサです。宜しくお願いします。』


優花はアリサの事を人形と認識していて、アリサがいずれマリーに代わり店長になる事というのを知っている。


(秘密を知っているのに殺されないの?)


バイトとして契約をする時に口止めのなにかがあるのかもしれないが、人形にされてしまった本人ほど厳しくはない様だ。


『可愛いお人形さんね。宜しく。』


そう言いながら優花もマスクを被った。


優花らバイトの女の子のマスクは特注品だが一般的なアニメ風美少女マスクで目もちゃんと見える構造になっている。


次に出勤したのは可奈という大学生で制服の色は黒だ。


『おはようございま~す。新人さん?土日だけの出勤だけど、宜しくね!』


後ひとりは遅番のみかんという子で、名前の通りオレンジ色の制服だという情報は既にタブレットに入力されている。


分からないのは何故バイトの女の子たちが人形である自分やマリーと普通に話せるかという事だが、人形は疑問に思っても勝手に余計な話は出来ない。


多少もやもやするものの、時間になれば勝手に仕事をする様になっているために怠けたりサボったりする事はないし、教えなくてもお客さまが来店すれば接客をしてしまうのである。


『お帰りなさいませ、お嬢さま。』


お客の大半は男性だが、女性客や外国人観光客も訪れる。


外国人のお客に対しては瞬時にその客がどこの国から来たのか判断し、その客の母国語で接客をするのである。


司だった時はお世辞にも英会話すら満足に出来なかったアリサであるが、機械的でありながら流暢に会話をして、自分自身が驚いていた。


『休憩、行ってきます。』


『行ってらっしゃい。』


女の子たちは途中で休憩時間があるが、マリーとアリサは休憩はしないで店番をする。


充電切れという事がなくもないが、朝の時点で充電が完了していれば1日は持つ様に設定されている。


ちなみに充電切れを起こした場合、突然完全に切れる訳ではなく、身体を動かす事が出来ないが心は思考回路はかなり低下するものの生命を維持するために最小出力モードになる。


そのまま完全にエネルギーがなくなった時に意識は途絶え再起は不可能となり、人形としても死を迎えるからだ。


過去、マリーまで22体の人形が作られたうち、初期に作られた2体は充電切れを起こしてしまったという事故があり、その教訓からバッテリーの強化など対策が施されたという情報が伝わっている。


(普通に人間として生きるより寿命は短くなるのか。)


先輩の人形たちのデータは、出荷された後も逐一入っている。


『こんにちは。マリー、アリサ。』


優花と可奈が昼休みに行っている間にスーツ姿の男性が店にやって来た。


『武藤さん、こんにちは。』


『アリサ、問題はない?』


この男性の名前は武藤敏則といってメイド喫茶を経営、そしてメイド人形の製造販売を手掛けるカスタムドール社の社員である。


アリサは自分のタブレットを武藤に手渡すと、武藤はデータチェックを始めた。


『うん、初期異常はないみたいだね。これからもその調子で。マリー、良い後輩が見つかったね。』


次に武藤はマリーのタブレットのチェックを始める。


『私の出荷はいつ頃になりますか?』


『先方との契約の日取りが決まってないから10日くらい先になるかな?それまでアリサと一緒にここで頑張って。』


正式に契約を交わすまでが約一週間、それから2日間のメンテナンスを受け出荷というのが大体の流れなので、一週間後にはマリーはこの店からいなくなる。


『分かりました。』


あくまで個人的には感情を出す事が出来ないのだが、アリサはマリーがどのように出荷を待ち望んでいるのかを考えてみた。


(やっぱり期待半分、不安半分というところか……。)


売られた先がどんな家であっても日常業務をこなすのは変わらないが、やはりぞんざいに扱われたりはされたくないのだ。


決して感情表現が出来ないとはいえ人形には心がある。


毎日業務をこなしているうちに不満が溜まったりするとデータに現れるらしく、放っておくと異常を起こす事もあるため、毎月データをチェックするために武藤の様な社員が契約家庭を訪問しているのである。


データチェックが終わると武藤はすぐに店を出て、程なく優花たちも戻って来た。


マリーが出荷された後も何軒かの契約待ちがあり、アリサは次のメイド人形になってくれる人をスカウトしなければならないのだが、司の様に来店してすぐスカウトに乗る客は皆無であり、この先アリサがいつ出荷されるかはまだ分からない。


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[一言] とてもおもしろいです。
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